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「名目GDPは為替で説明できる」のか?

元財務官僚で数理経済学者の高橋洋一氏が自身のYouTube「高橋洋一チャンネル」で、
名目GDPは為替で説明できる」と述べ、
その証拠として名目GDPと為替(ドル円)の相関係数0.76のデータを紹介していました。
1187回 今年の経済を大予想!実は簡単な日本の株価予測 - YouTube

今回はこの主張の意味を考えてみたいと思います。


▼▼日本は内需型のはず

▽日本の貿易依存度


35.21%(世界平均43.71)
出典:UNCTAD
https://unctad.org/

▽日本のGDP構成比


消費支出:55%
政府支出:25%
企業設備:15%
住宅投資:5%
輸出入:プラスマイナス0%


▼▼しかし、自律的なGDP成長は現在絶望的

▽内需の自律的成長(政府支出・企業活動・消費支出)に期待できない

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/2020/2020_kaku_top.html
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/symposium/tokyo/siryou5.pdf
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/2020/2020_kaku_top.html
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0401.html

★政府・企業・消費者の構成要素変遷図

出典:「日本経済2007」内閣府
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2007/1214nk/07-00403-01n.html
出典:「景気循環の特徴とその変化」日本経済2004内閣府
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2004/1219nk/04-00201.html
出典:「主要な新興国及び先進国のGDPシェア」国土交通白書https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r01/hakusho/r02/html/n1341000.html
出典:「中小企業のグローバル化の進展:その要因と成果」独立行政法人経済産業研究所
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/04j037.pdf

上記図はGDPの3主体である政府・企業・消費者の構成要素を時系列的にまとめたものです。
高度経済成長期にはGDPにとってのプラス要素が集まっていましたが、年々マイナス要素が増えています。
内需の起爆剤となる財政政策の目的は「景気対策」から「財政再建」に変わって、企業活動を誘発できない。
企業自ら新しい付加価値を生み出すイノベーション力も失っている。
付加価値を生み出せないため、給与も上がらない。
給与が上がらず高齢化が進むので、消費も増えません。
従って、
内需の自律的成長(政府支出・企業活動・消費支出)は現在期待できないのです。


▽将来のGDPを示す潜在成長率を構成する要素も全てマイナス

潜在成長率の構成要素変遷図


上記図はGDPが将来的にその数値に収斂していくとされる「潜在成長率」の構成要素を時系列的にまとめたものです。
出典などは他記事「潜在成長率からみる日本の未来|akirakon」をみてください。
日本はもともと生産性やイノベーション力に強みはなかったが、外部環境要因や国内環境要因により企業設備が年平均20%上昇して、高度経済成長を実現したものといえます。
しかし現在では、企業投資へのマイナス要素が山積して、将来のGDP成長が期待できない状況に至っています。

▼▼円安による物価高と世界経済のおこぼれでGDPを増やすしかない


▽GDPと為替の関係性

為替とGDPの関係を単純化すると次の通りです。
・円安➨輸入品高騰➨国内物価高➨GDP増加
・円高➨輸入品割安➨国内物価安➨GDP低下

GDPの自律的成長が望めない現状としては
「為替➨輸入品価格➨物価➨GDP」は、GDPの重要な変動要因となっています。
つまり、消極的な意味で「名目GDPは為替で説明できる」状況に陥っているのです。

▽GDPと為替の相関性(1994年~2022年の相関係数)

出典:https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/2022/2022_kaku_top.html
https://www.stat-search.boj.or.jp/ssi/cgi-bin/famecgi2?cgi=$graphwnd
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/2022/2022_kaku_top.html
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/2022/2022_kaku_top.html
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200524&tstat=000000090001&cycle=0&tclass1=000000090004&tclass2=000000090005&cycle_facet=tclass1%3Acycle&tclass3val=0
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?
page=1&layout=datalist&toukei=00200524&tstat=000000090001&cycle=0&tclass1=000000090004&tclass2=000000090005&cycle_facet=tclass1%3Acycle&tclass3val=1


・物価との相関係数は高く、円安政策で物価上昇させることはできる
・しかし、給与との相関性、消費との相関性は徐々に低くなっていることから、円安政策でGDPの55%を占める消費支出を増やすことは難しい
・しかも、重い社会保障制度のもと、政府が財政政策を通じて需要喚起策を展開することも難しい
・消費支出はマネーサプライとの相関性が高い
・しかし、マネーサプライとGDPとの相関性は低いため、金融政策でマネーサプライ増やしてもその効果はあまり期待できない。
・むしろ、GDPとの相関性が高い雇用者報酬を増やす政策の方がGDP向上効果が期待できる。

▽輸出による経済成長への寄与度が30年で7倍以上増加

★輸出による経済成長への寄与度の変化
「いざなぎ景気」1965年10月~70年7月:8%程度
「いざなみ景気」2002年2月~08年2月:60%超え
出典:「日本経済2007」内閣府
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2007/1214nk/07-00403-01n.html

輸出による経済成長への寄与度6割越えの「いざなみ景気」は、以下のような世界経済成長の恩恵でした。
・米:利下げにより国内消費増加中
(ITバブル崩壊後の景気後退回避目的の利下げ)
・中国:「世界の工場」となり、GDPで日本を抜き世界第2位に
・欧州:ユーロ発行で欧州経済活性化


▼▼まとめ


高橋洋一氏の「名目GDPは為替で説明できる」というのは、

輸出による経済成長への寄与度が8%程度に過ぎない高度経済成長期には、誇張された主張といえ、信頼性は限定的です。


しかし、

▽輸出による経済成長への寄与度が6割を超える現在では、
内需を喚起する術が他にないことと相まって、
「円安による物価高と世界経済のおこぼれでGDPを増やすしかない」という消極的な意味では正しいと考えます。

例えば、小泉政権下の「いざなみ景気」と安倍政権下の「アベノミクス景気」がこの消極的意味のGDP増加に当てはまります。
しかし、
・輸入企業が儲かるも、日本企業の5/6は国内取引のみ
・給与は変わらず円安による物価高で日常生活は悪化
そのため、消費者には実感できない好景気でした。

従って、為替政策でGDPを増加させることが出来ても、消費者には実感できない好景気が今後続くことが予想されます。


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