ぬいぐるみについて【日記】

ぬいぐるみが好きだ。
ぬいぐるみには感情がないから、人間関係を築かなくてすむ。

わたしが望む顔をしてくれる。
わたしがほしい言葉をくれる。
ほしい言葉がなければただのかわいい物体になってくれる。

わたしの怒りにぬいぐるみは寄り添わない。
ただ、怒りの奥に隠れた悲しみに寄り添うだけ。
ぬいぐるみが怒ったら、わたしはきっと怖くなる。
その怒りがわたしに向くことは、たやすいことだから。
感情を去勢されたぬいぐるみは、怒りを知らない。

なぜかわたしのことが好き。
わたしが悪いやつでも好き。
ぬいぐるみの「好き」が重く感じたら捨てればいい。
結局は布と綿のかたまりなのだから。

そういう対等とはいえない関係のなか、ぬいぐるみを愛でている。
ぬいぐるみに感情があるとは思わない。
けれど、そこに投影された感情はある。

他者にはなり得ない他者としてぬいぐるみがある。

小さいころ、15体くらいのぬいぐるみと暮らしていた。
人間のかたちをしたものは1体もいない。
全員どうぶつのかたちをしていた。
その種の臆病をずっと抱えて生きている。

悪いことをすると、色とりどりの目がわたしをさいなんでくる。
怒りはしないけど、目はわたしを見ている。
罪悪感を喚起するにはそれで充分。

毎晩抱きしめてねむる。
かわいい服を着せる。
落としたら、ごめんねって頭をなでる。
ぬいぐるみに命が芽生えないことを祈りながら。

ぬいぐるみはやわらかい。
かわいい顔をしている。
わたしを愛してくれる。
かたまりだと思う。
エゴのかたまり。
わたしに都合のいい存在が、布と綿でできている。

こわい。
ぬいぐるみがこわい。
やめてほしい。
千々に乱れつつ、ぬいぐるみを抱きしめる。
押しつぶすことはいつでもできる。
ひよわなわたしでも勝てるように、ぬいぐるみはできている。
その優しさがこわい。

結局、押しつぶすことはできなかった。
捨てることもできなかった。
ぬいぐるみはかわいい物体のまま、わたしを見ていた。

おわり。



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