鉄塔に青、空の私
飛べると思った。
雨が降り続いたあとで湿り気でいっぱいの重苦しい空気から、うすいうすい膜で隔たれた周囲との空気感の違いからも、すべてから飛んでいけると思った。
普通になりたくなかった。小さいときに夢見た、理想の自分だ。周りと違うことがいちばん偉くて、個性を渇望していたように思う。周りとおなじであることを辞めたくて、周りと差をつけるようになった。下に、下に降りていった。周りに埋没してしまわないように、見つけた一縷の自分の個性を逃がしてしまわないように、下へ下へ、周りとの差をつくった。
ああ、そんなことを。私が周りと違うこと、普通じゃないこと、ああ、これこそが、気持ちいい。
束の間、ふと降りきったその場所をみとめる。なんてキレイな世界だろう。うつくしく、醜くて、こんなにも人間。
普通になりたくないこと、周囲と比べながら生きること。私はずっとその思いに縛られて生きていた。普通であることがいちばん普通じゃなくて、普通になれなかった私はもう、普通になれないことに気づいたとき、私は飛んだ。
飛べると思った。流れていく自分の感覚と感情を握りしめて離さないように。普通でなくなった愛おしい私を忘れてしまわないように。
下にばかり向かっていた私、はじめて上を目指す。上に、上に。そうしたら空になれるから。この世の中でいちばん普通でのっぺりとした気持ち悪い青になれるから。
鉄塔に登りきった私は、飛べなかった。
自ら普通を選んでしまった。その普通はあまりにも当然にやってきて、私を気持ち悪い青に変えてしまった。