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【アークナイツ】「サルカズ」考察―テラ人類とサルカズについて

「アークナイツ」の大きなテーマには「差別」がある。

メインストーリー第八章まではウルサスのチェルノボーグ、炎国の龍門を舞台として鉱石病感染者のみで構成される感染者組織レユニオン・ムーブメントによる感染者の復権運動が描かれた。

第九章以降から現在展開されているストーリーはヴィクトリアを舞台としたサルカズによる復権運動が描かれている。彼らの復権運動は暴力を用いて行われており、それゆえにストーリーにおいては「敵」として描かれている。

しかしそのような暴力による復権運動に至るまで、サルカズはどのような歴史を歩んできたのかを認識しなくては、サルカズによる復権運動の正しい評価は難しいように思える。

本記事はそのようなテラにおけるサルカズ及びカズデルの歴史に目を向けて、現在公開されている情報を整理することを目的とするものである。


テラ人類

テラの「人類」は大別して3つのグループで構成されている。惑星テラの先住民的存在であるティカズに起源をもつ「サルカズ」、そしてティカズとは起源を異にする「神民」と「先民」である。以下では先民、神民、サルカズの順にそれぞれ整理していく。

先民

先民/コータス

先民とは現在テラで最も多くを占める種族の総称であり、フェリーンやペッロー、リーベリといった種族が代表的である。先民は次にみる神民と比べて寿命や身体能力で劣る面があるものの、生殖能力が非常に高く、短期間で人口を増やすことができたためにテラの歴史のなかで存続し続けることができたとされている 。

先民の人口増加は彼らの種族的文化的特性に由来する側面もあり、特にコータスがその一例となる。コータスは平均的に体格が大きくないものの、発達した聴覚器官と鋭敏な反射神経を有している。これにより危険を事前に察知し、また急迫の危険を回避することに役立っている。加えてこうした体格不足を補うためにレム・ビリトンに住んでいたコータスは一般に集団生活を選び、現代国家以前の部落時代において多数の家族が結束し強固な内部関係を持つ独特の「大家族」という文化を発展させた 。この「大家族」の文化は鉱業の発展した現在においても一部のレム・ビリトン人に受け継がれており、一つの鉱区を基準として当該鉱区で暮らす者を「大家族」と形容し、鉱区の大人全員で鉱区に生まれた子どもを育てることがあるようである 。

しかし、幼くして母が不在であったという環境は、ウォーミーにそれほどネガティブな影響を与えなかったようだ──それは鉱区の大人の誰もが、ウォーミーの「保護者」として役割を果たし、彼女を育てたからだろう。一部のレム・ビリトン人が一つの鉱区で暮らす者を「大家族」と形容するように、鉱区はレム・ビリトンにとっての末端の政治単位であるのみならず、労働生産を通して価値を生み出す欠かせない場所でもある。加えて、鉱区は個々の家庭を強く結びつける力を持つ──故にここでは、どの子供も等しく鉱区の子なのだ。

ウォーミー第二資料

コータス以外でもフェリーンのように環境への高い適応能力を有する種族や、ペッローのように家族、友人といったコミュニティの重視により生息域を広げた種族も存在する。他方でウルサスやクランタのように高い身体能力により過酷な環境でも生活することができたことで繁栄した種族もいれば、サヴラのように長寿という種族特性により生活の場を確保してきたものも存在する。

こうした種族の特徴は同時に各種族をステレオタイプ化するものもあり、それによる偏見も存在している。しかし、この種族間の違いは社会的に大きな問題となってはいないとのこと。これは天災に対抗するために人類が可能な限り団結しなければならなかったことに加え、鉱石病の脅威が日に日に増大していることから、相対的に種族間の差異が差別の種となりにくい環境が形成されたという事情によるとのことである。

神民

神民/ククルカン

神民と先民を分ける基準は明かされていないものの、かつてのテラにおける統治階層を占めていたのが神民である。古い神民は先民と比べて強固な体、遥かに長い寿命、そして神の如き強力なアーツを有していたようであり、それゆえにテラにおける統治者としての地位を有していた。近代的統治体系以前の社会において種としての強大さが統治者としての正統性をもたらしたということである。

しかし、テラ歴11年になされたナイツモラのハランドゥハンによるウルサス東部からの征服の旅が神民統治を覆すきっかけとなった。

「RETRACED TERRA」

ウルサスのヒッポグリフが討伐されたことで後のウルサスの蜂起へと繋がり、カジミエーシュは神民ペガサスの軍が破られたことで統治が覆り騎士領連合の結成がなされた。その後ヴィクトリアへの遠征はハガンに対抗するためヴィクトリアとドラコにより建国されたターラーとの併合の契機となり、ガリアとリターニアにも大きな勝利を収めたことで、テラの文明の歴史を大きく動かすこととなった 。

こうして神民の力によるテラ国家統治の基盤に生じた傷は、テラ歴31年に起きた先民の神民権力への挑戦により致命傷へと至ることになる。後にウルサスの蜂起として描かれる先民ウルサスによる神民ヒッポグリフへの反乱は、これにヒッポグリフが敗北をしたことでテラ諸国における神民統治の正当性を失わせていくこととなる 。

テラ暦31年、ヒッポグリフ帝国が正式にウルサス帝国に名前を変更した。この辺りの歴史はすでに二度の講義に渡って分析と討論をしてきた。
学界では、ヒッポグリフが君主の資格を失った起因は、統治階層の腐敗と無能さ、また同時期に起きたウルサスの台頭にあるとの見方が一般的だ。ウルサスは当時生産面の社会的機能を担っていた。
この戦争はウルサスの蜂起として描かれ、先民の神民権力への挑戦を表している。これより後、テラ諸国において神民は徐々にその地位の正当性を失っていった。

「光冠残蝕」10-19 遠くの星火

その後神民は長い時を経てかつて有していた強大なアーツの力を失い現在は他の先民種族とさほど変わらなくなり、残ったのは長寿と神民として維持されてきた血統となっている。

サルカズ

サルカズ/ウェンディゴ

サルカズは単一の種族ではなく、テラの先住民族としてのティカズに起源を有する多種族の総称である 。そのため一口にサルカズといえど、そこにはブラッドブルードやナハツェーラー、サイクロプスやリッチ、変形者、レヴァナントといった種族が存在している。またラテラーノのサンクタや炎国のアナサのように元はサルカズの一種族であったが歴史上独立し、現在ではサルカズと呼ばれない種族も存在している。

サルカズの多様性から各種族間で外観に大きく異なる点もあるが、一般的には頭部の黒い角、長く尖った耳、先の尖った尾などの特徴が知られている。サルカズの一部はキャプリニーと似ているようであるが、キャプリニーからしてみれば角の形は一目で分かるほど違うとのこと。テラの住民はこれらの特徴を見てサルカズか否かを判別することが多いため、これらの特徴を隠すことでサルカズであることを隠すことができ、サルカズのなかには自ら角を切り落とすことで先民のコミュニティに溶け込む者も存在する。「ニアーライト」に登場したトーランドはその一例である。

サルカズは種全体として比較的長寿である。比較的長寿として知られるサヴラでも150歳で珍しいほど長生きとされるなか、テレシスやテレジア、logosの母親のように200歳を超えているサルカズがちらほら見受けられる。またブラッドブルードのような不老不死もいるため、サルカズ種族のなかでも寿命には相当の隔たりがあるようである。しかし源石に対する耐性が先民等と比べ低く鉱石病に罹りやすい種族であり、鉱石病及びアーツの使用による進行により必ずしもその長寿を全うできるわけではないようである。

他方でこうした鉱石病と長寿はサルカズにアーツや戦闘技術の修練を可能とさせ、血脈により支えられる古の巫術の継承と洗練を実現させており、これが後述する先民らへの対抗を可能とさせた由縁でもある。

鉱石病と傭兵

鉱石病との関係

サルカズの差別の歴史は鉱石病の感染から始まった。最古のカズデルが最も早く「源石」に接触したことで最古の感染者が生まれ、テラを脅かす鉱石病が誕生した。

最古のカズデルは、どの文明集落よりも早く「源石」に接触した。
あれは天災の遺跡でも、地層の中で静かに堆積した鉱物でもない。一つの古い「源石」だ。
それによって最古の巫術と……最古の感染者が生まれた。

「悪兆渦流」13-22 蓄積された災厄

鉱石病の感染経路は活性源石粉塵の吸入や活性源石との血液接触、母子感染などであり、科学的な研究が進められている。しかし、このような感染経路の理解があろうと未だに鉱石病を理由とした差別は根強く、特に鉱石病に罹りやすいサルカズは災いを広める害虫、魔族として忌避されている。特に母子感染がある以上、サルカズ間の子は生まれながらにして鉱石病感染者である可能性が高いこともその一因となると思われる。

鉱石病を恩恵だとでも思っているのか?
無数のサルカズが、生まれながらにしてこの呪いを背負う。臓腑は膿み、身体が爛れ――君たちは我々を災いを広めるただの害虫として、都市から駆逐する。

「光冠残蝕」10-13 交差点

こうした誤った鉱石病への認識により先民と神民によるサルカズの虐殺が行われたと考えられる。当然サルカズは自己の国を守るために対抗するもサルカズの故郷カズデルは神民たちにより破壊され、その度に再建するもまた破壊され、最終的に三千四百二十一回カズデルは滅ぼされた。これらのカズデルの滅亡については後に触れるが、カズデルの存続をかけた幾重もの戦争によりサルカズと他種族との間に溝が深く刻まれることとなる。

この大地は、かつてサルカズだけのものであった。先民と神民が我らの祖先の手から故郷を奪ったのだと。
レヴァナントは、まだサンクタの裏切りを囁いている。王庭は秋葉のごとく衰え、血脈は悲しみの叫びの中で失われていく。罪人たちは滑稽なほどに歴史を忘れ、カズデルの廃墟はテラの至る所にある。
そして、彼奴らは、こう騒ぎ立てる――
――「サルカズが我々の故郷を侵した」と。

「淬火煙塵」11-4 理想とは

ところで、テラにおいて「現代国家」の概念は移動都市の誕生と共に打ち立てられたものであり、それ以前の「国家」とはただの集落だったという。

「現代国家」の概念とは、移動都市の誕生と共に打ち立てられたものなのです。
かつて、「国家」とはただの集落でした。共同で生活していた人々が天災の下に集い「国」を成したのです。国境とはすなわち、人々の視野の境界線でした。

「吾れ先導者たらん」GA-8 影と灰

移動都市は国家が天災からの避難を可能とするために建造された都市である。移動都市概念のなかった時代には天災が国を襲えば住民は国を捨てて避難せざるを得なくなる。天災が通り過ぎた後は源石がよく残されており、また源石には天災を誘発するという特性を持っている。そのためおそらく古代の神民らは、天災により故郷が破壊され、破壊された故郷には鉱石病の原因でもある源石が多量に残されている。サルカズが鉱石病をこの地に持ち込んだ種族であるとの認識から、源石をかすがいとして天災もサルカズが引き起こした呪いである、という思考をしたのだろうか。

いずれにせよ神民と先民による殺戮と最初のカズデルの破壊から、サルカズと神民らとの対立が始まることとなり、現在のテラ諸国におけるサルカズの拒絶が基礎づけられることとなる。

サルカズ傭兵

こうした鉱石病によるサルカズと先民らとの対立はカズデルの再建と破壊を通じて暴力の形を伴い、戦乱の地で暮らすサルカズに傭兵として生きる道を示すこととなり、現在ではサルカズにとって傭兵として活動することが主流となっている。

サルカズ傭兵。カズデルの内戦が収束──少なくとも表向きには──する前から、カズデルの荒涼なる大地の上で、最も目にする機会の多い武装集団である。彼らは部隊単位で行動し、ある時は莫大な財力を有する貴族に抱えられ、ある時は自発的に傭兵同盟を結び、生計を立てている。戦乱の地であるカズデルでは、人の死生観も価値観もほかの地域と大きく異なり、傭兵として活動することが主流となっていた。

W第二資料

こうしたサルカズ傭兵はカズデル内部のみでなくヴィクトリアやリターニアといった他国勢力も用いることがあり、テラの近代戦争においてサルカズ傭兵は無視することのできない存在となっているようである。他方でサルカズ傭兵はサルカズを殲滅するために雇われることもあるようであり、生きるための術がサルカズの殺し合いを生み出した結果となっている。

こうしたサルカズ傭兵ないし戦闘を生業とする生き方はサルカズが粗暴で野蛮であるという印象を他種族に与えることとなり、これが更にサルカズを拒絶する一因となる。としてもカズデルが何度も破壊され、放浪生活を送るサルカズは識字率も低く、教育も後回しにせざるを得ないことが予想される。そうすると他種族からの拒絶も相まってサルカズが他の職で生計を立てることも難しく、結局は傭兵稼業へと進み、それがサルカズの上記印象を強化する……といった負のループが形成されているのかもしれない。

カズデルと魔王

以下ではサルカズの都市カズデルと魔王について概観する。

三王時代

最初のカズデルが神民と先民によって壊滅させられた後千年もの間カズデルは都市ではなく小さな集落に過ぎなかった。しかしその後「土石の子ら」 により灰色の城壁が築かれ二つ目のカズデルが誕生する。ここにいう「土石の子」はおそらくアンズーシリックと思われる。この二つ目のカズデルには譴罰族の炎魔バロルサッカ、「遊侠領主」クイロン、そして「魔王」ゴルドルが集結していた。二つ目のカズデルは七〇〇○年前、テラ歴でいえば紀元前六〇〇〇年頃に建てられたこととなる。

その影たちが語っているのは、カズデルと呼ばれるに値する都市の中でも二つ目に築き上げられたものについてですわ。
最初のカズデルが神民と先民たちによって壊滅させられた後、千年もの間、カズデルは垣根と茅葺きを積み上げただけのごく小さな集落に過ぎませんでした。
脆弱で壊れやすく、植民者の意志によって幾度となく蹂躙され、サルカズたちも次々に亡命していきました。
そしてこの時代に、また力を蓄えたサルカズは再び……真の都市を築き上げたのですわ。

「悪兆渦流」13-4 傭兵の一日

ただし、二番目のカズデルは裏切りにより破壊された。

バロルサッカの裏切り

魔王ゴルドルを裏切ったものが誰かは明言されていないものの、次の記載からバロルサッカによる可能性が考えられる。

灰色のカズデルが炎魔によって葬られた。
炎がすべての部族のテントを呑み込み、焼き跡を残していく。
そして炎の怒号と慟哭が私の耳に届いてきた。
なぜ我々は今も屈していなければならない! なぜ我々は今も臆病なままでいるのだ!
貴様らはこのままでいいのか?
貴様らはこのままでいいのか!?
ならば、貴様らに代わって――
廃墟の中で、古の同胞たちが地に膝をつきながら泣いている。
魔王が死んだ。
魔王が魔王を殺してしまった。

「悪兆渦流」13-20 たぎる血潮

歴代魔王には「譴罰の旅に発った炎魔」や「畏れ無き災いに怒号を発したゴリアテ」がいるとされている。クイロンの種族をゴリアテと仮定した場合だが、エルマンガルドがバロルサッカ、クイロン、ゴルドルを並列して「魔王たち」と呼び、クイロンが魔王となっていることからバロルサッカも魔王になったと考えられる。「灰色のカズデル」は二番目のカズデルの灰色の城壁と合致し、魔王による魔王の殺害、炎魔により葬られたとの記載から、ゴルドルをバロルサッカが裏切ったと考えられる。

裏切りの理由はわからないものの、上記の内容から、神民と先民によるサルカズの虐殺が行われた過程で故郷を失い城壁の中に追いやられたことに憤りを感じたことに由来すると思われる。一方で「貴様らに代わって」という文言からゴルドルはそのように考えていなかったと思われ、サルカズ内部での神民・先民に対する反抗への立場の違いによる内紛と推測される。

クイロンの時代

その後クイロンがサルカズの王位を継いだ後にカズデルの再建を計画する。しかしクイロンは西方のサルカズの迫害を認識したため、一部の部族を率いて東へと移ったという。この時にクイロンに付いていき炎国の北西部の砂漠に留まった部族が後のアナサと考えられる。

クイロンは仁愛に富む君主と呼ばれていたが、再度裏切りに遭うこととなる。クイロンが率いていたサルカズは裏切りによって戦士でないものまで虐殺されることとなり、クイロンの時代はサルカズの際限なき怒りとともに終わりを迎えることとなる。

「再び謀反だ! 奴らは協定を破り、我らの駐屯地を襲撃した!」
「駐屯地に集うは一般人、あれらは兵士に非ず! 抗う力を持たぬ無力なサルカズの民だ!!」
「何故我が妻と子を殺す? 何故我が民はこれほどまで不等な扱いを受けねばならぬ!?」
「何故我らは生きることすら許されぬ!?」
「我らはただ、安寧の地を願っただけだ!  我らはただ、生きていく場所を求めただけなのだ!」
「我らがサルカズだからか!?」

「怒号光明」JT8-2 瞠目の先に「黄昏」

クイロンの時代は裏切りによるものであったが、その描写からカズデルへと侵攻してきたのは神民と先民であることが読み取れる。西方での迫害を逃れるために東方へと移り住んだ先で、サルカズはまたも迫害の憂き目に遭うこととなる。

後の時代

クイロンの時代のあと魔王となったものの中にはブラッドブルードの大君曰く「軟弱者」が現れたという。ブラッドブルードの大君はカズデルとはテラの大地全てを示すものと考えていることを考慮すれば、ここにいう軟弱者とは本来のカズデルではなく、一つの都市としてのカズデルの権力者として居座り、テラ諸国への反旗を翻そうとはしなかったものということと思われる。

そのような者の一人がブラッドブルードの大君の兄であり、後に「血塗れの王子」の伝説として語られることになる人物である。ブラッドブルードの大君を含めたサルカズにはこうした軟弱者による統治を許すことができないものもあり、ブラッドブルードの大君の手によって殺害されることとなる。

その後魔王の王冠は流浪者、ただの木こりへと移り、ケルシーにより殺害された次代の魔王へと受け継がれることとなる。

ケルシーの侵攻

時代が進みテラ歴893年にカズデルは再度の破滅を迎えることになる。

「テラ歴893年、サルカズ人の国都が再び灰燼に帰してしまいました。」
「それにより、多くのサルカズ人は信念と勇気を完全に失ってしまいました。」
「そして彼らは逃げることを選びます。故郷に積み上がる瓦礫、そして自身の運命から逃げるため、異国を目指したのです。」
「ガリアからヴィクトリアへ、そして今のクルビアへ。」

ヴィグナモジュール「ザ・グレイトロック」基本情報

893年の侵攻は誰が行ったか明言されていないものの、ケルシーによるカズデル侵攻があったことは明言されている。これがヴィクトリア事変(1098年)の約200年前なので890~900年頃のこと、このカズデル侵攻で誕生したサルカズの六英雄にはテレシス・テレジアも含まれていること、ケルシーが200年前にテレジアのそばで復活したという情報はケルシーがテレジアらと敵対し一度死亡したことを示すため、おそらくここで侵攻が終了したと考えられる。

加えて十章冒頭の会話より今のカズデルの再建に二百年かかったこと、戦争後各地に散ったサルカズを呼び戻したと記載されていることから、ヴィグナのモジュールで言及されている893年の戦争がケルシーによるものだと推測される。

ケルシーはヴィクトリア、リターニア、ガリアといったテラの大国で構成される連合軍を率いて侵攻を開始。ケルシーは周辺諸国の安定、今後200年の平和のためになされたとされているが、当時サルカズが何を企てていたのかは現状不明である。893年のカズデルの破壊は都市のみでなく当時のサルカズ人の対抗の念も打ち砕き、多くのサルカズ人がカズデルの再建を諦め、ガリアからヴィクトリア、クルビアといったテラ各地へと散り散りに分かれることとなる。

「淬火煙塵」11-17 答えよ

あのフェリーンは誰だ? 蒸気騎士が彼女の背後に立っている。彼女はヴィクトリアの将校か? しかし高塔の術師とガリアの砲兵までも彼女の指揮に従っている。
彼は、彼女がサルカズの罪を言い渡すのを聞こえた。
「私はサルカズが企てている大望を余すことなく知っている。憎しみは不治の病であり、君たちの復讐は大地に癒えることのない傷跡をもたらすだろう。」
「周辺諸国の安定のため、今後二百年の平和のため、野心は事前に滅ぼされなければならない。」
大火があらゆる方向からカズデルに襲い来る。また一つ、カズデルがもうまもなく廃墟と化す。無数のサルカズがこの大火の中で次々と亡くなり、逃れた者にはさらなる不幸が訪れるだけだ。
なぜ私を殺すのか?
我々の起源が異なるからか? この大地はもう我々の恨みを担いきれず、それゆえに事前に我々全員を消し去ろうというのか?
六名の英雄が廃墟の中から立ち上がる。彼らは燃えるカズデルの旗を掲げ、目の前の大軍へと突き進む。

「淬火煙塵」11-17 答えよ

ケルシーにより当代の魔王は殺害されることとなる。これによりケルシーは魔王の権力、すなわち「文明の存続」の回収を図ろうとしたが、テレジアが黒い王冠を拾い上げたことで、次代の魔王テレジアが誕生することとなる。

我々は当時の魔王の首を落とすことに成功した。完全なる勝利に爪をかけ、計画に基づき、魔王の権力は回収されるはずだった。
私は生じうるあらゆる可能性への対応策を用意し、潜在的な魔王の継承者を全員自分の監視下に置いた。
だがテレジアは、あの瞬間……黒い王冠を拾い上げることを選んだのだ。

「驚靂蕭然」12-11 時は待たず

以下ではテレジアの時代とバベルに関して少し詳しく見ていこうと思う。

テレジアとバベル

テレジアの時代

テレジアはケルシー率いる連合軍との戦争で台頭した六英雄の一人であり、ヴィクトリア事変を引き起こしたテレシスの妹である。連合軍との戦争に勝利した後に黒い王冠を手にしたテレジアは、テレシスを摂生王としてカズデルの魔王となる。

テレジアはテレシスとともに戦争後カズデルの再建に取り掛かっていたようであり、テレジア主導で移動都市のプロトタイプを作成していた。カズデルを移動都市とすることで、天災のみならず、サルカズを拒むテラ諸国による攻撃から逃れることができるとの目的があったようである。

ヘドリー
だが内戦の前、テレジア殿下主導のもとで、カズデルには移動都市のプロトタイプが生まれていたんだ。
エルマンガルド
航路を計画し、生産を安定させ、カズデルを確実に移動都市へと変えた意義を確保する。サルカズにとっては、他の人々の敵意こそが天災なのですから。・・・

「悪兆渦流」13-4 傭兵の一日

その一方でテラにおける現代国家の概念は移動都市と結び付いていることもあり、カズデルの再建は他の国家からすればサルカズの国の台頭となるため、諸外国による再興の妨害が懸念されていた。

テレジアはアスランやドラコ、フェリーンといった先民、神民とサルカズが共存するという理想をテレシスに語っていた。これに対しテレシスを中心とした軍事委員会は外界(テラ諸国)からの圧力を受けて徐々に軌道を外れテレジアの話に耳を貸さなくなり始めたとされている。こうしたテレシスの態度はこれまでの先民たちによる迫害や圧力を考慮すれば、テレジアの理想が現実になることはありえないという判断なのだと思われる。

こうしてテレジアがテラ諸国との共存を願ったのに対し、軍事委員会が戦争によりテラ諸国に対抗する道を選んだために、両者の間に対立が生じカズデルでの内戦が勃発することとなる。

ケルシーとドクターの参加

ケルシーは連合軍を率いての戦争においてカズデルを滅ぼしたが一度死亡しており、テレジアの側で生き返ったとされている。生き返ったケルシーとテレジアは互いに連絡を取っていたようである。なぜテレジアがケルシーと連絡を取るようになったのかは不明だが、以下の記述からおそらくは戦争後さほど遠くない時期に両者が再開し、意見の合致を得られたものと思われる。

彼女は破壊されたカズデルに視線を向ける。
魔王の伝説に触れるのはこれが初めてではない。
その古の力を再び手にし、利用することを考えたのは長い年月の中で一度や二度ではなかった。
・・・・・・
「ケルシー。これが……あなたが前回歩んだ旅路なのね。」
「実際には、君が見たものよりさらに果てしなく、何千何万倍も長いものだがな。テレジア。」
「それでも私は今、初めてあなたを――私の敵を、理解できたのかもしれないわ。」
「……同感だ、サルカズの王よ。」

ケルシーモジュール「Mon2tr」基本情報

テレジアとケルシーはサルカズと他種族との間に大した違いがないこと、どちらも源石により似たような存在に変えられてしまったこと、双方が争い合う現状が未来に繋がるものでないこと、そしてケルシーが憂慮していた可能性をテレジアが理解したためバベルを設立したとされている。当該可能性がいかなるものかはわからないものの、「この大地に残された時間」がそう多くないと述べていることからボイスで言及された源石によるテラ崩壊の可能性だろうか。

天穹を突き抜けた源石が双月を鹵獲し、結晶は胞子のように宇宙へと散る。そして、生命と死物に触れ、同化する――これがテラ以外で発生している事象だ。源石は全てを腹の中に吞み込み、万象を内に包ね隠した混沌を生み出す。だがテラはまだ手遅れではない。君が我々の側にいるのだから。

ケルシーコーデ「名残」着用時昇進後会話1

バベル設立後のテレジアはケルシーにカズデル内部の状況、特にテレシスと軍事委員会の情報を伝えていたようであり、同時にケルシーの説明に従って「ロドス・アイランド」の発掘を行いこれを発見した。これによりテレジアとケルシーが合流し、ロドス・アイランド号を拠点とした活動が始められることとなる。

親愛なるケルシー士爵
先日、あなたの予想通り、サルカズ衆王庭の重臣たちがテレジア殿下に謁見しました。 古き血族はテレシス将軍に対して多大な敬意を払いましたが、バンシーの主は最年少の継承者を遣わしただけでした。
……テレシス将軍および軍事委員会は、カズデルの台頭がいかなる国家勢力にも干渉されないように取り計らっています。 数十もの移動都市を建設するのに十分な建築資材が将軍の監督の下、カズデルに届けられました……
以下がここ一ヶ月に起こったすべての報告内容になります。
・・・・・・
ケルシー
(これはテレジアの筆跡……)
・・・・・・
レム・ビリトンの探索チームから新たな報告が届いたわ。 あなたの説明と合致する遺跡の手がかりが見つかったのよ。 でもまだ断片的で、きっと大変な作業になると思う。 全てを掘り起こすには恐らくかなりの時間が必要になる。でも――
――ケルシー、あなたは…… 「ロドス・アイランド」が何を意味するか知ってる?

「遺塵の道を」WD-8 大雪来たれり

その後ケルシーはドクターをテレジアに紹介し、バベルにドクターも参加することとなる。

ケルシーとドクターが参加した後もテレジアとテレシスの対立は本格化していく。上述のような意見の対立に加え、ケルシーやドクターを含めて他種族がサルカズの魔王と協力関係にあることに不満を抱くものも現れたからであろうか。テレシス率いる軍事委員会が多くの指示を得るようになり、テレジア率いるバベル側は厳しい立場へと追いやられることとなる。テレジアはカズデルで不必要な犠牲を出すことを防ぐためにカズデルを離れることを決断する。

その後1094年に「テレジア斬首作戦」なるものが行われテレジアが死亡する。目的や手段は現状不明だが、ドクターがテレジアを殺害したとされている。テレジアは死亡する前にアーミヤに魔王の権限を移譲しており、これによりテレジアの時代が終わることとなる。

「アークナイツ」ティザーPV3

「魔王」アーミヤ

アーミヤはテレジアにより「魔王」の力を継承されたがブラッドブルードの大君やレヴァナントを含めてサルカズからは決して歓迎されていない。この理由としては上述のように、そもそもサルカズにとって迫害の歴史を歩まなくてはならなくなったのは先民・神民が原因であり、そのような先民のコータスがなぜサルカズの王になろうとするのかという考えがある。

加えて「サルカズ」という言葉は「根無し草」という意味であり、加害者だる先民らがティカズを呼ぶ際の蔑称であり、これを被害者たるティカズが団結のスローガンとして用いたものである(いわゆるReappropriationに似たようなものか)。しかし、サルカズは非暴力的手段により偏見を解くのではなく、暴力により先民らの支配を排除しサルカズ優位の社会を作ろうとしている。そのため、集団外の人間がサルカズを代表するということに憤りを感じるものも多いのだと解される。

こうした障壁に対するアーミヤの行動についてはメインストーリーで語られるため、そちらを参照してもらいたい。

なお、魔王の力や「文明の存続」については以前書いた記事があるため、そちらも参照してもらえればと思う(余裕があれば改訂予定)。


結び

以上でサルカズに関する情報の整理・考察を終わりとする。現代的価値観では暴力による革命は受け入れられないものの、紀元前より社会から隔絶された種族であるサルカズにとってもはや非暴力的手段による解決は不可能な状況にあり、またそのような状況に追いやったのは差別をしてきたテラの先民・神民たちであることに目を背けることはできない。

今後のメインストーリーやイベントにおいて、サルカズの問題が良い方向へ解決することを望むばかりである。



記事の感想批評、その他あればこちらにどうぞ。


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