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2024上半期読了本・論文紹介

本記事は筆者が2024年上半期に読み終えた本や論文(判例評釈は除く)の一部を簡単に紹介するものである。司法試験や個人の興味も含めて、アークナイツ関係なしに読んだ本も含む。

これらの本が私の思想を作っているので、これらの本を読めばだいたい私が書こうとする考察記事は書けると思われる。


1月

①スーザン・バンディズ編、橋本祐子・小林史明・池田弘乃訳『法と感情の哲学』(勁草書房、2023)

「法と感情(Law and Emotions)」という研究領域に関する論文集。従来、それこそホッブズの『リヴァイアサン』ないしそれ以前から法という領域において感情は可能な限り排除し、理性によって法を実践すべきというのが法学の主流な考えだった。簡単に言えば、「法と感情」は認知科学の発展に伴い法学の場における理性と感情との二項対立的捉え方を克服し、感情が認知、意思決定、行動にもたらす影響等を解明し、法の領域において感情が果たすべき役割を明確にすることで、法の理解を進めようとするもの。

認知科学自体比較的新しい研究分野であることに加え、日本ではマーサ・C・ヌスバウムの『感情と法:現代アメリカ社会の政治的リベラリズム』の訳書出版が2010年、日本法哲学会が「法と感情」をテーマにした学術大会を開催したのが2021年という状況で、この本が出版された。

2023年12月下旬から開催されていた『空想の花庭』、そして2024年4月開催の『ツヴィリングトゥルムの黄金』でアルトリアとフェデリコが重要人物として登場することから、ジアロ姉弟の関係性を紐解くのにも使えるかと思い読むに至った記憶がある。司法試験が終わったら改めて読み記事を書きたい

②山本龍彦編著『AIと憲法』(日経BPマーケティング、2018)

プライバシー(13条)や個人としての尊重(11条)といった憲法上の権利、あるいは自己決定へのAIの介入、あるいは人格、選挙制度、裁判、民主主義といった憲法原理ないしは法制度とAIとの関わりについてを山本龍彦他法学者が論じた本。

2018年に出版されていることから、現在のAIリスクとは少し異なる部分もあるが、大量のデータを収集し、学習し、そして判別ないし判断を行うというAI像を想定しており、そこから事前予測により、犯罪をしやすい傾向にあるや離職可能性というような個人の評価や分類をすることで起きる問題に触れ、果たして憲法秩序とAIとの調和的な社会の実現を目指すにはどうすればいいかを探る良書。

1月15日時点版の文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」の素案が残っているため、恐らく生成AIの議論を調べるついでに読んだものと思われる。

③榎本武文『ルネサンスにおけるキケロ主義論争』一橋大学研究年報,人文科学研究36巻

④高畑時子「キケローのフーマーニタース(Humanitas)」Studia humana et naturalia (教養教育紀要)No.38 (2004)

どちらも読んだ記憶はあるがあまり(全く)内容を覚えていないので、おそらく途中で止めたか理解できずにスルーしたと思われる。ちょうど法科大学院の後期試験=卒業できるかがかかった試験の時期のため、理解に時間がかかると思い、さらっと読んで流してしまったのだと思う。論文ファイルには入れているので未来の私が読むだろうと思っていたと解される。

時期的にもこの記事を書いていた最中であり、下書きにキケロの思想をまとめようとした形跡もあるため、ミヅキローグライクにおけるキケロの立ち位置をまとめようと試みたのであろう。

⑤園部逸夫・藤原靜雄 編 個人情報保護法制研究会 著『個人情報保護法の解説 第三次改訂版』(ぎょうせい、2022年)

個人情報保護法の逐条解説本。法学特有かと思われるが、法律の条文を一条ずつ細かに意義、要件、効果等を解説するものを逐条解説ないしコンメンタールといい、園部逸夫らのものは個人情報保護法の立法担当者らが手ずから解説を行ったもの。個人情報保護法の逐条解説だとこれか宇賀克也のものを参照するのが良いと思われる。

個人情報保護法は行政法の一内容として学んだ程度だったが、この時期にとある方からご相談を受けて個人情報保護法や行方不明者を捜索する方法等を調べていたので、それに用いたもの。なお相談者の力になれたかは不明である。見つかっているといいな

2月

⑥スティーブン・シャベル著、田中亘・飯田高 訳『法と経済学』(日経BPマーケティング、2010)

2月に読んだというより、2月にようやく読み終えた本。8ヶ月以上かかった気がするが、理解できたとも到底いえないので、また読まないといけないと思う。

「法と経済学」とは経済学の観点および理論を用いて法的理論を再解釈するという法学の学問領域。一例だが、刑法において犯罪者の意思決定がどのようになされるのかを経済学的観点、つまり検挙率や刑罰の重さ等を考慮して犯罪をすることで得られる利益と喪失する利益を比較考量して前者が高い場合に犯罪が行われるというようなモデルを考え、そのようなモデルを想定した場合に犯罪を抑止するにはどのような制度を整えるべきかを考えるようなもの。他にも契約だったり交通事故、家族法等色々な分野との融合がある。
1960年頃から発達してきた学問領域のため比較的新しい分野といえる。

法と経済学の講義が面白かったのもそうだが、アークナイツの考察ないし登場人物の行動原理の理解、特に『ダーティマネー』でジェシカが銀行強盗をする(犯罪を犯す)と聞いていたので、その行動の理解にもしかしたら役立つかと思ったが、今のところそもそも『ダーティマネー』他多数のイベントストーリーを読む暇が無いせいで役には立っていない。これも司法試験が終わったら記事で書きたい。

⑦片山等『「学問の自由」,「大学の自治」と大学内部の法関係 (1)』比較法制研究27巻

これはシンプルに司法試験の勉強で学問の自由、大学の自治、東大ポポロ事件の理解を抑えようとして呼んだもの

2004年と少し古いがポポロ事件以降であまり大学の自治に関する最高裁判例を見ていないためいけると思ったが、まさか6月に入って東大で大学の自治ないし学生の大学の自治の主体に関する事件が再来するとは思っていなかったので、もう一度読んでもいいかと思う。

ちなみに(1)とあることから予想できるように、(2)(3)もあるが、(2)以降は戦前における学問の自由、大学の自治の歴史を見ていくもののためそちらに興味があれば読むのもいいと思う。

⑧末道康之「HIV感染をめぐる刑法上の諸問題 フランスの議論を素材として」南山法学36巻第2号

春痴さん(Xアカウント:@0401_fool)主催の合同誌『白鯨機上空論集』に寄稿させて頂いた拙稿「「活性源石等曝露罪」の創設趣旨及び同罪の性質についての一考—軽微な曝露行為に関する犯罪論争と南朝刑部の判例の変遷の整理—」を書く際に参考にした論文の一つ。

日本でHIVに関する刑法判例としてはいわゆる薬害エイズ事件(最判平成20年3月3日刑集第62巻4号567頁)が有名だが、これは業務上過失致死罪の成否が問題となった事件のため、上記拙稿で問題とした殺人罪の成否については触れられていない。そのためHIVについてフランス刑法の毒殺罪や日本における傷害罪ないし殺人罪の成否を論じているこちらを参照した。

面白い論文ではあるが最低限刑法の知識がないと難しい内容と思われるので、刑法を学びながら読むのがいいと思われる。

⑩末道康之「ベルギーにおける新型コロナウイルス感染症対策と刑事法の対応」南山法学44巻第3-4合併号

これも上記同様に拙稿を書く際に参考にした論文の一つ。フランス同様にベルギーでも人の健康を著しく害しうる物質の意図的な投与が個別の犯罪として規定されているため参照した。

こちらはHIVではなく新型コロナウイルスが対象となっていることからも分かるように、2021年と最近の論文である。司法試験で新型コロナウイルスに絡めた問題も出そうだなと思いながら読んだ記憶がある。

⑪岩田健次「ローマ法における殺人罪」關西大學法學論集 第16巻 第4・5・6合併号

https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/records/23328

これも上記同様に合同誌に寄稿させて頂いた論考の参考になればと思い読んだもの。タイトルの通りローマ法における殺人罪についての見解を勅法彙纂、学説彙纂を中心として解説するもの。

おそらくだが、日本の刑法がドイツ刑法を参考にして制定されたこと、そのドイツがローマ法を継受しているため、ローマ法における殺人規定もみておこうと当時の私は考えたのだと推測される。

⑫西迫大祐『感染症と法の社会史 病がつくる社会』(新曜社、2018)

18世紀~19世紀のフランス、特にパリにおける感染症の発生とそれに対する感染集予防、法や規則に関する問題を取り扱うもの。特に「衛生」の観念について「命を救うものとしての衛生」と「統治としての衛生」という二つの視点から、社会や国家、法、統治等を論じるもので、社会史的観点と法哲学的観点との融合がとても面白い。2019年度日本法哲学会奨励賞の受賞作。

これも上記拙稿を書くために買ったが、おそらく合同誌の機会がなくとも買っていたと思う。アークナイツとの関連でいえば鉱石病患者の扱い、社会からの排除がなぜされるのか、社会からの排除を通じて社会がどう「衛生」的になるのかという点を考える際に参考にして間違いないと思われる。

*この本を鞄に入れている時に雨に降られてしわしわになったんですけど、何かいい修復方法知っている人がいたら教えてください。

3月

⑬サキ著、和爾桃子訳『クローヴィス物語』(白水社、2015年)

とある人からオススメされた本。サキの短編集なのだが、サキ自体これが初めてなので新鮮。紅茶と皮肉に拘るイギリス人の味が濃い目でオススメ。

ブラックユーモアや風刺が強いとは聞いていたので少し警戒していたが、想像よりもすらすら読め、ブラックユーモアもいいスパイスというくらいだったので、別の短編集も読みたいなという感じ。

『クローヴィス物語』に収められているものだと、名画の背景、トバモリー、ハーマン短気王、タリントン韜晦術が面白かった。

⑭清水晴生「実行行為性の認識に関する符合判断について」
白鴎法學24巻

⑮齊藤信宰「故意と犯意」中央学院大学法学論叢14巻第1-2号

⑯平澤修「故意と過失を分かつ基準」中央学院大学法学論叢29巻第2号

いずれも『白鯨機上空論集』に寄稿した論文を書く際に参照し、かつ司法試験の勉強としても用いたもの。いずれも拙稿内で事件及びそれに対する判決を作る際にどこまでの事実ないし判決理由にすればそれぞれの要件を満たすかを考えるのに参照した。

⑭はいわゆる早すぎる構成要件の実現という論点について、⑮は故意と錯誤について、⑯はタイトルの通り故意と過失を分ける基準としてどこまでの認識を要するかというものであり、いずれも刑法総論の重要な論点についてのもの。法学部性は一度読んでおいてもいいかもしれない。

⑰イアン・マキューアン著、村松潔訳『未成年』(新潮社、2015)

女性裁判官であるフィオーナは白血病の治療のために病院が輸血を行うことの許可を求められる。輸血を必要とする17歳9ヶ月の少年アダムは聡明な少年で、自己の信仰を理由に輸血を拒んでいる。18歳以上であればその者の意思を尊重するが、わずか3ヶ月だろうと成年に足りない以上フィオーナが輸血の許否を決することになる。信仰を優先すればアダムは死に、生命を優先すればアダムは一生信仰に背いた身体で生きていくことになる。

信仰と生命というテーマとともに、原題である「The Children Act.」、すなわちイギリスの1989年児童法において尊重されるべきとする児童の幸福とは何か、同法により未成年者の意思に反してでも大人がその子の幸福を決めることが正しいのかというパターナリズムへの問題提起もあり、非常に奥深い内容になっている。

映画化もされているのでいつか観たい。

⑱渡辺洋三著『法とは何か 新版』(岩波書店、1998)

実家のような安心感とはこういうことをいう。法学以外の本を読んだ後にこの本の冒頭を読んだときの「ああ、法学だぁ」という安堵感は凄い。お酒を飲みすぎたときに友達から一口もらうお味噌汁の温かさくらい安心する。

内容はタイトル通り法とは何かについて論じるもの。法の基本原理から始まり、欧米型と日本型の歴史的展開、日本法の近代法と現代法へと進み、国家統治、国家と人権、法解釈と裁判と、まさに法学の入門書と呼ぶべき内容が詰まっている。ページ数も300頁に行かないので短めであり、読みやすいと思われるので、法学に触れてみようという人は買って損はないと思う。

4月

⑲入江亜季『旅』(KADOKAWA、2022)

“旅”を主題にした短編集。旅は旅行のようなものではなく、どちらかといえば人生を旅に例えるような感覚で概念的に捉えられており、そこに作者独自の世界観が綺麗に融合している。入江亜季の世界観や情景は人を選ぶところもあるが、個人的にはとても好きな作家。

『北北西に曇と往け』という作品も好きだったがお金の工面のために売ってしまったので、またいつか買い戻したい気持ちはある。

⑳山内進『増補決闘裁判 ヨーロッパ法精神の原風景』(筑摩書房、2024)

中世ヨーロッパに存在していて決闘裁判、神判の存在意義や果たした役割、なぜ存在し得たのかを追うとともに、そのなかでなぜ決闘裁判は19世紀まで残ったのか、その裏にある自力救済、当事者主義の原形に迫るもの。

現代的価値観からすれば野蛮で非合理的ともみえる決闘裁判がなぜ中世ヨーロッパで生き延び、そしてその裏にある法精神が現代にどのように継受されているのか。単に決闘裁判についての歴史、説明ではなく、法の役割、権利や自由、名誉、正義とは何かにまで問いを投げかけるもの。法制史の名著であるとともに、初学者でもある種楽しめるものだと思われる。

㉑海老澤侑「空想的表現物の規制手段に関する小論―いわゆるポルノ漫画の規制方法を中心に―」大学院研究年報法学研究科篇第50号

性的な内容を含む表現は法律、条令等種々の方法による規制の対象となるが、どのレベルまでが許されて、どのレベルを超えると規制の対象となるのかは判然としない。この論文はそのような表現のうち空想的表現物、特に漫画表現を検討の対象として、規制の手段ごとに判決を基に規制体系を確認すると同時に、規制の妥協点を探るもの。

現実の事例判断がどのようなものであったのかの精読、解説が主となっている。「二次元と三次元を区別できないとか~」とよく言われるように確かに小説や漫画といった表現方法は直接三次元の個人が被害を受けるわけではない、いわば被害者の存在しないものではあるが、それがなぜ規制され、あるいはどのような理由で規制の対象となっているのかを理解したいという人に薦めたいもの。

ただ、当然法学の論文かつ事例を多く見るので基礎知識や法的思考に慣れていないと少し難しく感じるかもしれない。

㉒小津夜景『いつかたこぶねになる日 漢詩の手帖』(素粒社、2020)

何かエッセイを読んでみたいという人にオススメするならまず間違いなくこの本を推すと思う。それくらいには面白く、また穏やかに楽しめる本。

フランス在住の俳人である小津夜景さんのエッセイであり、日常をつづるなかにポンと漢詩が一つ引用され、簡単な解説のあとに締めの文章が書かれる。テンポの良さや漢詩の解説の分かりやすさもだが、筆者の自然体の言葉と柔らかな文体、そして日常の中に漢詩があらわれるという形式のおかげか、漢詩との距離感がぐっと近づくように感じる。

アークナイツの炎国イベントでは度々漢詩が引用され、ともすれば何か学術的なもの、厳かなものとの印章もあるかもいれないが、おそらくこの本を読むと漢詩への印章ががらりと変わるように思う。

5月

㉓納富信留「知るということ-不知と懐疑からの考察-」西日本哲学年報16巻 

ソクラテスの「知」ないし「不知」に関する思想を主たる対象として「知る」ということはどういうことかを探るもの。

「これね、何だと思う?哲学。」って感じの論文。難しい。

難しいは難しいのだが、めげずに読み進めていけば何とか理解できてくる。冒頭のこの記述は現代の「知識人」と言われるような人間(ひろゆきとか)への批判になるとともに、考察のために色々と断片的に知を集める自分自身にも当てはまるとの自覚から読み切らねばと粘った記憶がある。

今日それは、私たちの頭脳の中に宿り、あるいは、注入されたり蓄積されたり消去されたりする事物のように扱われている。「情報」という曖昧な概念が「知識」に等価と見なされ、人のあり方から切断されて扱われる傾向も生じている。知識は量の多寡で判断され、とりわけ個別の断片的命題の蓄積が知識と等値される。情報はデータとして蓄積される以上、知識の主体はもはや人ではなくコンピュータやI Cチップでも構わない。総じて、そういった情報を使いこなす術が「知」と思いなされている。

㉔松尾光舟・斉藤邦史「アバターに対する法人格の付与」情報ネットワーク・ローレビュー22巻

メタバースにおけるアバターやVtuberという存在に法人格を付与することができるのか、そのようなアバターの「中の人」に対する会社法上の責任追及ができるのかについての論説。面白い。

会社法の知識が必要ではあるが論説内で各種制度の説明もあるため、頑張れば読み切れると思う。会社法に興味のある人は読んでみてもいいかもしれない。

情報ネットワーク・ローレビューはJstageで18巻以降のものが読めるのだが、面白い論説が多くて良い。これなんかもオススメ。

㉕ジョヴァンニ ファルコーネ著、千種堅訳『沈黙の掟 マフィアに爆殺された判示の「遺書」』(文藝春秋、1993)

以前ツイートでも紹介したが、ペナンスのモデルであるジョヴァンニ・ファルコ―ネの著書。

シチリアないしイタリアにおけるマフィア支配の性質と態様、その本質をマフィア撲滅に命を捧げたジョヴァンニ・ファルコ―ネ判事が記すものであり、当時のマフィアによる支配がどのようなものであったかを知る上でも読んでおいて損はないと思われる。

参考文献には挙げていないがこの記事を書くときにマフィアの全体像を掴むために購入した。

現在Amazonでの価格が5000円を超えており、定価が1600円だったことも考えると手が出しにくいと思われるので、図書館で借りるか友人で持っている人から借りるのがいいのではないかと思う。

㉖ルイーズ・グリュック著、野中美峰訳『野生のアイリス』(KADOKAWA、2021)

1993年ピュリッツァー賞詩部門受賞作であり、2020年にノーベル文学賞を受賞したアメリカの詩人ルイーズ・グリュックの6冊目の詩集であり、同氏の詩集が初めて邦訳されたものでもある。日英対訳が嬉しい。なお、同氏は2023年にがんのため亡くなられた。

タイトルの「アイリス」からも予想できるように、花ないしは花が咲く庭を舞台とした詩集。第1篇でありタイトルにもなっている「野生のアイリス/THE WILD IRIS」は「苦しみの果てに 扉があった/At the end of my suffering there was a door」という言葉で始まる。2年間詩を1篇も書けなかったというグリュックが苦しみを乗り越えて書き上げたというこの詩集の始まりがとても好きで、眠れない日なんかに読むことが多い。

正確には5月に読み終えたとかではなく何度も読んでいるのでレギュレーション違反ではあるのだが、紹介したかったのでここで書くことにした。

6月

㉗J.S.ミル著、関口正司訳『自由論』(岩波書店、2020)

言わずと知れた名著。色々なところで紹介されているのでここで詳細な説明をする必要もないかと思うくらいよく知られた本。

昨今は表現の自由のような伝統的なものから新しいものまで様々な自由に関する言葉が飛び交うが、そのような自由を語る前に一度くらいは読むべきだと思うし、むしろこの程度も読まずに自由を語るのはどうかと思うレベルではある。

㉘山本太郎著『感染症と文明 共生への道』(岩波書店、2011)

人類の長い歴史を感染症と文明の関わりという観点から辿るもの。結論として書かれるのは感染症を生態系の一部と捉え、そのような感染症との「共生」の道である。アークナイツかもしれない。

疫学的見地から感染症をみるものではあるが医学の知識はそれほど必要とされず、健康と病気を人間が生存に際して環境にどのようにして適応したかの尺度と捉え、行き過ぎた適応としての感染症の根絶を挙げるとともに、感染症との共生の道を示す流れは読みやすいものではある。「共生」という考えは直観的に理解が難しいという感覚はあるが、面白いので読むのもいいかもしれない。

㉙橋場弦著『古代ギリシアの民主政』(岩波書店、2022)

現代においてほぼ不可能な直接民主政の原形が、古代ギリシアにおいてどのような思想ないし生活の下で運用発展し、そして溶暗したのかを丁寧に追うもの。歴史何も分からない人間でも読めるくらいには丁寧かつ分かりやすく、かつ、内容が面白いのでオススメ

都知事選が始まるのと同人の『賄賂と民主政 古代ギリシアの美徳と犯罪』が7月11日に出るので、もう一度読むかと思い読んだもの。

現実の都知事選の凄惨たる様を見ると、一度古代ギリシアの政治体制に戻るのもいいんじゃないかなと思ってしまう。

㉚松尾剛行「ランサム攻撃に関する個人情報保護法、会社法、及び民法に基づく法的検討 —情報セキュリティと法の議論枠組みを踏まえて—」情報ネットワーク・ローレビュー21巻

タイトルの長い論文を読むときのワクワク感が好き。内容はランサムウェア攻撃がされた場合の個人情報保護法、会社法、民法に関する問題と法解釈についての論説。

KADOKAWAの事件が起きたので読んだものだがとてもためになるとともに、来年か再来年に司法試験で使われそうだなと思うので、その対策としても良いと思われる。タイトルからも分かるように思いっきり法律に関するものであるとともに、論説内でも説明はあるが、ある程度上記3つの法に関する基礎知識がないと読むのを諦める類のものかもしれない。内容は面白いのと、時事問題に関連して非常に参考になるので読んでおいて損は無いと思われる。

結び

以上書籍16冊、論文14本で計30個の読了本・論文の紹介となった。こうしてみると半月で論文をいれて30なので少ないなと思うが、勉強用の基本書等を除き、かつ、勉強の合間に読んでいると考えると、まあまあ読めているのかとも思う。

こうして自分が読んだ本を眺めると大体が大学ないし大学院の図書館で借りたものでもあるため、使用できなくなった今はどうやって読む本を手元に持ってくるか考えないといけないと思うとともに、失って気づく大切さを噛み占めているところである。

司法試験が終われば時間がとれるので、その分本を読む時間に充てて、またこういった記事を書くのもいいかもしれない。

以上

感想、質問、批判その他何かあればコメントかマシュマロに送ってもらうと喜びます。


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