「アークナイツ」の二次創作活動に向けての著作権法に関する簡易解説
本記事はアークナイツの二次創作を行ううえで欠かすことのできない著作権について、簡単に解説することを目的とするものである。
*以下特別の断りがなければ条文は全て著作権法のものとする。
本記事における著作権法の理解は主として、以下のテキストに準拠する。
島並良、上野達弘、横山久芳著『著作権法入門 第3版』(有斐閣、2021)
文化庁 令和5年度著作権テキスト https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/93726501.html
*近年生成AIに関する議論が激しくなされている。生成AIに関しては著作権法がダイレクトに問題となるものの、この議論については文化庁が「AI と著作権に関する考え方について(素案)」(令和6年2月29日時点版)や「AI と著作権に関する考え方について」を発表しているため、こちらをバイアスをかけずに参照されたし。
1著作権について
まず著作物について簡単な確認を行う。
(1)著作物該当性
著作権とは著作者が著作物について有する権利の総称である。著作権法におけるそれぞれの定義は以下のようにされている。
著作権法は著作物を現実に作成した者を著作者とし、その著作者に著作権が原始帰属することを原則とする創作者主義(17条1項)が採用されている。また著作権は特許権と異なり権利発生要件として登録等の方式が要求されていない無方式主義を採用している(17条2項)。そのため、著作物の創作と同時に著作権が発生することになる。
著作物の定義より、著作物該当性は以下の四要件により判断される。
①思想又は感情を含むこと
②表現されたものであること
③表現に創作性があること
④文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの
ここでは②③が特に問題となるため、この2点に絞り解説を試みる。
要件②「表現」されたもの
著作権法における「表現」要件は、①思想感情を外部に認識可能な形で表現したもの、②思想感情を個別具体的に表現したもの、の2つの観点で判断する。ここで重要なのは著作権法における「表現」とは個別具体的なものを指し、絵画の画法や数学の定理のような表現のための技法、アイデアは著作物として保護されないということである(いわゆる「表現・アイデア二分論」)。
著作権法の目的は「著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」にある(1条)。この文化の発展について、著作権法は文化の世界が多様性の世界であり、多種多様な表現物が存在することの価値に重きを置いている。そのためいまだ個別具体的な「表現」と呼ぶことの妥当でない抽象的なアイデアは著作物として保護しない=誰もが利用できるようにすることで、表現の多様性を確保し、文化の発展に寄与するという著作権法の目的達成を図ることがその根拠の一つとされている。
ただし何がアイデアで何が表現かは一律明確に峻別することのできないものであり、グラデーションの関係にある。そのためある表現行為について、それがアイデアなのか表現なのかが問題になる場合には、著作権法の上記の目的に照らして、表現者の独占的権利として認めるのとパブリック・ドメインとして自由な利用に資するのとどちらが相当かといった観点で判断されることになる。
絵画についてよく言われる「画風はアイデアにすぎないから保護対象とならない」という言葉の意味は、具体的な表現を離れた抽象的な画風は著作権法が保護対象とする「表現」に当たらないという意味である。日の丸構図や三分割構図といった構図なども同様に、具体的な表現を離れればアイデアとして著作権法上の保護対象とはならない。
アークナイツについて分かりやすい例を上げれば攻略動画におけるいわゆる攻略チャート、攻略方法はアイデアにすぎないため著作権法上の保護対象とはならない。例えば攻略動画として録画したゲームのプレイ映像に編集を加えた場合のその編集、VOICEROID等の音声読み上げソフトを用いた台本の読み上げの部分といった具体的な表現が著作権保護の対象となる。
要件③表現に「創作性」があること
上述のように著作権法は多種多様な表現物が存在することに価値を置いている。そのため「創作性」という文言の意味は、一般的に創作という言葉を聞いて思い浮かべるようなオリジナリティのような意味合いではなく、著作者の個性が表現されている程度に緩やかに解されている。
このように創作性要件を緩やかに解するため、著作権法上創作性が否定されることになる類型としては、①既存の著作物の模倣や②表現の幅がないようなありふれた表現、③ある表現行為の性質上不可避的な表現などがある。
「アークナイツ」の二次創作についてはあまり②③が問題となることはないと考えられるが、例えばゲーム内立ち絵、ロゴの模写については①に当たり創作性が否定されることになる。
逆に言えば既存の著作物に何らの変化を加えることなく模写したのではなく、何かしらの独自の創作的表現を加えたものは著作物として保護の対象となり、これがいわゆる二次的著作物、二次創作と呼ばれるものとなる。
なお、後述するが著作物として著作権法上の保護を受けるのは著作物の創作的表現であることから、一枚の絵画であってもそのうち創作的表現のある部分を複製されれば複製権侵害となるが、創作的表現のない部分を複製されても複製権侵害とはならないことになる。
(2)著作権
著作権には著作権と著作者人格権の2種類がある。ここで重要なのは著作権として認められる各権利の内容を理解することである。以下ではいくつかの著作者人格権と支分権を抜粋して簡単に内容をみていくこととする。
なお、前提として著作権は基本的に著作者が独占的に享有する権利であることを確認しておく。そのため著作者以外の者が著作権侵害を訴えることはもちろん、著作権侵害を理由としてその使用を止めるよう強制することもできないことは当然理解しなくてはならない。
著作者人格権
著作者人格権とは著作物に対する著作者の人格的利益を保護する権利である。これには公表権(18条)、氏名表示権(19条)、同一性保持権(20条)の3つがある。
氏名表示権(19条)
氏名表示権とは著作物に著作者名として実名若しくは変名(=ペンネーム)を表示し、又は表示しないかを決定する権利である。
1項後段に記載されているように、自己の著作物を原著作物とする二次的著作物の提供又は提示における原著作物の著作者名についても同様に氏名表示権を有する。そのため、二次創作作品を作る際には「原作:〇○」のように原著作物の著作者を表示することが基本的には必要になる。
同一性保持権(20条)
同一性保持権は簡単にいえば著作物を無断で改変されない権利である。
同一性保持権は「意に反した」改変を禁止していることから、著作者の意思が尊重され、仮に改変により著作物の客観的価値が高まったとしても、それが著作者の意に反していれば同一性保持権の侵害となる。また同一性保持権は題号=タイトルも保護対象としている。そのため著作物の内容には何ら手を加えずともタイトルを改変すれば同一性保持権の侵害となる。
同一性保持権との関係で20条2項が制限規定として置かれている。ここで押さえておきたいのは一般条項である20条2項4号である。
20条2項4号は「やむを得ないと認められる改変」であれば同一性保持権の侵害とならないことを規定しているものの、判例はこの規定を極めて厳格に解し、改変を必要とする要請が1号から3号と同程度に存在することを求めている。そのため4号該当性を理由に同一性保持権の侵害を否定できることは稀と考えておいた方が無難だと思われる。
*近年は20条2項が著作者の権利保護と利用者による利用上の改変の必要性との調整規定と解し、同項4号を柔軟に解すべきとする学説や裁判例もあり議論がされている。ただし最高裁として4号を柔軟に解すべき旨の判示をしていないため、現状は真に必要でなければ改変は避けるべきと思われる。
著作権
著作権は支分権の束とも言われることがあるように、いくつかの権利の総称である。そのため著作権の理解は各支分権の内容を把握することを意味する。ここでもいくつかの支分権に絞ってその内容を見ていく。
複製権(21条)
複製とは著作物を「有形的に再製すること」を意味する。
法律の読み方として、「A、B、Cその他の○○により」と規定されている場合には「その他の」の前のABCは全て「その他の〇〇」の例示と読む。複製は「その他の方法」として有形的再製の方法を限定していないため、どのような技術的手段を用いても有形的再製をすれば複製となる。
ここにいう有機的再製とは、著作物を新たな有体物に固定することで将来反復して使用される可能性を生じさせることをいう。一見難しいように見えるが、定義規定において例示されているような態様のものをイメージすればそれで十分と思われる。
なお複製とはあくまで著作物の固定を必要とする。なのでこのように著作物である写真が固定されていれば複製といえるが、URLのみの場合は複製とならない。
公衆送信権(23条1項)
公衆送信権とは読んで字のごとく著作物について公衆送信を行う権利であり、自動公衆送信の場合には送信可能化を含む。
著作権法において公衆送信は次のように定義される。文言にあるように公衆送信は「公衆によって直接受信されることを目的」とする必要があるところ、「公衆」とは「特定かつ多数の者を含む」と定義される(2条5項)ため、特定かつ少数者に対して直接に受信させることを目的とする場合には公衆送信に当たらないことになる。
類型は①放送(2条1項8号)②有線放送(2条1項9号の2)③自動公衆送信(2条1項9号の4)④その他の方法に大別することができるが、インターネットを介してなされるSNS上での著作物の発表はおおよそ自動公衆送信に当たると考えてよい。
なお自動公衆送信の場合には送信可能化も公衆送信に含まれる。送信可能化とは公衆送信の準備行為であり、読むのも嫌になる複雑な定義がされているが、インターネット上のサーバーに著作物をアップロードすることをイメージすればおおよそ間違いではないと思われる。
そのためアークナイツの動画、記事、イラストその他の二次創作をSNSにアップロードすることは送信可能化による自動公衆送信に当たり、公衆送信行為に該当する。いわゆる無断転載という行為は複製権侵害であるとともに、公衆送信権侵害、氏名表示権侵害となる。
譲渡権(26条の2)
譲渡権とは著作物の原作品または複製物の譲渡により公衆に提供する行為をいい、映画の著作物はその対象外とされる(映画の著作物については頒布権(26条)が規定されている。)。
譲渡権については一度適法な譲渡がなされた後は、その後の譲渡について一定の場合に譲渡権の行使ができなくなる(譲渡権の消尽)。1号から5号の消尽規定のうち1号と4号により、譲渡権者又はその許諾を得た者の意思に基づいて譲渡された著作物の原作品・複製物については譲渡権が消尽することが定められている。
ここで注意したいのは譲渡権の消尽が生じる対象は譲渡された当該著作物それ自体ということである。例えば私が以前販売したこの同人誌は、私が自らの意思で公衆へ譲渡したもののため譲渡権が消尽する。
他方で私に無断で当該同人誌を複製し、その複製物を他人に譲渡するような場合、私は譲渡された当該複製物そのものについて何ら譲渡の許諾をしていないため、26条の第2項1号又は4号に該当せず、譲渡権は消尽しない。譲渡権の消尽は正に譲渡した著作物それ自体について個別的に判断されることとなる。
なお、譲渡と似た行為に貸与がある。貸与権(26条の3)については譲渡権と異なり権利消尽はないと考えられている。これは消尽法理の根拠が、適法譲渡された著作物について再度の譲渡をするたびに著作者の許諾を得ないといけないとすれば市場における円滑な流通が阻害されること、他方で著作者については適法譲渡の時点で譲渡の対価を取得しており、二重に利益を得る機会を与える必要がないということにあるためである。貸与については一つの著作物を複数人に複数回貸与することができ、消尽法理の根拠のうち著作者の利益獲得機会の確保が十分保障されないため、貸与権の消尽は基本的に認められないこととなる。
翻案権(27条)
二次創作との関係で特に重要となる権利が翻案権である。
27条は翻訳、編曲、変形、脚色、映画化、「その他」翻案する権利と定めているため、27条の法定利用行為には翻案以前の5つの行為も含まれるが、ここでは翻案にのみ絞ってみていくこととする。
翻案とは二次的著作物を作成する行為をいい、ここにいう「翻案」とは最高裁によれば次のような行為と定義される。
この定義から翻案に該当するのは、①既存の著作物(現著作物)に新たな創作的表現を加え、かつ、②原著作物の表現上の本質的特徴を直接感得しうるものを作成する行為となる。
①の要件から分かるように、翻案といえるには原著作物を基にして、そこに何かしらの新たな創作的表現を加えなくてはならない。そのため、原著作物をそのまま利用しただけのもの、アークナイツでいえばストーリーやボイスを録画してそのまま流しているだけの動画、BGMをループ再生しているだけの動画といったものはおおよそ全て翻案に当たらず、複製行為となる。
なお②要件の「表現上の本質的特徴」とは原著作物の創作性が認められる部分をいう。そのため原著作物のうち創作性が認められない部分を利用した場合や、原著作物の創作性を感得できない程に改変を加えた場合には、二次的著作物に当たらないこととなる。
2「アークナイツ」における二次創作物作成行為について
「アークナイツ」においてはガイドラインにより非営利目的かつ日本国内での発表・流通の場合に限り、自由に二次創作物を制作することが認められている。また「非営利目的」の範囲についても判断基準が示されている。
二次創作という語で語られるものは著作権法における「二次的著作物」であり、二次的著作物は以下のように定義される。
そのため「アークナイツ」については翻案行為についての単純利用許諾(63条1項)があると考えられる。なお、ガイドラインにおいては「二次創作活動の禁止事項について」の項目で以下の行為を禁止している。
「創作性が無いもの」という文言は、翻案の箇所で見たように翻案行為に当たらないため、それによって作成した創作物はそもそも二次的著作物に該当しないと解される。この場合には複製行為となると考えられるが、「アークナイツ」利用規約11条4項が著作権侵害行為を禁止していることから、複製行為については翻案権と異なり許諾が与えられていないと考えられ、複製権侵害の可能性が高いと考えられる。
3二次創作上の注意
ここでは二次創作を行うに当たり注意したい著作権侵害についての解説を行う。
著作権侵害
著作権侵害の要件は①依拠性②類似性③法定利用行為の3つであり、③要件の法定利用行為とは各支分権として法定されている行為を行うことをいう。同時に同要件充足性については各支分権についての権利制限規定が適用されるかどうかが問題となる。
依拠性
依拠性とは被告の創作物が被疑侵害著作物に依拠して、すなわち被疑侵害著作物を基に作成されたということをいう。依拠性に欠ける場合については、被疑侵害著作物について全く認識がなく、独自に創作したものが偶然にも被侵害著作物と似通ってしまったという場合が考えられる。
依拠性は被疑侵害著作物を基にして作成されたか否かという被告の主観的側面に関する事項であるため、その判断については、後述する類似性の程度や、創作性の認められない部分についてまで共通しているかどうか、被疑侵害者の社会的立場といった諸般の事情を総合考慮してなされることとなる。
類似性
類似性とは被告の創作物と被疑侵害著作物との創作的表現が同一または類似することをいい、「表現上の本質的特徴を直接感得させる」か否かという観点から判断される。
著作物の定義や類似性の意義からもわかるように、類似性が肯定されるかどうかは創作性のある表現部分の共通性、すなわち表現部分が共通し、かつ、その共通する表現部分が創作性のある表現部分であるかどうかにより判断されると考えられている。
近年のSNSではよく「パクリ」という言葉で糾弾されているものを見かけるが、その場合にも似ている箇所が創作性のある表現部分なのか、それとも創作性のない表現部分なのか、そもそも表現ですらない構図や画風といったアイデアでしかないのかにより著作権侵害の成否が異なるため注意しなくてはならない。
3つ目の法定利用行為とは上記の著作者人格権ないし各支分権に規定された行為をいうため、それぞれの規定に掲げられた行為に当たらないかを検討することになる。
依拠性、類似性、法定利用行為の3要件に該当した場合でも、権利制限事由に該当すれば著作権侵害は成立しないことになる。そこで以下では権利制限規定について見ていくこととする。なお、権利制限規定はあくまで著作権についてであり、著作者人格権には影響が及ばない(50条)ことに注意しなくてはならない。
権利制限規定
著作権法30条から50条まではいわゆる権利制限規定として、著作権行使に制限がかけられる、すなわち利用者から見れば著作者の許諾なしに著作物を利用できる場合について定めている。ここでは私的使用のための複製と引用に限って解説をすることとする。
私的使用のための複製(30条)
広く知られる権利制限規定の一つとして私的使用のための複製がある。広く知られるが故に誤解も多いため注意が必要である。
私的使用の範囲は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」である。文言から分かるように、私的使用と認められるのは個人的な使用、すなわち自分だけが使用する場合、家庭内で使用する場合、その他これに準ずる限られた範囲である。
友人や企業、大学内で使用する目的で複製することは家族に準ずる範囲とは言い難いので私的使用に該当しないと考えられている。webサイトに投稿する目的で複製するものは、それが鍵アカだろうとフォロワー数が少なかろうとほぼ全て私的使用には当たらないことになる。
なお、仮に私的使用目的での複製をしても、複製したものが30条1項各号に該当する場合には30条1項柱書の適用は無いため複製権侵害となる。各号該当性については細かくなってしまうため省略する。
また当初は私的使用目的で複製をしたとしても、複製をした後に私的使用以外の目的で複製物を頒布し、または公衆に提示した場合には、頒布・提示をした時点で複製を行ったものとみなされる(49条1項1号)。この場合には30条1項の適用はないため、他の権利制限規定の適用がなければ複製権侵害となる。
引用(32条)
32条の要件は①公表された著作物であること②引用であること③公正な慣行に合致すること④報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われていることの4つである。④要件は「その他の」と規定されているため、実質的な要件は「引用の目的上正当な範囲内」かどうかである。このうち①要件については公表されたか否かを4条該当性で判断すればいいので省略する。また③要件についてもケースバイケースのため、この記事では省略する。
*なお、引用の要件として出所の明示(48条)を挙げるものもある。確かに裁判例においては出所の明示を怠った引用について公正慣行要件を欠くとしたものがある。しかし、著作権法は著作権侵害の罪(119条1項)とは別に出所明示義務違反を個別の犯罪として定めており(122条)、しかも出所明示義務違反罪は著作権侵害罪よりも法定刑が軽いため、多数説は出所明示を引用の要件とは捉えていない。
引用に当たるかどうかは、明瞭区別性と主従関係性が認められるかで判断する。明瞭区別性とは自己の創作物内において自己の創作にかかる部分と他人の創作にかかる被引用部分とを明瞭に区別することができるかどうかであり、主従関係性とは自己の創作内において自己の創作にかかる部分が主、他者の創作の被引用部分が従という関係であることをいう。
明瞭区別性については端的に「」で囲む等してどこからどこまでが自己の著作物で、どこからが他者の著作物なのかを区別できるようにすればよい。特にnoteで考察記事などを書く場合には、noteの引用機能を用いて書けば明瞭区別性についてはほぼクリアできると思われる。
他方で主従関係性については裁判例で以下のような基準で判断されることがある。
よく主従関係性については引用部分(自己の創作部分)と被引用部分の量的割合で判断されるといった話がでるが、量的割合はあくまで考慮要素の一つであり、それのみで決まるわけではない。量的・質的に見て、被引用部分が引用部分を補足説明し、あるいは例証、参考資料を提供するなどの付従的性質を有しているかを基準に考えられるため、量的に自己の創作部分が多いからといって必ずしも主従関係性が肯定されるわけではないと解される。
引用の目的上正当な範囲内で行われるとは、被引用著作物のうち、どの程度の量的・質的割合が引用利用されたかという問題であり、必要以上に広範な部分を引用したような場合には正当な範囲内とはいえないと判断されることとなる。正当な範囲か否かは引用の目的に照らして判断されることになるため、報道、批評、研究のような既存の著作物を引用する必要性が高い表現物については正当な範囲内に当たるとされやすく、他方既存の著作物の引用の必要性があまり高くなければその分正当な範囲内か否かも厳しく判断されることになる。
引用との関係で少し問題となるのが、既存の著作物を要約して引用することが許されるかであるが、裁判例上は要約引用を肯定したものが存在する。
その理由としては次のように説明される。
32条の引用の解釈として、原著作物をそのまま使用する場合に限定されると解すべき根拠がない。
実際上新たな言語の著作物を創作する上で他人の言語の著作物を広く引用する必要のある場合があるが、その場合に原文のまま引用すると、引用の名の下に他人の著作物の広範な部分の複製を認めることになり、著作者の権利侵害の程度が大きくなり、公正な慣行に合致するとも、正当な範囲内のものともいえなくなるおそれがある。
引用して利用しようとする者にとっても、一定の観点から要約したものを利用すれば足り、全文を引用するまでの必要性はない場合がある。
原著作物の趣旨を正確に反映した文章で引用するためには、むしろ原文の趣旨に忠実な要約による引用を認める方が妥当である。
なお引用による利用について47条の6第2号は翻訳による利用のみが文言上認められており、翻案(要約も翻案に当たる)による利用については文言上認められていないが、上記裁判例は同号には翻案の一態様である要約による利用も含むと解されるとしている。
そのため既存の著作物を要約して引用することも、それが他人の著作物をその趣旨に忠実に要約して引用されているのならば許容されると解される。
なお引用による利用については出所明示義務が課されている(48条1項1号、3号)ので、被引用部分が誰の著作物からの引用なのかを明示しなくてはならない。
フリー素材利用上の注意
最後にいわゆる二次創作を行う上で利用するフリー素材の利用について簡単に見ていく。
フリー素材と呼ばれるものは基本的にその利用について広く公衆に対し利用許諾をしている著作物であって、著作権がないものという意味ではない。そして著作物の利用許諾を得た者は、あくまで許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、当該著作物を利用することができる。
そのためフリー素材を利用する場合においてはどのような方法での利用が許諾され、またどのような条件が付されているかを確認しておく必要がある。
以下ではフリーBGMサイトを一つ例にとって簡単に確認をしていこうと思う。
フリーBGMサイトとして知られるサイトにDOVA-SYNDROMEというサイトがある。当該サイトにアップロードされている著作物の利用方法については「音楽利用ライセンス」に記載されているのを確認できる。
例えば「ライセンスの範囲」においては、①音源を「背景音楽」として利用することができる、②音源の加工(編集・エフェクト・フェードイン/アウト等)を行うことができるとの記載がある。そのため、同サイトが定義する背景音楽としての利用、また音源の加工をすることが認められている。
しかし、これだけを確認するのでは不十分である。例えば音源の加工については、「加工例」の項目で次のような記載がある。この記載によれば許諾される加工の範囲は元の音源から乖離せず、またその評価を著しく損なうと判断されない範囲ということになる。
としても同ライセンスにおいて「前提条件」の項目で次のように定められている。
そのため上記の加工について、作曲・制作者が加工を許さない旨定めていれば音源の加工は許諾されず、無断で加工を行えば翻案権侵害、同一性保持権の侵害となり得る。
よってライセンスの範囲がどのように定められているかは、単にDOVA-SYNDROMEの音源利用ライセンスを確認するだけでなく、利用しようとするBGMの作曲者・制作者が別途定めを設けていないかまで確認しなくてはならない。
同様のことは例えば動画であればボイスロイドの立ち絵、記事を書くときに用いる写真やイラスト等の他のフリー素材についても同様に当てはまる。面倒だと思うかもしれないが、特に近年は著作権への注目が高まっていることからも、一度自己が利用している素材のライセンスの範囲を確認しておくことは有用だと思われる。
結び
以上、著作権法について簡単に内容を見てきた。正確性に欠ける部分や説明が難解な部分もあると思われる。文化庁が出している「著作権テキスト」は著作権法について分かりやすく書かれているが、二次創作にあまり関係ないものも含まれている。この記事で見た支分権や権利制限規定について、この記事では分かりにくいという場合に著作権テキストの該当箇所を参照すると理解できるかもしれない。
著作権については権利侵害の事実をそもそも認識しづらい、二次創作自体が日本ではジャンルとして広く容認されていることからも、あまり神経質にならないでもいいのかもしれないが、何かしらの創作活動をする人であれば著作権法について基本的な理解は備えておいて損はないと思われる。この記事がその一助になれば幸いである。
以上
何か質問等あればこちらのマシュマロにどうぞ。