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私のお父さん

 小さな女の子を自転車に乗せたお父さんとすれ違った。二人ともキラキラとした笑顔で心がきゅんとなった。
女の子「もっともっと早くこいで!」
お父さん「いくぞー!」
女の子「きゃははは」

 ふと、父のことを思い出し、父との思い出を文章にしたくなった。

 物心つく前から父の隣で寝ていた。
我が家では夜寝るとき、家族5人布団を3つ並べて川の字になって寝ていたのだが、私の隣はいつも父だった。誰が決めたわけでもなく、きょうだいで喧嘩をしたわけでもなく自然とそうなっていた。夏はかぶっていた布団を全部父にかけ、冬は冷たい足を父のあたたかい足にくっつけて布団を奪い、朝早く目が覚めた時は暇だから遊ぼうと父の瞼をこじ開け、ちょっかいばかりかける娘を父はどう思っていたのだろう。
 そんなこんなで、大学で実家を出る前まで父の隣で眠っていた。我が家では当たり前のことだったため何の気なしに友達に話したこともあったが、「え?自分の部屋はないの?お父さんの隣で寝るとかすごいね。」と言われ、この話を周りにするのはやめた。自分の部屋はあったが、寝るときは家族みんなで寝るのが我が家のスタイルだったし、すごくも何ともないし、それで問題はないのだ。
 父の話をする私を見て、多くの友達は「お父さんのことが好きなんだね。」と言った。そうなのだ、恐らく私は自他共に認める「ファザコン」だ。父のことが大好きまではいかないので、もしかしたら違うのかもしれないが、少なからず私は、私の父が父で良かったと思っている。そのくらいは好きだ。この文章を読んだら、うるっとくらいはして欲しい。
 人並みに怒られたりはしたはずなのだが、なぜか楽しい思い出しか残っていない。少しだけ私と父の思い出話を聞いていただけるだろうか。

塩味のアイスの実

 これは私の記憶している一番古い思い出だ。
私は親の言うことを聞かない、いわゆる手のかかる子供だったと思う。母に何度叱られたか分からない。この日も母にこっぴどく叱られた私は目に涙をいっぱい溜めていたのだろう。そんな私を見た父は「お母さんには内緒だぞ。」と近くの駄菓子屋でアイスの実を買ってくれた。今は当時のパッケージのものではなくなってしまっているが、記憶の中にあるアイスの実は確か箱に入っていた。父と二人ソファーに座り、涙と鼻水にまみれながら食べたアイスの実はとても冷たくて甘くてほんのり塩味がして、とても美味しかった。父にこの話をすると、「頭がキーンするねって言ってたぞ。」と覚えてくれているのもなんだか嬉しかった。

子供に内緒ねは通用しない

 「お母さんには内緒だぞ。」
これは、世の中のお父さんたちが一度は使ったことのある言葉かもしれない。私の父も、この言葉を乱用していた。きょうだいの中で一番父と出かける機会が多かった私は、父と二人で動物園や水族館、ドライブなど、いろいろな場所へ遊びに行った。あの日もそうだった。ちょうど『崖の上のポニョ』が公開された日で、私は父と二人で映画館に向かった。映画ももちろん楽しみなのだが、目的地に向かうまでのドライブや、途中で食べるお昼ごはんが楽しかった。映画館では寝るのがお決まりになっていた父をよそ目に、私はスクリーンから目を離さず夢中で映画を見た。父から口止めされていたのは覚えていたが、黙っておけるわけがない。この映画が公開されるのを首を長くして待ち望んでいたのだ。その映画をやっと見ることができた喜びを母に話さない子供がいるだろうか。

じゃんけん

 皆さんは、保護猫や保護犬の譲渡会に行ったことがあるだろうか。小さいころから犬を飼うことが夢だった私は、新聞の下のほうに掲載されている譲渡会の情報を毎月欠かさずチェックしていた。犬を飼うことに反対していた父と母は、なかなか譲渡会に連れて行ってくれなかったが、ある日、いつものドライブのついでに父が譲渡会に連れて行ってくれた。広い広場の一角に設けられた譲渡会コーナーは、数匹の小さな子猫やたくさんの子犬を見に来た多くの人々でにぎわっていた。保護猫や保護犬から生まれた子猫や子犬ということで、種類はわからなかったが、どの子もとてもかわいかった。他の譲渡会も同じかどうかはわからないが、その譲渡会では、欲しい子犬や子猫がいた場合、手を挙げて、じゃんけんをして勝った人が譲り受けるというシステムだった。もちろん私もそのじゃんけんに参加した。まずはスタッフの方とじゃんけんをして、勝った人が列に並んでいく。次に、列に並んだ人同士でじゃんけんをする。私はじゃんけんに勝ち進み、あと一回勝てば子犬を譲り受けられるというところまで来た。しかし、子犬を目の前にしたとき、初めて命の重さというものを肌で感じた。気づいた時にはじゃんけんに負けており、私はまだこの子犬の命を預かるほどの責任がないのだと、その瞬間に悟った。でも悔しいものは悔しい。完全にへそを曲げてしまった私の機嫌を直そうと、ゲームセンターのクレーンゲームに誘った父があまりにも必死で、機嫌が悪くなっている自分がなんだかばからしくなった。私の機嫌が直ったのを見計らい、「まじで犬を飼わないといけなくなるかもと思って焦った。」と言った父にまた不機嫌になったりした。

 
 私の父との思い出話を聞いていただきとてもありがたい。これらの思い出はほんの一部で、父との思い出は数えられないほどある。二人でプリクラに行ったこともあるし、目的地を決めずにドライブをして山の中でアイスを食べたこともある。父の背中にしがみついてバイクに乗ったこともあるし、みんなが起きていない早朝に二人で散歩に行ったこともある。思い出すだけで心がほっと温かくなる。それと同時にあの時間はもう戻ってこないのかとなんだか寂しくもなる。だから私は、過去の思い出は心に刻んで、これからの時間を精一杯楽しむことにした。将来、過去を振り返ったときにまた心がほっと温かくなるようなそんな思い出をつくりたい。
 
 お父さん、いつもありがとう。
 面倒くさい娘に付き合ってくれてありがとう。
 面倒くさいことに付き合ってあげてる娘に感謝して。
 これからも面白いこと沢山しよう。
 遠出のツーリング約束したのにまだやってないよ。
 お母さんと仲良くね。
 これからもどうぞよろしく。
 
 



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