シャコンヌ
小澤征爾を偲んでYouTubeで動画を観ていたら、サイトウ・キネン・オーケストラの動画がいくつかあった。
その団員たちは、世界で活躍されているメンバーも多く、層の厚みも感じとれた。
コンマスのとなりにはたいてい都響のコンマスとして活躍されている矢部達哉氏がいる。
そういえば若い頃胸キュンしてたなぁ、と思い出す。
ほぼ同年代だし。
どんな個人活動をされているのだろう、とちょいとググってみると、いくつかCDも出されていて、ソプラノ歌手の奥さまとチェロ奏者の息子さんと共演もされているそうだ。
中でも見逃せなかったのは、1999年から2000年にかけて、バッハの無伴奏バイオリンのためのソナタ、パルティータをリサイタルで演奏されていたという記述。
なに? パルティータ?
となると、シャコンヌも弾いたということだよな。
こりゃ、黙ってらんない。
シャコンヌといえばわたし。
わたしといえばシャコンヌなのだ。
いつからそうなった?
との突っ込みがあるかと思うが、説明させて欲しい。
わたしは二十歳過ぎにバッハの無伴奏バイオリン・パルティータと出会った。
前橋汀子氏のバッハのシャコンヌを生で聴いた。
こ、これは! 哀感的で情熱的なメロディ。狂おしく弦をかき鳴らす弓さばき。
なんて素晴らしい楽曲なのだろう。
わたしはイチコロになった。
それからCDショップへ駆け込み、手にしたCDは、アルテュール・グリュミオーというバイオリニストのもの。
すぐさま家へ帰り、ステレオコンポにCDを滑り込ませ、シャコンヌを聴いた。
ああ、やはり素晴らしい!
このグリュミオーというバイオリニストの弾くシャコンヌは秀逸だった。
わたしは高台に建つ家の、西側の窓から夕日を眺めながら約十四分のこの曲をしんみりと聴くのが日課となっていた。
時同じくして、わたしはもう一曲のシャコンヌに出会う。
こちらはイタリアバロック、ヴィターリ作曲のシャコンヌ。これはピアノ伴奏で演奏されるスタイル。
平等院鳳凰堂でコンサートが行われ、ブーニンが出るというので録画しておいた。
ブーニンが出番を終えると、最後に徳永次男氏がバイオリン曲を弾いた。
ヴィターリのシャコンヌ。初めて聴く。
また、脳天を突かれるような衝撃を受けた。
まるで汽車が駈けるような勢いと迫力。そしてやはり哀しげなメロディ。
またもやイチコロになった。
というか、音楽に恋をした。
以来、この両シャコンヌはわたしの心を奪い、夢中にさせたのだ。
CDに納めているバイオリニストも多く、今日までにいくつものCDを買い求めて聴いた。
どの演奏家も素晴らしく、甲乙つけがたい。
それでも、この演奏家は好みだな、と順位付けしてみた。
バッハのシャコンヌはやはりグリュミオーが断トツトップ。
次いで天満敦子氏が第2位。
ヴィターリのシャコンヌは、川畠成道氏が一番お気に入り。ヨーロッパの古い街並みを想起させる渋い音色と男性ならではの乱暴にならない程度のかき鳴らし感がgood。
次いで川田知子氏。第一音が放たれた途端に脳みそがとろけるような美音で感動的。
徳永次男氏のCDも購入し聴いてみたが、荒々しく、ピアノ伴奏とぜんぜん噛み合っていないのが残念なポイント。
音楽に順位をつけるのはナンセンスだが、どのコンクールだって優勝者を決めるように、わたしもお気に入りを決めたっていいだろう。
今日は川田さんの気分、とか。
ここで話は戻るが、矢部達哉氏のバッハのシャコンヌも是非とも聴いてみたい。
録音する気はないのだろうか。
年齢的にもまだまだ若さを保ちながらも油も乗りかかり、シャコンヌを弾くには丁度いい頃合いだろうと思う。
CD化してくれないかなぁ。
矢部達哉氏へ届かないかなぁ。
バッハの無伴奏バイオリン・パルティータ。CD化、希望。
ついでにヴィターリのシャコンヌも弾いてくれたらうれしいな。
CDを買って聴いてみたが、矢部達哉氏の演奏は、繊細で上品な印象。
一枚しか聴いていないので、はっきりとした演奏スタイルはわからないが。
でも、この繊細な音で両シャコンヌがCD化された日には、ワインでも片手にじっくりと聴いてみたい。
そんな日がくるといいな。