サイコパス

その人物が幼稚園児だったころ、｢降りたい！｣と泣きながら叫ぶともだちの背中を押し続け、ブランコを漕いでいた。

小学校に上がると、いじめっこを口で正面突破し、泣かせた。

中学では、いじめっこの似顔絵を書いて、いじめられっこに踏み絵をさせていた。

高校生のとき、すこし離れた横からじっと見つめては笑みを投げ、女の子を落としていたが、彼女らにはみな一様に彼氏がいた。

大学生ともなると、付き合う女の子とは体の関係を持つようになり、巧みなテクニックで彼女たちを悦ばせ、離れられなくなるように仕向けたのち、切るように振った。

社会人デビューをした年、その人物は住んでいたマンションの五階から飼っていた猫を投げ落とした。

まだ二十代で病気になり入院したが、得意の話術を生かし、看護師たちの人気者になった。
また、病院内でスタッフたちによる演劇の鑑賞会があり、命の重みについて語りかけるような重たいシナリオだったが、周囲が涙する中、一人口角を上げ、肩を震わせて笑っていた。マスクの下なので端から見たら泣いているようにしか見えなかっただろう。

その人物は、いまもあなたの隣にいる。