実録! SFMT2024 Verまる 後編


カレーはいただけません

デポバックを受け取って屋根のあるところに移動する。
混み合っているが、偶然スペースが空いたので荷物を放り投げるように置きトイレに急ぐ。大雨なので最悪の場合、小は垂れ流し(やってません)もできるが、大は人間としての尊厳に関わるので我慢した。
雨に濡れるのはそれほど嫌ではないけど、それで腹が冷えると…以下省略
個室前には数名が待っていたが幸運なことに回転が早く難を逃れた。

どうせ濡れるので着替えは諦める。代わりに身体の様子を確認した。
足首の前側(タンの当たるあたり)が痛む。確認すると大きめの水泡できていたので爪先で破って水を出した。この雨では何をやっても気休めとだなと独りごち、テープを貼る代わりに擦れ防止剤を塗りこんだ。
さて。レインはどうするか?少し考える。
悩んで動きを止めるのは無駄だと思ったので、ウロウロとしながら果物(いちごとパイナップルがあったと思う)をいただく。
カレーを勧められたが、私は軽度の小麦アレルギーであり、仮にその反応が出なくてもスパイスの刺激があっては…と丁重にお断りし、ボランティアさんと軽口を交わしながらフルーツを多めにいただいたあと歯磨きをした。

カテゴリーに関わらず知人・友人の顔が見える。ヤァヤァと挨拶をしデポバックを再度預けると雨の笹ヶ峰エイドを後にした。

さて行きますか…

すぐ雨が止むことを信じてレインは着なかった

笹ヶ峰OUT 9:45:16  順位122位(ちょっと時間かかりました)

キツネの嫁入り?

エイドを出発して10分。
筋肉は冷えて固まったのか脚が動かない。
エイドで20分以上運動を止めた代償なので仕方ない。
雨は止まないし風もあり少し寒いが、すぐに止むと信じてそのままで進む。

それ(レインを着ないのは)ヤバいんちゃいますか?
お腹が冷えたらそこでストップですよ。
…関西系のイントネーションで100マイルのランナーから声をかけられる。

なるほどそのとおりと観念してレインを取り出した。
すでに体が冷えており、また濡れた肌とレインは相性が悪いのでアームカバーをつけたうえでレインを着た。

まずアドバイスに礼を言おう。
そして、あわよくばこれから続く平坦場のお供になってもらおうと躍起になって追いかけたが見つからない。
抜いたとも思えないが、すでに100km以上走ってきた脚で1分程度のビハインドを引き離され続けるとも思えない。
キツネにでも化かされたのか?しかし今は天気雨ではなく本降りの雨だ。
結果的に走るリズムがリズムが取れたのでヨシとして先を目指した。

・・・レギュレーション対策の薄手のレインを選んだことが、失敗であったことをこの時はあまり気にしていなかった。

今すぐビールを飲まなければ死んでしまうという病(やまい)

牧場周りを散々走り廻っているが先が見えてこない。
いつ間にか2〜3人のパックになり雑談をしながら進む。
ちょっと飽きてきたのか雨に意識を削がれてきたのか、いつの間にかラン→ジョグ→ウォークとパックのペースが徐々に落ちてきた。
身体は冷え切ってしまい、トイレに行きたいという気持ちに支配される。
この先のWAの手前にトイレがあるはず…なのだけど、肝心のトイレもWAも一向に見えてこない。
だんだんめんどくさくなってきた。
このままお漏らし的に放出してしまおう(してない)。
寒いなぁ。もういやだなぁ…
レースをやめて、風呂入ってビールが飲みたい…

…今すぐビールを飲まなければ死んでしまう病が発症するかと思った時、前方にエイドが見えた。 

助かった。
病は重症化することなく落ち着いてくれたようだ。

Switch  on?

しばらく続いた平坦場は終わり西登山口からは山登りとなる。
この頃には、ヘッデンを点灯しないと周囲の様子が見えなくなっていた。
陽も完全に落ちたようだ。

特段登りが得意でもスキでもないけど思ったより脚が動いてくれており、さっきまで一緒だった人はもうずっと下の方にいる。
ごぼう抜きとは言わないけど、一人また一人とパスしていく。
登りきっての平坦では走れるほど調子が上がってきた。

そういえば去年もこの辺りは異常に調子が上がってきた記憶がある。
この界隈は私自身にSwitchが入るポイントなのかもしれない。
根拠のない自信と共に、昨年のその後の惨憺たる記憶が蘇り自分自身に自制を促した。

それでも上がったテンションは下がらず足首まで泥水に浸かりながらガレたルートを進む。下りに入ってもスピードは緩めない。というよりも下手に踏ん張ったら返って転びそうだったので、そのままかさらに加速する勢いでペースよく(自分比)下っていく。
ガレた山下りが終わるとすぐに大橋林道のイメージだったけど、その後もしばらく林道を走ったような走らなかったような。
レースのカテゴリーはともかく、前に選手が見えれば一人でも前へと自分に鞭を入れると前方に光が見えた。

大橋林道in 18:10:28  順位108位 

プロビジョンスープにシャリ玉をとは誰が言ったのか

光に近づきながら考える。

フラスコに水は入っているか?
ザックから出しておくものは?
トイレは? 
普通ならそんなことを考えるだろう。

大声でエイドの皆さんに挨拶。
その直後にプロビジョンスープありますか?とエイドを覗き込む。

…プロビジョンスープは売り切れなので味噌汁を作りました。との弁。

普段ならそれほどでもないのに、この時だけはそれを渇望する自分がいた。
それにシャリ玉を2〜3個放り込んで雑に掻き込みたかった。
シャリが残ってそこにスープをおかわりをするところまでイメージしていたのに。

極限とは言わないまでも、疲労が蓄積しているときにイメージ通りに進まないのはかなり堪えるものがある。

自分の中で何かが折れるような気がした。
左前方にテントの中で暖をとる選手が見える。
そのままそこに引き込まれるような感覚に襲われる。

ありがたい!あったかいものが欲しかったんです♫

プロビジョンスープ風味の味噌汁に反射的に手をのばしていた。
そのテントに引き込まれるのを拒否するかのように…

もちろんシャリ玉は3つ。
このあとはイメージどおりの動き。

フラスコの水を確認する。
ライトも2つとも異常はない。

エイドのスタッフ全員に聞こえるような声でお礼を言い自分に喝を入れる。
さっきの救護所を覗くと見知った方がいたので、とおりしなに挨拶をし大橋林道エイドを後にした

覚醒

緩い傾斜を使って脚を動かす。
エイドで冷えた身体に熱を入れていく。
徐々に身体が動き出したころコースは右に折れ再び牧場の外周のような場所にでる。
前にも後ろにもランナーがいないのかヘッデンの灯りが見えない。
ロストではないが、自分自身との戦いだなと思った時、後ろの方に灯りが見える。近くに見えるが2〜300m程度の距離がある。
すぐに追いつかれることはないし、慌てる必要もないはずなのに気持ちが焦ってしまいスピードを上げた。

滑りやすい路面も膝近くまでの水溜りも気にせず先を急ぐ。
それほどのスピードを出したつもりはないけど、ライトはすぐに見えなくなった。
その後しばらくソロで進む。数分に一度くらい先行者の背中を見た。見えたら抜く。そんなのことを繰り返しているうちに「覚醒」したのではと錯覚を起こしたほど調子がいい(自分比)。
実際、今日は西登山口WAあたりから誰にも抜かれていない。

確かに夏の100kのレースでも後半の調子は自身で信じられないほど良かった。

これは…と気を良くしてなおも進むと戸隠神社の奥社に入る頃、後ろに人影を感じた。抜かれたらこのこの高揚感が終わってしまうような気持ちが沸き起こった。
ちょうどその頃、田んぼののような泥だらけのコースが参道?の石道に変わる。
泥よりもいいが石も滑るので、慎重にすべらないように加速して後続を振り切り戸隠エイドを目指した
戸隠スキー場in 14:47:31  順位92位

見えた

戸隠エイドに入ったのは20時17分。
エイドエリアは少し閑散としていた。
速いわけではないけど、完走ギリのペースよりは速い。
選手もサーポーターもまばらな時間帯。

9月13日のうちのゴールはちょっと厳しい気がするけど想定の範囲内。

ゆっくり蕎麦をいただいて冷えた身体を休める。
それから全歩きでも01:00には、ゴールで石川弘樹氏と握手を交わしているという鮮明な画が見えていた。

そう。見えたんだ。
SNSにはどうあげようとか妄想していた。

予定調和のごとく、ゆっくりと蕎麦を2杯いただいた。
完全にリラックスしていた。

目の前を「座ってると落ち着かないから出ます!」と飛び出していくランナーを1名見送った。
「ゴールで!」とエールを送り、何気なくゼッケンを確認した。
110kの選手だった。

少しして、そろそろ自分も…
と、立ち上がると見知った顔に話しかけられ、再度椅子に座って談笑。
その間に蕎麦をもう1杯。

いい加減に出なくてはとあいさつを交わし、外に出たが寒くてたまらない。
もう一度室内に戻って必携品の長袖のアンダーを着込む。

まだ寒かったが、まずはラスボスである瑪瑙山を目指して山中のコースを目指した
戸隠スキー場out 15:16:31  順位93位

その一杯が運命を分けた

これを食べなければ…いや実力がないのだ

結局、理由もわからず呆然としてゴール行きのバスを待った。
雨は上がっていたが吹き付ける風が、冷え切ったココロと身体から体温を奪っていく。

戸隠のエイド入口のあたりには人だかりができていた。
多分、レースカット(完走扱い)の説明とともにランナーを迎えているのだろう。
…この時、石川弘樹氏はゴールする一人一人にレースは終わった旨を説明していたらしい。


結局、下山を促され戸隠に戻る間。そしてバスを待つ間に、エイドで見送った彼を見つけることはできなかった。
エイドの滞在時間や瑪瑙山の登りの私の体たらくさを考えると、カットラインを越えゴールしたと見るのが適当だろう。

一杯の蕎麦というか甘えが運命を分けたとはこのことである。
こうして私の信越五岳2024は幕を閉じた。


                              fin

追試のお知らせ

・何故レースは中止になったのか。
・戸隠に関門までに入った人は特別完走とする。
・特別完走者は2025も優先エントリー権を付与する。


…中止の判断に至った理由は、別の機会に石川氏に状況を伺うことができた。
思うところがないといえば嘘になるが、自然の中で遊んでいる限り仕方ないと思う。



え?110kなの?マイルじゃないのって笑う人もいるだろう。

お天道様に勝てるわけがない。
でもね、私は私なりに今年に懸けていたんだよ。


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