LUSH SPAに行ってきた話

秘密結社というものがある。


極一部の選ばれし人間だけが入る事を許される特別な場所。

皆さんも一度は聞いた事があるだろう。有名どころで言えば


フリーメイソン


イルミナティ



そして忘れてならないのが



LUSH SPAである。






LUSH SPAに行ってきた話






事の発端は、お友達のえびさんが誕生日プレゼントにギフトカードをプレゼントしてくれたことに始まる。(えびさんらびゅ)

まるでホグワーツへの入学許可証を貰ったハリーのように私は興奮した。あの謎の施設に潜入できるのだ。


という訳でせっかくなので母親を連れて新宿に赴いたのである。


まず新宿のLUSHはアジア最大級とどちゃくそに広い訳だが、スパは四階で行われる。

商品を見つつ4階に行こうとすると、3階の上に続く階段が封鎖されているではないか。これではスパに辿り着けない。

店員のお姉さんにスパに行きたい旨を伝えると、笑顔でこう言われた。


「お時間になりましたら、担当の者がエレベーターでお迎えにあがります」


担当の者がお迎えにあがる!?


なんと言う事だ、上の階に移動するだけなのにお迎えが来るのだ。

スパに予約のない人はその階に足を踏み入れる事さえ出来ない仕様じゃないか。これから我々は完全に外界とは遮断されるのだ。

魔て、そもそも本当に上の階に行くのか? 上の階に行くと見せかけ、外からは見えない謎の空間に連れて行かれるのではないだろうか。タワーオブテラ―みたいにエレベーターがグイーンと前に移動したりするんじゃないだろうか。実は誰も知らない地下に連れて行かれるのではないだろうか。エレベーターに乗ると目に向かって赤いレーザーが発射されて我々の網膜を読みとり「篠崎マーティ、確認」とか無機質なAIの声がするんじゃないだろうか。

秘密の場所へ迎えの者がエスコートとは、こいつぁいよいよ秘密結社の様相を呈してきたじゃあないか。


ほどなくして時間になると、上の階専用のエレベーターが開き、はたして”担当の者”が現れた。彼女は我々の名前と予約時間が書かれたボードを持って、名前を呼んでくれた。すごい。空港みたい。こちらの方々は今から”あの”スパに行く方々なのよと他の客に向けて大声で触れ回っている。うーむ、プライオリティ。

いざ、スパの階へ向かう。


着替えが必要な施術の方は着替えたりなんだりがあるようだが、我々は不要なのでそのまま奥に通された。

白い壁にライトセーバーみたいなライトが等間隔にとりつけられ、ピンクや緑と言ったかなりサイバーでSFな雰囲気を醸し出している。スパと言うよりほとんどスターツアーズだ。清潔感溢れる店内を進むと、カーテンで仕切られた空間によく見る施術用の椅子が二台。奥は個室となっていた。


お姉さんが二人やってきて、説明が始まった。

今回我々が体験するのはヘッドを中心とした「タングルドヘアー」というコースだ。

お姉さんは言った。

「25分間で心地よい入眠からすっきりとした覚醒までの、完璧な睡眠を疑似体験して頂きます」


25分間で完璧な睡眠の疑似体験を!?


説明を受けても理解が及ばず、宇宙猫顔で固まるマーティ。

テンションマックスで店内の写真を撮りまくる母。

微笑むお姉さん。

パーティの始まりである。


施術椅子に横になると、天井に美しい星空のようなライトが瞬いているのが見えた。カーテンを閉めれば何やら夕暮れのリゾート地のような心地になってくる。

お姉さんが私の胸の上に小さなスピーカー(ヘッドフォンみたいな形だったかも。思い出せない)を置いた。これは骨伝導で、耳を覆って装着しているわけでもないのにクリアに聞こえる。エキゾチックな音楽が流れ始め、気分はバリだか東南アジア。


そして施術が始まった。

ヘッド中心とは言ったが、腕、肩、首回りもマッサージしてくれて、腕をぐるぐるゆっくり回された時には、「胸元から聞こえるアジアンミュージックft私の骨」ってくらいパキパキ鳴りまくって恥ずかしかった。

勘違いしていたのだが、私はエステ的な施術をされるもんだと思い込んでいたが、蓋を開ければゴリッゴリに力強いマッサージらしいマッサージが施された。「ほごっ」とか声が出る位、仏のように微笑むお姉さんの腕からは力強い”ほぐし”が繰り出されるのだ。

何を隠そう私は痛いのにめっぽう弱く、「スマセン……ちょtttttっと、弱くしてもらてイイスカ……っ」と、戦地で親友にフィアンセの写真が入ったロケットを託して息絶える時みてえな声で懇願するしかなかった。すんごかった。後一分も揉まれていたら私の肩に穴が開いていたかもしれない。

こんな落ち着いた空間でしっかりばっちり筋肉をほぐしにかかってこられる等とは夢にも思わなかった。


とは言えそこはプロ、力の調整を申し訳ないながらお願いした後は快適なマッサージタイムだった。時間が終わりに近づくに従い、何となく瞼の裏で感じる光が強くなっている気がする。夜明けか。私の夜明けが訪れたのか。そこで(うろ覚えですが)こめかみのあたりに爽やかなミントのにおいがするオイルをつけられた。正直、つける時は香ったがつけられてからはあんまりにおわなかったのは残念だった。


そして仕上げがやってきた。これが一番印象に残っている。

今まで生きて来た中でもっとも丸いもので顔をコロコロされたのだ。

リックアンドモーティという私が大好きな海外アニメのエピソードで、モーティが完璧な水平を経験したせいでそこ以外の全ての世界が歪んでいるように感じ発狂するというエピソードがあるのだが、この丸バージョンを体験したのだ。

その球体は恐ろしく冷たかった。だが不快ではなく、ぎょっとして鳥肌が立つこともない。キンキンに冷えているのに何故か体が受け入れた冷たさだった。恐らくそれは、球体があまりにも気持ちよすぎて冷たいとかそれどころじゃねえと脳みそが判断したからかもしれない。

完璧な球体に触れると人はどうなるか? まず現実を疑う。こんな気持ちのいい丸がこの世に存在するはずがないと思う。しかしほんの僅かな凹凸もない究極の球体に頬を撫でられているうちに、言いようのない感動が込み上げてくるのだ。

「こんなに完璧な球体がこの世に存在したのか」

気持が良かった。それ以外に言葉がない。25分で疑似体験する完璧な眠りの起床パート。この球体によりマッサージでうっとりしていた意識はすっかり覚醒していた。こんな目覚め、理想過ぎる。

しかし非常にもこのパートはすぐ終わってしまった。とんでもない喪失感が私を覆う。今すぐ飛び起きて、一体何が顔に押し当てられていたのか、完璧な球体とは一体なんなのかをこの目で確かめたかったが、ここでタイムアップとなった。


こうして25分間のLUSH SPAは終わりを迎えた。

施術は普通に気持ち良かったが、やはりこの空間とインスピレーション、エンタメ感は他に類を見ない。マッサージの感想が「面白かった!」なんて他ではまず出てこないだろう。

本当に体調が悪いレベルで体が硬く、とにかく体のコリをほぐしたいと言うならお勧めしないが、体の疲れと一緒に心も満たされたい、むしろ心の方こそ癒されたいという方にはとってもおすすめする。

素敵な体験でした。

有難う御座いました!



(蛇足になるが、タングルドヘアーで検索して公式サイトに飛ぶと、多分顔に当てられたのはこれだろうなって石の写真が出てくる。全然完璧な球体じゃない。でも肌に触れた時にはかつてない気持ちよさを感じたんです信じてください)


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