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他人のドラマ
このタグをみて、思い出したある親子について書きたかったから
小一時間ほどあれこれと言葉を書いた挙句、一旦、全部消すことにした。
その家族と関わった時間をそのまま書くことにする。
私が勤めていたスタジオでの話だ。
絶対忘れられない家族の話。
ある日、お宮参りの家族が撮影に来た。
女の子の赤ちゃんはぐっすり眠っていて、物静かなパパよりもだいぶ若そうなママが赤ちゃんを大切そうに抱っこしていた。
パパ方のおじいちゃんとおばあちゃんは孫を覗き込んだり、寒くないか、暑くないかと献身的だった。
撮影にあたって、衣装を選んだり、どんな風に撮るのかポーズを決めている時、スタッフが「では、ママはこちらにどうぞ」とお声かけをした時。
「…あの…私…ママじゃないんです…」と告げた。
その場にいたおじいちゃんもおばあちゃんもパパも一瞬、顔がくもったように見えた。
スタッフは、わけは分からぬとも、空気を察して
おばあちゃんに抱っこを代わってもらい、家族写真を撮ることになった。
一通りの撮影が終わり、赤ちゃんのお着替えをする時
その、ママっぽい人は車にオムツを取りに戻っていて、その場にはパパだけだった。
パパはとてもぎこちなく、大きな手は不器用ながらも大切なものが壊れないように怖がりながら奮闘しているように見えた。
「お代わりしましょうか?」声をかけると安堵したように
「すみません…お願いします…」と、ぎゅーっと両手を組んで見守る。
「大丈夫ですよ。まだ小さいから怖いですよね」と笑いかけると「…抱っこもできないんですよ。壊れそうで…」と苦笑いをする。
しばらく待ってもらう間。
レセプションに戻ると、ママっぽい人が帰ってきて、
「…あの…」と声をかけてきた。
喜びと悲しみ
「私…父親の妹なんです。」
「先程は大変、失礼致しました」と、てっきり叱られるのかなと思った時、
「いいえ、、 色々気を使って頂いてありがとうございました。おかげで普通の思い出を残してあげられました。」
という。
普通の思い出…?
これは何かしらの事情があるのだな、と飲み込めた。
そのママっぽい人、改め、パパの妹さんは小声で続けた。
「あの、兄の奥さんは、出産の後亡くなりまして…」
あまりにも思いがけなさすぎて、お悔やみも言えず、どの言葉が正しいのかもわからなかった。
「…それは…その…」それ以上でてこなくて、表情で伝えることにした。
その後、妹さんは思いのほか世間話のように軽く、ママが亡くなるに至る話をしてくださり、行事ごとに家族写真を撮りたいと言っていたママの希望を尊重した事と、不慣れで戸惑っていたのにスタッフの対応が暖かくて嬉しかったと話してくださった。
ママは持病があったらしく、妊娠初期からずっと入院していて、出産も五分五分だと言われていたらしい。
でも、なんとか無事に出産し、産後の経過もよく、家に帰れる日の前日に急変してそのまま亡くなったとの事。
赤ちゃんを迎えて喜びで溢れていたはずの家族。
そこに突然訪れた悲しみ。
目の前にいる家族のドラマがショックすぎて、私が泣き出しそう だった。
妹さんは普通の顔で「変な話ですみません。でも、今日、写真撮れてほんとに良かったです。」
そう言ってパパと赤ちゃんのいる部屋に入っていった。
その家族はお宮参りの撮影の後、写真選びで赤ちゃんの変顔をみて笑い、家族写真で誰の顔が変だとか笑いあっていて、他の家族となんらかわらなかった。
時折赤ちゃんを心配そうに見つめるパパが印象的だった。
3年後
七五三の撮影の予約が入った。
見覚えのあるお名前に、顧客データを確認すると、
あの赤ちゃんだった。
そうか。
もう3歳なのか。
時間になり、来店したのはパパとあの時の赤ちゃんだった。
今はおませな女の子になっていた。
後からおじいちゃんとおばあちゃんが来ると自慢げに教えてくれる。
早速、衣装を選び始めるとパパはスタッフに、「全く分からないので…七五三って何を着せたらいいんでしょう?」と、相談をしてきた。
女の子はと言うと、「これ!!絶対これ!」とドレスを抱きしめる。
小さな体で一生懸命に自己主張する姿が可愛くてスタッフみんなメロメロになっていた。
早速お着替えをしていると、ついにやけてしまう。
髪を結ってあげる時、鏡越しに目が合うと私にニコッと微笑む。
お化粧をして、髪飾りを付けていると、鏡の自分に口をとがらせてみたりプリンセスみたいなポーズをとってみたりと
「THE 女子 」だった。
そんな彼女が全くの他人だけども愛おしくて可愛くて。
お支度が済み、パパにお披露目をする時、
小さく屈んで力いっぱいジャンプしながらジャーーーン!と飛び出した。
それを見ておぉ!っと大袈裟に驚き喜ぶパパ。
(あぁ…私、これ泣くわ。もう泣きそう。)
あの日、ママの命と離れ離れになってしまった女の子。
あれからずっと家族の愛に包まれて育ったんだね。
他人のドラマ
撮影を始めると初めは良かったものの、まだおじいちゃんとおばあちゃんが到着しないから、だんだん不機嫌になっていった。
きっと可愛い自分を見せてあげたいんだと思った。
しかめっ面でカメラを睨む。
なかなか意思が強いらしく、全身で怒りを表している。
背後に炎を背負ってるかの如く睨む。
揺るがない「私、怒ってます」な女の子に優しく話しかけてみたり、笑わせようとあの手この手でカメラマンとスタッフはピエロのようだった。
ずっと黙って様子を見ていたパパが立ち上がり、女の子のそばに行くとスっとしゃがんで話しかける。
怒ったまま涙ぐみはじめる女の子。
頭をぽんぽんしたり、涙をそっとぬぐってあげたり。
爆発して本泣きになると静かに胸に抱き、しばらく泣かせて
おもむろに、ジャケットの内ポケットからプリキュ〇のフィギュアを出すとまたしまって、女の子と話している。
女の子は最初は「まだ怒ってるもん」の意思表示をしていたけどプリキュ〇をみた瞬間から素直にパパの話に頷いて表情も柔らかくなる。
空気を察してカメラマンが「よーし、あと1回で終わるから頑張ろうねー」と仕切り直す。
女の子のメイクを直してあげながら、「大丈夫よ。」と微笑むと「うん」と頷く。
私はお宮参りの時のようにスタジオの様子をお支度室から「陰ながら」見守っていて、実はずっと泣いていた。
感動したのだ。
お宮参りの日に、あんなに不安そうだったパパが、あの赤ちゃんと過ごすうちに立派にパパになっていた。
少しイカつい大きな体に似つかわしくないプリキュ〇のフィギュアを懐に持ってるし、それが彼女を説得できる武器だともわかっていて常備しているのだろう。
穏やかに話しかけて、きちんと泣かせてあげる。
何より話をする時に子供の目線に合わせられるパパって結構少ない。
まるで王子様がプリンセスの手を取るように自然に跪いて会話している親子。
愛で溢れていて、それがもはや他人事とは思えないほど愛おしかった。
それからまた数年後
スタジオの入り口は全面ガラスになっていて、外の様子がよく見える。
同じく外からも中の様子が丸見えでもある。
ある日、レセプションでスケジュールの確認をしていると年長さんくらいの女の子がスタジオのほうにパパを引っ張る様子が見える。
パパはダメだよと反対に行きたがる。
おや? と思って見ているとパパが帽子を脱いでペコっと会釈をする。
あ!あの親子だ!
私も会釈をし、2人の攻防戦を見ながらニマニマしていた。
ギブアップしたパパが娘に連れられてスタジオに入ってくる。
「すいません…娘が…」と何を話すか迷ってるパパの横であの日よりもっと女子力のあがっている女の子が
「私5歳ですけど」と言う。
(なるほど。七五三の5歳の事かな。)
「私5歳です。ドレスは着れますか?」
「パパと一緒に写真撮りたい」
「お部屋にたくさん写真を飾るの」
「ママのお写真の横に赤ちゃんの時の私の写真あるよ」
凄くしっかりした口調で色んなことを話す女の子が可愛くて笑ってパパを見るとパパはまだ困惑気味で、七五三は3回お祝いするのか?と尋ねる。
七五三について説明をして、基本的に5歳は男の子のものだと言うと※じゃあと2年待たなきゃだねと話すパパと膨れる娘。
※実際は数え年でお祝いするので6歳でもあり。
「しっかり者のお姉ちゃんになりましたね」とパパに笑いかけると「もう…我が強くて困ります」と言いつつ顔はとても嬉しそうだった。
「私たちも赤ちゃんの〇〇ちゃんから見させてもらっているので、勝手に親戚の気分で感慨深いです」と言うと
「覚えてもらってるんですね! …いやぁ…、最初はどうしていいか分からなかったんですけど…何とかなりましたね」とハハハと明るく笑うパパ。
そんな世間話をする横で娘は鼻歌を歌いながら熱心にドレスを選んでいた。
お互いに育つ
スタジオでの仕事をしていていつも思うのは
「なんて贅沢な仕事だろう」という事だ。
ウエディングのヘアメイクの仕事の時も同じく思っていた事だけど、「見ず知らずの家庭の大切な一瞬に立ち会える」贅沢な仕事だ。
スタジオで長く務めると、その家族の成長も見せてもらえる。
ウエディングの夫婦だった2人がマタニティで来て、お宮参り、お食い初め、バースデー、七五三と、どんどん重なっていく思い出の一日を共有して貰えて、その家族の近況がアップデートされて行く。
子供を授かったカップルが親になっていく様子。
お腹の中にいた子と初めて会えた時の喜び。
伝い歩きしたり、寝返りしたりの瞬間。
どれをとっても幸せな仕事だ。
この親子は、特に印象的でドラマチックだった。
登場人物の成長が素晴らしく、つい感情移入してしまう。
初めてパパを見た時、「この人は大丈夫なんだろうか?」と心配になるほどだった。
2回目に見た時、たった3年でこんな素敵なパパになれるのかと感動し、3回目は娘の成長に感激した。
「親が子を育てるのではなく、子も親を育てる」
この親子はまさにそうだった。
子供は親のなり方を教えてくれるんだと思う。