『シカゴ7裁判』 にコロサレル!
アメリカ大統領選挙当日に観るべき1本。
元々は2008年の大統領選(オバマvsマケイン)のために企画され、監督スピルバーグ/脚本アーロン・ソーキンの予定だったが、全米脚本家組合のストがあり製作が中断されていた今作。
(当初はトム・ヘイデン役にヒース・レジャーがリストアップされていたらしい!)
長い歳月を経て、監督もアーロン・ソーキンが務めることになり、やっと2020年に公開(Netflix配信)できたのだが、これは絶対2020年までズレて良かった。
大統領選2020の直前にリリースできたという事にとても意義のある作品。
混乱を極める大統領選の情勢の中で、今回はこの映画について書きたいと思います。
※ これより先は映画のネタバレを含む可能性があります。
簡単なあらすじ
本作は、ベトナム戦争の反対運動に端を発し、抗議デモを企てたとされ逮捕、起訴された7人の男〈シカゴ・セブン〉の衝撃の裁判を描いた実話に基づく物語である。
ー公式HPより抜粋
史実に基づく話と脚色された話。
民主党のジョン・F・ケネディ大統領とリンドン・ジョンソン大統領が始めたベトナム戦争。
ジョンソンの後、副大統領のヒューバート・ハンフリーが次期大統領になれば、ベトナム戦争は継続される。
民主党内でベトナム戦争を終わらせたい一派の先頭に立ったのがロバート・ケネディ元司法長官だったが、彼は大統領になる前に兄のジョン・F・ケネディと同じく暗殺されてしまう。
では一体誰が次の民主党の候補になるのか?ベトナム戦争に終わりはあるのか?
そんな混迷を極める1968年。シカゴでの民主党大会が物語の舞台である。
反戦を訴えるためシカゴに集まってきた活動家7人(本当は8人)を共謀して市民を扇動した罪で裁いたのが“シカゴ7裁判”。
実際は7人は仲間ではなく、ブラックパンサー党議長のボビー・シール(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)に関してはシカゴに4時間しか滞在していなかったにも関わらず、当時のヒッピーや反戦運動のスケープゴートとされ裁判にかけられたのが“シカゴ7”だった。
本編は基本的には史実を基に作られているけど、脚色している部分もたくさんある。
例えば検事のリチャード・シュルツ(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は被告側のシカゴ7に同情的な描かれ方をしているが、実際は全くそんな事はなかった。
これはまぁ当然というかそんな人格の検事がこんな政権にとって大事な裁判に選ばれるわけがない。
あとはラストの判決前にトム・ヘイデン(エディ・レッドメイン)がベトナムの戦没者を読み上げて大喝采の大団円シーンがあるがこれも脚色されたもので、実際は公判の途中に戦没者の名前を読め上げたがすぐにホフマン判事(フランク・ランジェラ)に止められたというのが記録に残っている。
ここは映画を盛り上げるための脚色である。
しかし劇中で最も印象的である、ボビー・シールがホフマン判事の命令を聞かなかったために、法廷内で猿ぐつわと鎖で縛られるシーン。
これは実際にあった出来事。
しかも劇中ではシュルツ検事と弁護士のクンスラー(マーク・ライランス)、ワイングラス(ベン・シェンクマン)の提案によりすぐに取りやめ審理停止になっていたが、実際にはもっと悲惨でこのボビー・シールの猿ぐつわと鎖は3日間に及んで放置されたまま裁判は続けられたらしい。
今から50年前に民主主義を謳っている国の法廷でこんな蛮行が行われていたなんて…
アビー・ホフマンとサシャ・バロン・コーエン
シカゴ7は“反ベトナム戦争”という点では一致してたけど、思想や考え方や方法論は異なっていた。
その中にアビー・ホフマン(サシャ・バロン・コーエン)という“イッピー”と呼ばれる団体の代表だった男がいた。
ペンタゴン前の反戦デモで兵士の銃口に花を刺す“フラワーパワー”という超有名な写真が撮られ、“フラワーチルドレン”と呼ばれる彼ら彼女らを煽動していたのがこのアビー・ホフマンである。
アビー・ホフマンはユダヤ教徒であり、文化革命を唱えていて、やってることはほとんどスタンドアップコメディアンだった。
パフォーマンスに特化し、スピーチも上手い、シニカルな笑いで政治を批判し、平和的な“ラブ&ピース” &フラワーを行動に移していた、とても華のある魅力的な活動家。
それを『ボラット』というアイロニックに政治を批判する映画を企画/主演し、同じくユダヤ教徒でコメディアンであるサシャ・バロン・コーエンが演じているのが見事なハマり役。
彼はアビー・ホフマンを演じるために生まれてきたのではないかと思うほどの完璧な演技だった。
サシャ・バロン・コーエンがこのタイミングで“アビー・ホフマン”と“ボラット”という役を演じた意味は非常に大きいと思う。
2020年と1968年。
なぜこの映画が2020大統領選挙当日に観るべき映画だったのか。
それは現在と1968年を描くこの映画が同じ状況を示唆しているからである。
1968年のシカゴでの党大会の混乱が全米中継され回復できない程のダメージを受けた民主党に変わって、大統領になったのがリチャード・ニクソン。
彼が選挙戦の早い時期から掲げていたのが「Law & Order(法と秩序)」であり、これによってニクソンは過激な反戦運動を嫌う保守層を取り込んで選挙戦に勝利した。
そして今、トランプ大統領がアフリカンアメリカンの男性の死亡事件をきっかけに起きた抗議デモを鎮圧するために使った言葉が「Law & Order」なのである。これ以降彼はTwitterでもこの言葉を何度も使っている。
さらに上記のブラックパンサー党議長のボビー・シールが猿ぐつわと鎖で縛られるシーン。
ここで弁護士のクンスラーが彼に「息はできる?(Can I breathe?)」と声をかける。
もちろんボビー・シールは答えない。答えることができない。
この「息ができない(I Can't breathe)」とは、2020年5月アフリカンアメリカンのジョージ・フロイドが白人警官に8分46秒間頸部を強く押さえつけられて死亡した時に放った言葉だった。
正直実際にクンスラーがあの状況でそんな言葉をかけたのかどうかはわからないし、それは問題の本質ではない。
ボビー・シールは実際に息ができないほどの状況に立たされていた。
そしてジョージ・フロイドも。
シカゴ7裁判から半世紀が過ぎてもアメリカは変わらない。
人間の本質も変わらない。
でも他人は変えられなくても、自分を変えることはできる。
本質は変えられなくても、変えようと律することはできる。
大統領選挙の投票率は過去100年で最高の数字になった。
アメリカで多くの人が立ち上がったのか?
その答えがもうすぐ出る。
映画にコロサレル!
ニシダ
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