ドライフラワー (Ⅰ)
『土曜日に会えるのを楽しみにしているよ』
この連絡を最後に大好きなあの人は遠くへ行ってしまった。突然の、永遠の、別れだった。
どうして私をおいていったの。
どうして1人にさせたの。
土曜日に会えるって約束したじゃない。
昔から私は、誰かの愛情に触れると、もう二度とその優しさに触れられなくなる気がして、怖くて怖くて、数えきれないくらいの夜を、息を殺して泣きながら過ごした。でもあの人が隣で寝ている夜は、いつも手を握ってくれて、眠れるように頭を撫でてくれて。あの人の愛情だけは、消えることはないと思っていた。
そんなわけないのに。
大好きも、ありがとうも、伝えられなかった。
流行りのポップスは、逆境に負けず前だけを向いて進めと謳うものばかりで聴く気になれない。残酷で悲惨なニュースも、どうでもいい。
横に寝ているのはからっぽのあの人で、手はかたく、なのに脆そうで、決して私の手を握ってはくれない。いつもの綺麗な顔で寝ているのに、泣いても、呼んでも、起きてはくれない。
異文化圏から来た人が、自信なさげに、枕元に置いてある白い布を、あの人の顔にかけた。
「かけてあげたほうが、いいね」
まだお別れじゃないのに。それじゃ本当のお別れみたいじゃない。苛立っても気持ちのやり場は見つからなくて。
そのあと私は精神を病んだ。ベッドで寝転んだまま体が動かない。望んでいないのに涙が止まらない。生きていても私は何もできないのだから、何の役にも立てないのだから、
だから、しにたい、と思った。
だけど、初めてあの人の遺影と向き合ったとき
『まだ泣いているの?困った子だね。
ほら、笑ってごらん。』声が聞こえた。
ああ、また大嫌いな涙が目から溢れてる。情けないなぁ、私。心は笑っていた。霧が晴れた、気がした。
「こっちの世界にに戻っておいでよ。」
『それは難しいなあ。』
「じゃあ、ずっと隣にいてね。」
『もちろん。...ほら、泣かないの。』
苦しいときも、悲しいときも、形は変われど、今でもあの人が、私の背中を押してくれる。
だから、寂しくない...ことも、ない