変わらない味、なのに。
母が買ってきてくれた、
JR小岩駅前にある『PASCAL』の
カマンベールチーズケーキ。
これは好きな味だ。嬉しい。
母から聞いたのだけれど……
不二家や町のケーキ屋さんが主流だった頃、
『PASCAL』のケーキは贅沢品だった。
今では本格的なケーキを売っているお店が
そこら中にあるけれど、
当時は『PASCAL』がそういう位置付けで、
味も見た目もお洒落で豪華に感じていた。
だけど、今は美味しいモノが溢れていて、
チェーン店のケーキですら質が高くて、
『PASCAL』のケーキが霞んでしまった、と。
「今もちゃんと美味しいのにね。
それなのに、感動が薄れてしまった。」
そう言って、母は寂しそうに笑った。
そう思うと……
交通が便利となり、
気軽に移動が出来るようになった。
インターネットが普及し、
グローバルな情報が行き交うようになった。
そうした時代の変化によって、
生活基準の底上げが
無意識のうちに起きているのかもしれない。
そうなると、
生活は便利で豊かになったけれど、
目が肥え、舌が肥え、知識が増え、
いつの間にか感動できる機会が減少して、
淡白な日々になってしまうのかもしれない。
それは既に起きているのかもしれない。
今もちゃんと美味しいのにね。という
母の何気ない一言が、
切なく心に響いた。
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