流星群と、高校生の私。
本日は皆既月食。
肉眼でも月の表情の変化が楽しめて、
神秘的な気分を味わえる夜でした。
そういえば、私が高校生の頃、
しし座流星群が話題となった。
その頃、
私にはお付き合いしている男の子が居た。
スケボーが好きで、背が高くて、
見た目は派手で怖そうな印象なのに、
実際はとても優しくて、純粋で、
皆から好かれている人気者だった。
そんな彼が、私の誕生日に電話で、
「好きだ。付き合って欲しい。」と
とてもシンプルな告白をしてきてくれたのは、
今でも思い出せるくらい、とても嬉しかった。
そんな彼から
「流星群を一緒に見よう」と誘われた。
その日、私と彼は、
いつも一緒に遊んでいる仲間たちと
池上会館の展望台に集まった。
今思えば、閉館している時間帯に
仲間と流星群を見たのだから、
きっと皆で忍び込んだのだろう。
(若気の至りだと思って許してください……)
そんなに広くもないスペースに
皆で並んで寝転んで空を見上げた。
大きめの流星が夜空を駆ける度に、
皆で声をあげて喜んだ。
だけど、それは最初だけで、
その後は見惚れるかのように
静かに、ただ夜空を眺めていた。
隣で寝転んでいた彼が
そっと手を握ってくれた。
それがまた、嬉しくて……
流星群の美しさよりも、
彼の温もりから獲られる幸福感で
胸の中が埋め尽くされていた。
ここからは、流星群の話とは離れるけれど……
ほんの少しだけ、その彼との想い出話を
此処に置いておこうと思います。
彼とは同じ高校に通っていて、
クラスは違ったけれど、同級生。
彼は授業中、よく居眠りをしていた。
休み時間に会いに行くと、
授業が終わっているのも気付かずに
寝続けている事なんて日常茶飯事。
酷い時は、昼食すら後回しにして寝ていた。
学校が終わると
いつも私を待っていてくれたのだけれど、
彼は自分のママチャリの後部に股がり、
私に向かって「俺を運んで」と言った。
つまり、彼は私に自転車をこいで欲しいのだ。
私は体育会系だったので、
彼を後ろに乗せて自転車をこぐのなんて
何の問題もなかったし、
その関係性が、好きだった。
彼なりに甘えているのだと伝わっていた。
その証拠に、彼はいつも嬉しそうに運ばれていた。
(自転車の二人乗りもしちゃいけませんね……)
冬場の彼は、黒いダッフルコートを着ていた。
そのダッフルコートを
「彼女だから」と私に貸してくれていた。
その上着を羽織る度に
彼の身体の大きさを思い知らされて高揚した。
彼はBLUE JEANSの香水をつけていた。
どんな香りなのかは思い出せないけれど、
彼にくっつくと、その香りがしたのも覚えている。
放課後は毎日のように公園に集まった。
そこは彼の中学時代の同級生たちとの溜まり場で
放課後になると約束をしている訳でもないのに
自然と数人の友人たちが集まった。
そこでは悪さをする訳ではなくて、
スケボーの練習をしたり、
原チャリのメンテナンスやカスタムをしたり、
音楽を聴いたり、雑誌を読んだり、
それぞれが自由気ままに過ごしていた。
だけど、私たちは……
いつだって、退屈で虚しかった。
あの頃の私たちは結局、
過ぎていく時間を無駄にしたくないから
どうにか楽しもうと必死だった。
心の底から楽しめる事が見つからなくて
必死にもがいていた。それが苦しかった。
「何やってもつまんねーな。
小学生の頃なんか走るだけで楽しめたのに。」
仲間の一人が呟いた その言葉に
核心を突かれた気がした。
それと同時に、
あぁ、私だけじゃなかったのか……と
少しだけホッとしたのを今でも覚えている。
そんな風に私たちは
ひたすら意味のない事を繰り返して
高校時代を消費していったのだけれど、
彼は、スケボーが好きだった。
心の底から楽しんでいた。
それが、とても羨ましかった。
彼がスケボーをしている姿を見ているのが
好きだった。
夢中になっている時の弾けるような笑顔や
難しい技を練習している時の真剣な表情、
技が失敗した時に悔しがる姿や
技が決まった時にはしゃぐ姿……
そんな姿を見るのが好きだったはずなのに……
いつからか、しんどくなっていった。
彼とは二年間 一緒に過ごした。
ほぼ毎日 一緒に居た。
お互いの家族とも仲が良くて、
良好な関係だったのに……
私が堪えられなくなって、逃げてしまった。
今思えば、独り善がりだった。
あの時、彼に抱いていた不満は
自己嫌悪に近いモノだったのだと今なら解る。
彼の純粋さに、嫉妬してしまった。
何に対しても夢中になれない自分が
嫌になってしまった。
その結果、別れを選んでしまったんだ。
彼とは、書ききれないくらいの
沢山の温かい想い出があって……
そんな事を、
本日の皆既月食を見ていたら思い出してしまった。
20年も前の情景や想いをほじくり返して、
すっかり時効となったはずの反省や謝罪、
そして小さな後悔をしている。
折角だから、今宵くらいは
彼との想い出に浸ってしまおうか。