見出し画像

伝統や慣習に阻まれ、生まれたばかりの我が子と離れなければならない母親の苦悩を描いた『モロッコ、彼女たちの朝』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:80/168
   ストーリー:★★★★☆
  キャラクター:★★★★☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

【以下の要素が気になれば観てもいいかも】

ヒューマンドラマ
イスラム社会
女性の権利
未婚の母

【あらすじ】

臨月のお腹を抱えてカサブランカの路地をさまようサミア(ニスリン・エラディ)。イスラム社会では未婚の母はタブー。美容師の仕事も住まいも失った。

ある晩、路上で眠るサミアを家に招き入れたのは、小さなパン屋を営むアブラ(ルブナ・アザバル)だった。アブラは夫の死後、幼い娘のワルダとの生活を守るために、心を閉ざして働き続けてきた。パン作りが得意でおしゃれ好きなサミアの登場は、孤独だった親子の生活に光をもたらす。

商売は波に乗り、町中が祭りの興奮に包まれたある日、サミアに陣痛が始まった。生まれ来る子の幸せを願い、養子に出すと覚悟していた彼女だが……。

【感想】

これは女性、特に母親目線からしたら特に辛いお話かもしれません。とにかくサミアの置かれた状況が過酷すぎて。。。

<モロッコの現状>

この映画を観るにあたり、モロッコがどういう社会なのかは知っておいた方がいいかもしれません。以下の監督へのインタビュー記事を読むとある程度わかるかと思います。

作中でのサミアは仕事を失い、住む場所もありません。街中を彷徨い、仕事や住む場所を求め続けていますが、どこも断られてばかり。ようやくアブラの家に招き入れられるも、最初は肩身の狭い想いを強いられるんですよね。

それは、サミアが未婚で身重だから。

上記の記事にもある通り、モロッコでは婚外セックスや中絶は違法とされている国です。さらに、婚外子や未婚の母というのは、家族やコミュニティから疎まれる存在で、あらゆる場面で差別を受けてしまうのだそう。そんな環境で子供を生んでも「罪の子」とされてしまうようで、サミアに限らず、生まれてすぐに我が子を養子に出さざるを得ないケースはよくあるそうです。

<伝統と慣習がすべてを阻む>

「どうせ養子に出すのだから」と言って、我が子が泣き喚いても放置していたサミア。しかし、やはり母性には抗えません。授乳を行い、我が子に触れ、その幸せを噛み締めます。本当はいっしょにいたい。自分のお腹を痛めて生んだ子なら多くの母親はそう感じるでしょう。でも、伝統や慣習がそれを許しません。

そんな状況にあっても、サミアに救いの手を差し伸べたアブラの優しさは身に沁みました。彼女は夫を亡くし、娘と2人暮らしです。モロッコでは、女性が埋葬や葬儀に参列できないという伝統があるそう。アブラも夫の葬儀に出られず、最後の別れができなかった悲しさを口にします。そんなこともあって心を閉ざしていたアブラ。しかし、サミアと生活を共にすることで、彼女もまた、人間らしさを取り戻していきます。この保守的な国の中でも、人との触れ合いこそが変化や成長のきっかけだと気づかせてくれました。

<その他>

日本でも女性の立場を巡る問題はよく取り沙汰されますよね。ただ、国によってはもっと強く抑圧された環境にいる人も存在するということをこの映画は教えてくれました。その国は“伝統”や“慣習”という、一部の人が大昔に作った、今となってはその存在理由すらよくわからないものに支配されています。伝統や慣習自体は否定されるべきものではないけれど、誰かが生きづらさを感じているのであれば、少しずつ改善していける社会にするべきだし、そのためにはどうしたらいいのか考えさせられます。

いろいろ感じることが多い作品だと思うので、ぜひいろんな方に観ていただきたいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?