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大人にも響く人生を問いかけるヒューマンドラマ『アルプススタンドのはしの方』

【基本情報】

製作年:2020年
製作国:日本
⠀ 配給:SPOTTED PRODUCTIONS

【個人的順位】

鑑賞した2020年日本公開映画ランキング:21/95
⠀ ストーリー:★★★★☆
キャラクター:★★★★☆
    映像:★★★☆☆
    音楽:★★★☆☆

【あらすじ】

高校野球の夏の甲子園一回戦。観客席のはしっこで試合を見つめる4人の高校生。

とあることがきっかけで「しょうがない」とあきらめている演劇部の安田あすは(小野莉奈)と田宮ひかる(西本まりん)。

ベンチウォーマーの矢野をバカにする元野球部の藤野富士夫(平井亜門)。

そして、成績優秀なのに友達がおらず、野球部のエースに想いを寄せる宮下恵(中村守里)。

高校生ながらもこじらせたような背景をもつ彼女らは、野球の応援を通してそれぞれの想いが交差し思いも寄らない展開になっていく。

【感想】

これ、普通にすごかった。。。限られた空間で描かれる人間ドラマが面白すぎるんですよ。。。

もともと全然知らなかった映画で。たまたまtwitterで映画好きな人たちが話題にしているのを見て、試しに観てみようかなと思っただけなんです。そしたら大当たりで。

舞台がほぼ野球場のアルプススタンドで場面転換が少ないのと、笑いの部分がすごく演劇っぽいなとは感じていたんですが、これ、元は全国高等学校演劇大会で最優秀賞を受賞した名作戯曲らしいですね。

なので、設定としては野球映画かなと思うんですが、それもまたちょっと違っていて。これ、野球応援映画なんですよ。切り口が斬新ですよね。

でも、その野球の応援はきっかけでしかなくて、メインは高校生の「しょうがない」という“妥協”や“あきらめ”との向き合い方、そして継続することの大切さを教えてくれるんです。もはや青春映画というより、人としての生き方を投げかけるようなヒューマンドラマだと思いました。

この映画の面白いところは2つあって、ひとつは人間関係が徐々に明らかになっていく過程と、もうひとつは冷めていた生徒たちが熱気を帯びていく変化。

この作品は群像劇っぽい感じではあるんですが、「しょうがない」を初めに言い出したのは、とあることが原因で演劇の大会に出られなかった安田あすは。彼女はそのことが原因なのか、しょっぱなからどこか冷めていて、野球の応援も学校の行事だから仕方なく来ているだけだったのに、同じ演劇部の田宮ひかるや元野球部の藤野富士夫との何気ない会話から彼らの関係性がどんどん明らかになっていく展開が、謎がひとつひとつ解き明かされていく感覚に似ていて妙にドキドキするんですよね。「え!そういうことだったの?!」みたいな。

さらに、その人間関係の根底にあるのが、部活のいざこざだったり、恋愛関係だったりと高校生らしい理由なのが、この歳になって観ると懐かしくもあります。「あー、そういうことで思い悩む時期もあったな~」って。

で、その冷めていた彼女らが、だんだん野球の応援に本気になっていく変化も面白いんですよ。その変化が生じた決定的な瞬間ってのは明確にはわかりづらいんですが、僕は熱血教師の厚木修平(目次立樹)の存在なんじゃないかと思っています。

彼はひとり熱くて正直鬱陶しさしかないんですよね(笑)その場にいる生徒全員にひたすら「声を出せ」と言い続けて、一昔前の先生像そのまんまなんですが、最終的に「俺は自分の野球魂をここに置きたい!」と自分が今やれることを精一杯やる姿勢がよかったのか、それをきっかけにみんな応援に本気になっていくので、彼の存在は何かしらの影響を与えているんじゃないかと思いました。

ただ、もともと生徒たちは自分の中にもやもやを抱えていたから、それを振り切るために大声を出したかったというのもあるとは思いますけど(笑)

僕がこの映画を観て思ったのは、世の中しょうがないことは多いし、それをなくすことはできないということです。演劇の大会に出られなかったこと、
野球部をやめざるを得なかったこと、想っていた相手が別の人と付き合っていたこと。過去を変えることができない以上、それらの事実はもう曲げることはできませんよね。

僕はけっこう引きずるんで、そういうのがあったらかなり悶々としちゃうんですが、それらを覆す努力も時と場合によっては必要だと思います。でも、それとは別に、自分がやりたいこと、今やれることを愚直に続けることでも、何らかの道は開かれるんじゃないかなとも思ったんですよね。

現に、先生は声を出し続けることで生徒たちの行動を変えたし、もうひとり、劇中には出てきませんが、野球部の矢野はベンチウォーマーながらも練習をひたすらこなすことで輝かしい未来を手にしたのですから。

何かをやり続けたからといって必ずしも報われるわけじゃないと思いますし、あくまでもこれは映画だからっていうのもあるんですが、しょうがないことにぶち当たってもなるようにはなるし、何かを続けることで別の何かを得るっていう人生もあるんで、ある意味、これは若い人が観るよりは、大人が観た方がいろいろ思うところがありそうって感じました。

また、キャストもすごくよくて、小野莉奈は『中学聖日記』のときから注目していたんですが、今回もいい演技でしたし、黒木ひかりの美少女感はやばかったですし、目次立樹はだいぶ年上に見えましたけど、調べたら実は大学の同窓生に当たる方だったりして、ストーリーだけでなくキャストの存在感も光る作品でした。

限られた空間、シチュエーションでこの濃い人間ドラマは一見の価値アリです。


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