ただ生きることを全力で肯定してくれる『ソウルフル・ワールド』
【基本情報】
原題:Soul
製作年:2020年
製作国:アメリカ
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ
【個人的順位】
鑑賞した2020年日本公開映画ランキング:22/203
ストーリー:★★★★★
キャラクター:★★★★☆
映像:★★★★☆
音楽:★★★★☆
【あらすじ】
ニューヨークに暮らし、ジャズミュージシャンを夢見ながら音楽教師をしているジョー・ガードナー。彼はついに憧れのジャズクラブで演奏するチャンスを手にするも、その直後に運悪くマンホールに落下してしまい、そこから「ソウル(魂)」たちの世界に迷い込んでしまう。
そこは、ソウルたちが人間として生まれる前に、どんな性格や興味を持つかを決める場所だった。ソウルの姿になってしまったジョーは、22番と呼ばれるソウルと出会うが、22番は人間の世界が大嫌いで、何の興味も見つけられず、何千年もソウルの姿のままだった。
生きる目的を見つけられない22番と、夢を叶えるために元の世界に戻りたいジョー。正反対の2人の出会いが冒険の始まりとなるが……。
【感想】
コロナの影響で日本での劇場公開がなくなり、ディズニープラスでの配信になってしまった作品(なお、『ムーラン』のように追加料金は不要です)。でも、これは絶対に映画館でやるべき映画だったと思いますよ。。。それほどソウルフルな映画だったので。
とはいえ、これまでのピクサー作品と比べると、けっこう大人向けという印象でしたね。キャラクターのモチーフもそうですし、ストーリーの部分でもそうです。
特に、前半のソウルの世界の話は、普段目に見えない魂という存在が全面に出ているので、過去作がおもちゃや車、魚であったことを踏まえると、子供からしたらパッと見の理解はしづらいんじゃないかなって思いました(僕には子供がいないので勝手なイメージですがw)。
また、ソウルを導くカウンセラーのジェリーも"全宇宙の量子化された場の集合体で人間でも理解可能な姿"という存在でなんのこっちゃっていう。大人でもよくわからない設定です(笑)
ただ、そのわかりづらい点を踏まえても、本作は現代社会を生きる人にとって、「当たり前であることのありがたさに気づかせてくれる」作品だったように思います。
ソウルの世界では、まずジェリーによって性格を決められた後、「きらめき」と呼ばれる特技や趣味、生きる目的を表すものを見つけてから、ようやく生まれることが可能になります。
しかし、22番はずっときらめきを見つけることができず、「自分はどこかおかしいんじゃないか」、「生まれるに値しないんじゃないか」と思っていました。本人は口では「地上に興味がない」、「ソウルの世界が快適だ」なんて言っていますが、寂しさの裏返しでしょう。
それが、ジョーと共に地上に降り立ったときに変わったんですよね。ひょんなことから、22番の魂がジョーの体の中に入ってしまうんですが、初めての地上生活で、街を歩き、人と話し、ピザのおいしさを知るという、人間が当たり前にしてきたことに幸せを見出んです。何千年もソウルの世界にいて見つけられなかったものを、地上での1日足らずの生活で手に入れることができました。
でも、それこそがきらめきになる人だっているんだってことをこの作品は教えてくれます。今の時代、何かと目的を求められ、それがないと生きている意味がないとさえ感じてしまうことってありますよね。その中で、この映画はただ「生きる」ということがどんなに素晴らしいか、何気ない日常がどれほど幸せなことなのかを、"生まれる前のソウル"という壮大な世界観を通じて伝えているんですよ。
意味や目的なんかなくたって、「今日は天気がよかった」、「おいしいものを食べた」、そういうのでいいんだっていうことをディズニー調に仕立て上げているのが心地いいですし、ただ生きることを全力で肯定してくれるのがうれしくも感じます。
過去のディズニー&ピクサー作品のように、はっきりとわかりやすいお話ではないかもしれませんが、コロナ禍で不安定な今の時代にピッタリだと思います。生きることに疲れた人はぜひ観てみてはいかがでしょうか。