【妄想】2023年のSTLの正捕手を予想する
今オフの動き
Molinaが11月1日にセントルイスを離れて約1カ月。ストーブリーグは徐々に盛り上がりを見せてきた。直近ではJose Abreuが、アストロズと3年5850万ドルの契約を成立させ、アストロズは2年連続のワールドシリーズ制覇のために強力なメンターを獲得することに成功した。
さて、セントルイスはこのオフシーズンどんな動きを見せているだろう。端的に言って、サンクスギビングの休暇もあり、目立つ補強策をほとんど講じていない。動きと言えば、来期もう一度Wainwrightがマウンドに戻り、ローテーションの一角が埋まったことか。あとは、2021年オールスター選出のAlex Reyes、左打のDH起用がメインとなったCorey Dickerson、代走や守備固めの出場が多かったBen DeLuzioがFAになったことで、現状40人枠は3人足りない状況になっている。ではこの抜けた3人枠にどんな選手が入ってくるのだろう。
来季に向けたフロントの思惑としては、MLB TRADE RUMORSによると、最も重要な課題が毎日出場できるキャッチャーの獲得であり、次点でソリッドな左打ち打者の用意である。したがって、捕手については、モリーナの後継者と目されたKiznerやHerreraといった自前の選手ではなく、FAやトレードを通じた補強で正捕手を賄うことがポイントとなる。また、現状Nootbaar以外には貧弱ともいえる、強力な左打者の獲得も必要になりそうだ(なお、左打者に期待するポジションは問題となっていない。これはフロントが守備力よりも強打を求めており、今期のDickerson的なディールを念頭にしていると考えられる)。今回は、STLフロントは誰を主たる捕手として獲得するか(勝手ながら)考える。
正捕手候補を5人ピックアップ
以下、今季FAの選手あるいはトレードが期待されている選手を任意に5人選んだ。
候補① Willson Contreras (CHCをFA)
Contrerasは今ストーブリーグの目玉キャッチャーの1人。今年のトレードデッドラインで放出されることがうわさされていたが、見返りが十分でなかったのか、結局トレードされずに残留した。彼の魅力はなんといってもその攻撃にあり、キャッチャーという守備負担の大きいポジションながら、HR20本前後、OPSは.700後半から.800中盤台をコンスタントに期待できる。7シーズンで稼いだWAR20.8は今季FAとなるキャッチャーの中でトップ。一方で、守備は打撃に比べ平凡であり、DRSは7年で11ポイント、盗塁刺殺率も30%ほど。ただいずれにせよ、2016年優勝メンバーという経歴はコンテンダーにとってチームの精神的な側面から魅力であり、多少の守備の不完全さは補って余りあるといえそう。
候補② Christian Vázquez (HOUをFA)
VázquezはMolinaと同じプエルトリコ出身の選手。そのキャリアの長い期間をボストンで過ごしたが、今夏のトレードでヒューストンへとトレードされ、そのままMaldonadoの控えとしてワールドシリーズにも参加し、チャンピオンリングを獲得した。Contrerasに比べて、パワーはないものの打率2割中盤、HR10本、OPS.700前後を平均して打っている。一方で、守備に関して言えば、Contrerasのそれに比べ十分良いといえ、8年で稼いだDRSは51ポイント、さらに盗塁刺殺率は34%とMLB平均よりも高い。一方でキャリア通じて100試合以上出場した年が3年にとどまり、安定性に不安があるかもしれない。
候補③ Mike Zunino (TBをFA)
メジャーのキャリアをシアトルで始め、途中でタンパベイに移籍した現在31歳のキャッチャー。マリナーズ時代の全盛期は年10-20本を放つ選手だったが、タンパベイ移籍後は沈黙。と思いきや2021年に突如覚醒しキャリアハイの31本を放った。全体的に低打率、低出塁率、高長打率。ただ、今年は一転してキャリア最低のシーズンとなったものの、運やシフト守備の影響もあると考えられ、来年は復調することが期待される。守備は平均程度だが、今回の5人のなかでは最もキャリアが長く、また最も出場イニング数が多い。
候補④ Sean Murphy (OAKからトレード)
年俸調停権を2023年に取得する28歳。この5人では最も若い。FA権取得は26年まで待つので比較的安い価格で契約できると考えられる。メジャーでの稼働期間が20年の短縮シーズン含めて4年と少ないものの、OPS7-8割を継続しており、ここ2年は110試合以上の出場を果たした。来季もホームランを2桁放つと予想され、攻撃面に文句なし。一方守備面も平均より高いと考えられる。ただパスボールが多い。フレーミングは年々向上しているのが好材料で、肩もMLBトップクラス。また過去3年間7割以上の試合に出場した点も評価できる。
候補⑤ Danny Jansen (TORからトレード)
トロントは3人の期待できるキャッチャー(あとはKirkとMoreno)を抱える中で、駒の多さから捕手の放出が見込まれる。特にJansenは年齢が最も高く、FAも2025年と近いことからトレードの対象になりやすいのではないか。22年シーズンはKirkとポジションを分け合いながら、OPS+141をたたき出した。シーズンを通じてコンスタントにHR10本前後を期待できる。一方稼働した4年間(20年を除く)で捕手として出場した機会が100試合を超えたのは2019年の1年にとどまり、この年はOPS.640と振るわなかった。守備は、過去5年でDRSが10と平均程度で、フレーミングもリーグの真ん中。盗塁刺殺率は25%と平均以下。
個人的にはVazquez、次点でMurphy
さて、仮にこの5人から選ぶならだれになるだろう。個人的にはChristian Vazquezが最適ではないかと思う。理由は主に3つある。
1つはセントルイスのフロントが求める「毎日役割を果たせる(the day-to-day demands of that role)」選手というところ。このときにSTLが念頭に置いているのは、RUMORSの記事によると「catchingのアップグレード」であり、求める捕手はより守備重視だと推測される。Vazquezは、キャリアを通じてみると100試合以上出場したシーズンは一見少なく見える。しかし少なくとも直近2019年から22年シーズンにかけては、毎年キャッチャーとして110試合以上に出場し続けており(20年シーズン除く)、DRSも年平均6以上と高く、この要請を満たすと思われる。懸念すべき点として32歳という年齢が挙げられるが、これはHerreraやKiznerら若手との調整で対処できる。なお、⑤のJansenはここ数年の捕手起用が少なく、また指標からは守備自体うまいとはいえず、Molinaが晩年期でも守備で活躍する姿を見ていたフロントやファンがこれを受容するかは微妙だと考える。①のContrerasも理由は似ており、毎年100試合以上コンスタントに出る安定性は極めて評価できる一方で、守備自体が代替可能レベルの点、「キャッチャーをアップグレード」したいフロントと折り合いがつけづらいのではないか。もちろん、打線の強化が期待されるものの、右の強打者が多いラインアップで、あえてここでその需要を満たす必要はなさそう。CHCが同地区なので、攻撃について対策されそうだというところもある。
2つ目は、メンター的な立ち位置である。来季以降Herreraの稼働が本格的に増えると目される中で、経験豊富な選手との関わりは彼の成長につながるだろう。この点Vazquezはレッドソックス時代、アストロズ時代の両方でポストシーズンに出場しており、この経験を若手に伝えられることが期待できる。特にPujolsやMolinaらベテランが抜けた中でのこの役割は大きいのではないか。②のZuninoもまたレイズ時代の経験からこの役割を果たせると思うが、やはり、ワールドシリーズを2度制したVazquezの経験は大きい。④のMurphyはこの役割を果たせないので外す。ただし指標のみで判断すれば、今後の伸びしろが大きく攻守両方に期待できる最良の選択肢だろう。しかしセントルイスがすでにキャッチャーを育てていることを考えると、Herreraにこの数カ月で故障等が発覚しない限りは選択しづらいのではと思う。なおこのクラスの捕手の見返りをトレードで得るには、DonovanやGorman、Liberatoreといった昇格済みの若手、あるいは順位の高いプロスペクトを提供することが見込まれる。フロントのキャッチャー獲得の優先順位が高いことを踏まえればここに踏み込む可能性は十分ある。
3つめは、Molina兄弟との関係性である。Molina兄弟とVazquezはどちらもプエルトリコ出身のキャッチャーである。伝統的に優れた捕手を輩出する同国の縦のつながりは強く、Molina兄弟の次男Jose Molinaはレイズにいた2014年時、同地区の敵チームにも関わらず、レッドソックスのルーキーVazquezに技術指導を施した。セントルイスがキャッチャーの育成を進めるにあたっては、直近にリタイアしたYadierとチームの良好な関係に加え、Vazquezという潤滑油のような存在をかませることで、より一体感をもって若手捕手育成ができるだろう。
以上より、個人的にはこの5人の中では、守備的なグレードアップ、メンターとしての能力、今後の捕手育成を見据えたMolinaとのパイプという3つの観点から、現在FAのChristian Vazquezが最善の選択ではないかと考える。予想される金額もAAV.700-1100万ドルの点も評価できる。一方で、Murphyの潜在的な能力の高さや若さを否定できず、チームの正捕手兼Herreraのリスク回避担当として、次点でアスレチックスとのトレードがよいと思う。ただ今期一番の捕手FAであるContrerasが決まらないうちは、市場も活発化しないのだろう。積極的に補強をしており、捕手で競業するアストロズの動きが、カージナルスの捕手獲得において今後重要になるんじゃないか。
なんにせよ、フロントには動いてほしいなあというところ。
【参考】
Red Sox’ Christian Vazquez getting help from Molinas - The Boston Globe
Mozeliak: Cardinals Seek Catcher, Left-Handed Bat - MLB Trade Rumors