「なんて自分はダメ人間なんだ」と頭を抱える日の気分
家に財布を忘れた。
資格試験会場の受付でバッグの中身に手を突っ込みながら、思い出す。
「本人確認書類がないと、受験できません」
申し訳なさそうにそう伝えてくる受付の方の言葉を聞いて、心がぽっきり折れる音が聞こえた。
人生で「なんて自分はダメ人間なんだ」と頭を抱えてへたり込んでしまいたくなる経験をしたことがないだろうか。わたしはある。今日はそんな日だった。
自分のだらしなさや、情けさで頭がいっぱいになる瞬間のことである。誰しもが経験したことがあると、わたしは信じている。結局は「よかった、わたしだけじゃないんだ」と安心したいだけなのかもしれない。でも、とにかく人生はうまくいかないことばかりなのだ。振り返ってみれば、「そんなこともあったな」と微笑みながら話せる出来事かもしれない。星野源は、携帯電話の料金支払いを延滞してしまうとエッセイで書いていた。星野源だって同じ人間なんだとほっとしたのを覚えている。わたしも笑い飛ばしたい。エッセイにすれば、糧にできるだろうか。
チャップリンも「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」と言っていた。でも、今この経験する瞬間は、「なんて自分はダメ人間なんだ」と自分で自分が悲しくなる。
コロナで外出を控えるうちに、いつか勉強して取りたいと思っていた資格試験があった。数ヶ月前に申し込んで、その日に向けて勉強してきた。平日は朝から夜まで働いていたので、晩御飯の後に勉強していた。やる気が出ない日は、寝る直前にベッドの上に参考書を広げてぼんやり眺めていた。ストイックに頑張れたかというと、ちょっと言葉には詰まる。頑張れない日もたくさんあった。本業の仕事は頑張っていた。
社会人で資格勉強や受験勉強するのは、本当に大変だと思う。向上心を持ちながら、晩御飯食べてYouTubeをぼーっと眺めたい気持ちを抑えて参考書を広げられる人は、その努力する姿勢だけでも、褒められるべきことだと個人的に思う。
資格試験を迎えた当日、お守りとして付箋だらけの参考書と携帯を持って、わたしは会場へ向かった。久しぶりに電車乗換アプリを立ち上げる。1ヶ月前の乗り換え情報が記録に残っていた。試験会場の最寄駅を目的地に設定する。少しずつ試験を受けられる緊張モードにチェンジしていくのを電車に揺られながら実感し始めた。
会場にたどり着く。時間ぴったりだ。受付へ行く。「本人確認書類をご提示ください」受付の人にそう言われながら、バッグを開ける。
財布がない。
いや、正確に言えば、「財布をバッグに入れた記憶がない」。
家にあるはずだ。いや、外出する時に財布を持たないことはあるのか?
そもそも外出機会が激減した。あと、財布を持たなくとも携帯でキャッシュレス決済できる。よって、財布を持たない習慣がついた。結果、わたしは今日の最大のミッション、「資格試験を受験する」において大事な「運転免許証」という本人確認書類のひとつを忘れてしまった。何が起きたか?わたしは資格試験を受験できず、会場を出た。テストセンターのビルを出た瞬間、梅雨特有の湿気の生ぬるい風が頬を撫でた。歩いていくうちに、ベトベトと纏わりつくこの水滴は、湿気なのか、変な汗なのかわからないが、不快なベタつきが身体中に張り付いているのを感じながら、家に帰った。なんの成果もあげられませんでした。
空港まで着いて、さあこれから旅行だ!と言う時にパスポートを忘れた瞬間。
電車の網棚に会社から貸与されているパソコンが入ったカバンを置いてきたのを忘れた瞬間。
エレベーターの隙間にスマホを落としてしまった瞬間。
周りのみんなは合格しているのに自分だけ不合格になった瞬間。
お仕事で、上司に前にも指摘された同じ間違いをしてしまった瞬間。
友達との集まりに寝坊してしまい、ドタキャンしてしまった瞬間。
原因はそれぞれ異なるにせよ、経験する瞬間に「なんて自分はダメ人間なんだ」と頭を抱えてしまうような場面だ。実際にきっと経験したことがある人は世の中にいると思う。幸か不幸か、わたしは上記は経験したことがないが、周りで聞いたことのある体験談だ。いや、エレベーターの隙間に落とし物は年始にやらかした。物を落として1分間は、情けなさのあまりにエレベーターホールの端っこで座り込んでいた。そんなわたしも、友人も、今日も生きている。
大なり小なり、取り返しのつかない失敗経験を積み重ねてくることで、人は賢く、強く、優しくなれると信じている。
今回わたしが経験したことは、同じ過ちを繰り返しても仕方ないので、今回は大いに反省した。帰り道に、財布を置く定位置にする用のミニバスケットをニトリで購入した。出かける頻度やバッグの種類に関わらず、バッグにマストで入れるべきアイテムはそのミニバスケットに入れておく。何も考えずに、バッグを持つ時はそのアイテムをバッグに突っ込む。帰宅したら、中身をミニバスケットに入れる。鍵の定位置を決めるのと同じ要領だ。もう、習慣化でカバーするしかない。あとは、旅行や結婚式、受験時など、大事な持ち物が必要な局面の時は、必ず持ち物を確認する習慣が大事。そう思うと、遠足のしおりって大事だったな。持ち物リスト、あったし。
自分の不注意やだらしなさで情けない気持ちがいっぱいになり、消えてしまいたくなる経験は、何回もある。そして、これからもするかもしれない。目一杯気をつけて生きるつもりだが、同じ人間なので、自分の不甲斐なさで床に転がっている自分の姿はなんとなく想像がつく。それでも生活は続く。
今日は、反省し、大好きなチーズを貪りながらこうやって文章にすることで気持ちを整理し、明日からもまた前向きに生きていこうと思う。
同じように、「自分はなんてダメ人間なんだ」と頭を抱えている人。ひとりじゃないよ。
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