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太陽にほえろ # シロクマ文芸部

「夕焼けは好きか」
そう聞かれたことがある。
聞いてきた奴も覚えている。
そいつは高校の同級生だった。
だから、高校生の時だ。
何年の時だったかまでは、もうわからない。
「夕焼けは好きか」
たまたま教室の窓から見える夕焼け空を眺めていたら、突然声をかけられた。

「えっ」
突然、そんなことを真正面から聞かれても返事に困ってしまう。
もちろん、夕焼けは嫌いではない。
思春期だから、ひとりの時などはそれなりに感傷にひたることはある。
しかし、そんなことは人に言うもんじゃない。
「あー、別に」
とりあえず、当たり障りのない返事をする。
相手の出方を窺う体勢だ。

「俺はな、好きやねん。夕焼け」
なんか、あっけらかんと好きな子の名前を教えられたような気分。
「そやけどな、俺が好きなんは、こんな夕焼けとはちゃうねん」
「どんなんや」
そいつは、はじめに親指と人差し指の先をつけると、パッと指先を開いた。
そして、その間から覗き込むような格好をした。
すぐに閃いた。
「それ、ボスやろ」
そいつは、嬉しそうに、
「おお、ようわかったな。太陽にほえろのポスがやるやろ」
「ブラインドの隙間から覗くやつやな」
「そや、そこから夕焼けをみるやつ。それがやりたいねん」
「やったらええやん」
「俺の家の窓は、全部カーテンやねん」

その頃、僕の部屋の出窓にはブラインドがついていた。
当時は、ブラインドがおしゃれだったのだ。
しかも、その窓は西向きだった。
「あのな」
一瞬頭によぎった言葉を、打ち消した。
「やっぱり、俺の部屋もカーテンやわ」

その後、彼がブラインドの隙間から夕陽をみることができたかどうか、それは知らない。
何年かして、別のクラスメイトの結婚式に出世した時、そいつは公認会計士になったと伝え聞いた。
それなら、事務所の窓は全部ブラインドにしているだろう。
きっと。

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