自己学習が前提の「知財業界での教育」
7月1日は「弁理士の日」です!
明治32(1899)年7月1日に、弁理士法の前身である「特許代理業者登録規則」が施行されたことから、日本弁理士会が、その施行日である7月1日を「弁理士の日」に制定しました。
この弁理士の日に合わせ「独学の弁理士講座」を運営している弁理士の内田浩輔先生から「弁理士の日記念ブログ企画2024」への参加のお誘いがありました。
https://benrishikoza.com/blog/benrishinohi2024/
今年のテーマは「知財業界での教育」です。
そこで今回は、私が特許事務所に入ったときに受けた知財業界での教育を顧みて、知財業界での教育について考えみました。
企業知財部からの転職
私が企業知財部から転職して特許事務所に入所したのは2009年でした。
当時の特許事務所は(といっても、今もですが)、権利化業務がメインであったため、「知財部経験」があるからといって「特許事務所での即戦力」ということにはなりませんでした。
実際、当時の転職活動では、いわゆる権利化業務の経験がなく、文系の私は即戦力を求める”特許”事務所への転職活動は困難を極めていました。
そんな中でありがたいことに、前職の事務所が私を受け入れてくれました。
特許事務所に飛び込んだ私にとって、最初は独特な文化に戸惑うことが多々ありましたが、専門家の諸先輩方に実務を教えてもらえるという期待が大きかったのを覚えています。
期待とは裏腹に
しかし、実際に勤務を開始したところ、面接時にお会いした”上司になるはずだったパートナー先生”は退職していなくなっていました。
え!?思ってたのと違う。。。
そして、実務は、同じ部門の先輩から教えてもらうことになったのですが、その指導は主に「過去のファイルを参考に書いてみて」というような感じでした。
所長は「●●君にちゃんと見てもらいなさい。」と言うし、これでいいのか?と思ったものです。
しかしながら、これはある意味(理由は置いといて)、そういうものだったんだと思います。
そのとき、自分自身で実務を身に付けていかないとこの世界では生き残れないと悟りました。
私が採った自己学習
商標の権利化実務においては、審査基準はあるものの、審査基準と異なる判断が日常的にされている状況でした。
そのため、特許庁の審査における判断がどのようになされているのかを理解しなければ、登録可能性調査における見解や拒絶理由通知に対する意見書(類否や識別力についての見解)は書けません。
そこで私は、調査報告書や意見書を作成する際に、同様の事例に関する審決を探し、商標の審決を学習資料として特許庁の実務上の判断のポイントを探ることにしました。
そして、作成した調査報告書や意見書については、先輩方や所長からフィードバックをもらい、自己学習と他者による評価を繰り返していきました。
担当する案件について、このようなサイクルを繰り返すことで、類否判断や識別力判断の勘所を体得していきました。
自己学習の重要性
今では商標の意見書などもJ-PlatPatで閲覧でき、自己学習による実務知識の習得は以前よりも容易になっています。
知財業界の人たちは勉強熱心な方が多いので、直接的に教育を施してくれる人が周りにいなくても、そういった過去の事例の情報を活用すれば、実務上の知識を身に付けることができます。
また、知財業界の知識は、企業と事務所とでは異なるものの、転職しても通用する知識が多いと思います。
逆に言うと、他社・他所の事例でも、それを学習することで業務に必要な知識を身に付けることができます。
そういう姿勢で日々の事例や他社の審決・判決を眺めると、業務に対する新たな気付きがあるように思います。
AIの分野では「自己教師あり学習」という機械学習の手法が注目を浴びていますが、私たちも自ら過去の情報を収集しそれを基に学習を進めることができます。
いわば自分で自分を教育するということです。
知財業界は、法改正や国ごとの制度の違いなど、常に情報のアップデートが必要です。
そのため、自己学習の必要性・重要性は、知財業界に携わる以上続くと思います。
生成AIなどが仕事を奪うと言われて久しいですが、自己学習ができれば、将来にわたって自己の知識がアップデートされ、AIと協働することはあっても、仕事を奪われるということはないと思っています。
そういう意味でも、知財業界での教育は『自己学習を前提』として捉えないといけないと思っています。