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【通信販売・私論】言葉にこだわる

通信販売は文字で書かれた言葉を読んでいただいて始まる商売です。
それゆえに、通販で物を売るということは言葉の使い方、選び方について何よりもこだわることが必要であるというのが私の考えです。
しかし言葉へのこだわりと言っても具体的にどのようにこだわれば良いのか?
「こだわる」という言葉は至極一般的に使われる言葉ですが、実際のこだわり方というのは実は千差万別のようにも思えます。
そこで今日は、私なりの言葉のこだわり方を具体的に書き述べてみたいと思います。

「こだわる」とは?

例によってまずは辞書で調べてみたいと思います。

こだわる《拘る》
他人から見ればどうでもいい(きっぱりと忘れるべきだ)と考えられることにとらわれて気にし続ける。
他人はどう評価しようがその人にとっては意義のあることだと考え、その物事に深い思い入れをする。

新明解国語辞典

そうなんですよね。「こだわる」とは元々はネガティブなニュアンスを含んだ言葉です。
しかし、最近では肯定的なニュアンスで使われることが多い気が致します。
今回の文脈としてはそのどちらでもよいのですが、上記の説明からすると後者の方、

私にとっては意義のあることだと考えていて、深い思い入れがある

という意味で書き進めて参ります。

通販と言葉

冒頭で書いたように通販は書かれた文字を読んだり、或いは話された言葉を聞くことで、誰かに関心を持っていただくことから始まります。その商品がどんな言葉で説明されたかによって、その売れ行きも大きく変わります。
キャッチコピーはもちろん、小見出しや本文のちょっとした言葉を入れ替えただけで売上が大きく変わることはごく当たり前に起こります。

「そんな言葉ひとつで…」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、通販業界の人からすれば、「そうそう!」と首肯いただけるかと思います。

実例をひとつあげるとキャッチコピーの文末を「?」と「!?」を入れ替えるだけで売上が変わったということもあるくらいです。

商売人としては少しでも売上を上げたいわけですから、その商品をどんな言葉で説明するのが良いか、ということについて想像以上に悩み、考え、頭をひねります。

対面であれば、相手の反応をみて別の言葉を使ったり、言い直すことができますが、通販は一度入稿したり収録してしまえば、そのあとに変更することができません。一度出してしまったものは言い繕うことができないのです。一球入魂ならぬ一広告入魂。だから私は言葉に強いこだわりを持っています。

以前に「通販は手紙のビジネスである」という記事を書きましたが。

【通信販売・私論】通販は手紙のビジネスである|意識低い系経営者 坂田純|note

手紙というのも言葉にこだわり、行間にも気を配って書くものです。
こちらもお読みいただければ、私のこだわりの強さをご理解いただけるかと思います。

修飾語にこだわる

具体的なこだわり方のひとつをあげますと、まず修飾語へのこだわりがあります。

例えばある商品の使い易さを説明する場合です。

・使い易い
・簡単に
・お子様でも
・すぐに
・手にしたその瞬間から

ざっといくつか書き出しましたが、まだまだいくつでも出てきそうです。
そして、それぞれに少しずつニュアンスの違いがあります(と私は思っています)。

その商品が何か、どんな便益をもたらすのか、ターゲットはどんな人なのか、安価なのか、高価なのか、
そうした違いによって、どの言葉が最適なのかを選択します。

使い易い商品です。という仕様書を読んで、ただ「使い易い商品です」とコピーを書いたのではプロとして芸がありません(と私は思っています)。

だから先のような違いを軸にして、「使い易い」でよいのか、他にどんな言葉があるのかをいくつも書き出し、説得力を訴求するのか、共感を訴求するのか、高級感をもたせるのか、お得感をもたせるのか、といった観点で最終的な決断をするわけです。

その商品が使い易いだけでなく、デザイン的な格好良さが売りだった場合は、さらに格好良さを修飾する言葉も考えます。

こうした思考を幾度も繰り返してひとつの通販広告を作り上げていきます。

他の言語もそうだと思いますが、日本語の修飾表現は実に多彩だと思っています。形容詞も豊富ですし副詞もあります。まるで〇〇のような、という比喩もあります。

オノマトペも面白い。ワクワク・ドキドキは一般的ですが、人によって地方によって聞いたこともないような言葉もあります。
実際に「オノマトペ 方言」で検索してみると各地方独特のオノマトペが出てきます。こうしたオノマトペを使うことで、地域性に合わせた広告作りも可能なわけです。

このようにして、様々な言葉を書き出し、さながら言葉の海に溺れながらもがき苦しみ、なんとか最適な表現を考えてだし、そして最終的な決断をして通販広告が出来上がっていくわけです。

こだわる理由

最終的な決断なんて言うとたいそう大袈裟に聞こえるかもしれません。しかし本当に最終的な決断が必要なんです。

なぜか?

それは、入稿したら終わりだからです。

後は実際に新聞に掲載されたり、DMが郵送されます。つまり結構な金額の広告費用が発生しているわけです。そして実際にお客様からのレスポンスがあって初めてその結果が分かるのです。予定通りの注文があれば正解となり、注文がなければ不正解です。不正解であれば、その費用は取り戻せないのです。

失敗を恐れずにチャレンジすることを社是にしていましたが、とは言え不正解というのは自分事として考えれば非常に悔しいのです。その悔しさが私の言葉へのこだわりをさらに強固にしていったと言えます。

私が悔しいから、次は悔しい思いをしたくないから。

そんな個人的、感情的な思いから私は言葉にこだわるようになりました。

こうして考えてみると、冒頭の辞書の説明にあった、
他人から見ればどうでもいい(きっぱりと忘れるべきだ)と考えられることにとらわれて気にし続ける。

という説明も実は非常に的確だったと思わざるを得ません。

商品を着飾る

ここまで主に修飾語を中心にした私のこだわりを話してきました。
さて、修飾という言葉には「飾る」という感じが使われています。
そこで改めて思うことは、通販広告というのは販売する商品を飾ることなのだということです。

その商品がいかに魅力的で、便利で、お客様の役に立ち、その人の心を満たし、プライドを高めることができるか、といったようなことを伝えていくわけです。

言葉をいくつも並べて、その商品についてどの言葉が一番その商品を輝かせるかを考える。

それはまるでたくさんの衣服を並べて、どの服が一番その人を輝かせるかを考えるファッションスタイリストのようです。

スタイリストはその人がどんな人で、どのような場で、どのような目的で、どんな印象を与えたいかなどを全て考え、それに最も相応しい服を選ぶものだと思います。
そして、その人もまた選ばれた服をまとい、着飾ることで自信を深めて舞台に立つことができるのだと思うのです。

通販商品そのものが言葉を発することはありませんが、売り手である私としてはスタイリストさながらに自分が手掛ける商品を最高の言葉で着飾って、お客様の前で披露させたい。
そんな思いから、たくさんの言葉を並べて、こだわって選び出し、広告を作ってきました。

こうしたこだわりは、通販だけに限らずに他の場面でも通ずるものとも思います。
何かを話すとき、私たちは言葉を選びます。
そんな言葉を選ぶときにその選択肢をより多く持っていること、言い換えれば語彙力の豊かさが表現力の強さに繋がるのだと私は考えています。


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