火災から民を守る、虚空蔵菩薩の使い - 「ヒツジ」『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第十五回)』
「神使」「眷属」とは、神の意思(神意)を人々に伝える存在であり、本殿に恭しく祀られるご祭神に成り代わって、直接的に崇敬者、参拝者とコミュニケーションを取り、守護する存在。
またの名を「使わしめ」ともいいます。
『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界』では、神の使いとしての動物だけでなく、神社仏閣に深い関わりのある動物や、架空の生物までをご紹介します。
動物を通して、神社仏閣の新たなる魅力に気付き、参拝時の楽しみとしていただけたら幸いです。
ヒツジの日
6月6日は「ヒツジの日」。
「6」という数字が、クルッと弧を描いたヒツジの角のように見えることから、「6」が左右に2つ並ぶこの日が「ヒツジの日」となりました。
ヒツジの女の子「メリーちゃん」のキャラクターで知られる「株式会社メリーチョコレートカムパニー」により制定。
神使「ヒツジ」
前回の『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界』では、ゾウを取り上げました。
太古の日本に、ゾウばかりか、サイも生息していたことに驚かれた方も多いことでしょう。しかしなぜか、今回ご紹介する「ヒツジ」は、旧石器時代にも、縄文時代にも、日本には生息してはいませんでした。
古代メソポタミアでは紀元前7000〜6000年頃より、ヒツジは家畜として飼われており、その肉や乳、脂肪は人々の欠かせない栄養源となり、毛や皮は、羊毛や羊皮紙などに加工されるなど、人類の発展に寄与する重要な役割を果たして来たのです。
古代中国では、家畜としての用途ばかりではなく、神への神聖な捧げ物、瑞獣と見なされ、青銅器などに羊文が施されることもありました。
「美」という漢字は、「羊」の角をアクセサリーとして身に付けた姿を、美しいと捉えた古代の人々の感性が生み出したともいわれています。
いずれにせよ、ヒツジは古代から人間にとって "ありがたい" 、吉祥をもたらす生き物だったのです。吉祥の、「祥」の字も「羊」が元となっていますね。
初めて、日本でヒツジの記録が見られるのが奈良時代に成立した『日本書紀』。
記録によれば599年(推古天皇7年)、百済から推古天皇への献上品として「駱駝一疋驢一疋羊二頭白雉一(ラクダ1頭、ロバ1頭、ヒツジ2頭、白キジ1羽)」が贈られたとあります。
以来、天皇への献上品としてヒツジが贈られた記録が残っていますが、継続して飼育され、繁殖した記録は残っておらず、日本の服飾製品は長らく植物繊維を原料とするものが主となります。
羊神社
名古屋市北区には、狛犬ならぬ狛ヒツジが安置されている「羊神社」が鎮座しています。
奈良時代に活躍した豪族、多胡羊太夫(たごひつじだゆう)が奈良の都に参内する際に立ち寄る屋敷がこの地にあったことから、羊神社の名がついたといわれています。
この羊太夫という人は、かなり不思議な人物だったようで、様々な古文書や伝承に「羊太夫伝説」が残されています。Wikipediaから引用しましょう。
金の蝶に?・・・
羊太夫は、一体何者だったのでしょうか?
羊神社には、火之迦具土神(ヒノカグツチノカミ)が祀られています。
伊邪那岐尊(イザナギノミコト)と、伊弉冉尊(イザナミノミコト)」の間に最後に生まれた火の神が、火之迦具土神です。
火災除けの神様としても知られており、羊太夫が地域の人々の生活を火災から守るために社を建立したといわれています。
虚空蔵菩薩の使い
ヒツジは、虚空蔵菩薩の使いとしても知られています。
虚空蔵菩薩を本尊とする、京都は嵐山の「法輪寺」境内には羊象が安置されています。
虚空蔵菩薩は、無限の智恵と福徳を授けてくださる、「虚空(宇宙)」を神格化した仏様です。
こちらの法輪寺では、13歳になる子供たちが虚空蔵菩薩に詣で、智恵を授けていただく「十三詣り」という行事が行われています。
虚空蔵菩薩の真言を100万回唱えることで、驚異的な記憶力が身につくといわれる「虚空蔵求聞持法(求聞持聡明法)」もよく知られています。