瑞祥を運ぶ、天日鷲神の使い「鷲」-『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第五十五回)』
「神使」「眷属」とは、神の意思(神意)を人々に伝える存在であり、本殿に恭しく祀られるご祭神に成り代わって、直接的に崇敬者、参拝者とコミュニケーションを取り、守護する存在。
またの名を「使わしめ」ともいいます。
『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界』では、神の使いとしての動物だけでなく、神社仏閣に深い関わりのある動物や、架空の生物までをご紹介します。
動物を通して、神社仏閣の新たなる魅力に気付き、参拝時の楽しみとしていただけたら幸いです。
日本の鷲
神使としての鷹(タカ)をご紹介した際にも述べたとおり、鷲(ワシ)との違いは曖昧であり、タカ科に分類される比較的大型の種を鷲(ワシ)、中型から小型の種を鷹(タカ)と呼称しているのが実際です。
鷹よりも大型の鷲は、その威風堂々とした姿から「鳥の王者」ともいわれています。
日本には、北海道から九州の山岳地帯にイヌワシが生息している他、オオワシ、オジロワシがユーラシア大陸で繁殖し、北海道や本州北部に越冬のため飛来しています。
日本で見られる最大級の猛禽類であるオオワシは、オスで全長90cm 近く、メスは100cmを超え、翼を広げると240〜250cmにもなります。
全身黒及び黒褐色で、翼の前と尾羽、足の羽毛が白く、嘴(クチバシ)が黄色いのが特徴です。
オジロワシは、北海道北部、東部でごく少数が繁殖するほか、京都など日本海沿岸部でも観察されています。
オオワシよりも一回り小型で、尾が白いのが特徴です。
イヌワシは、オジロワシよりもさらに一回り小さく、全身がほぼ黒褐色。成鳥では頭が黄色になるため英名では「Golden Eagle」といいます。
絶滅が危惧されており、全国での個体数は500羽ほどです。
イヌワシは、和名では「狗鷲」であるため、天狗のモデルなのではないかとする説もあります。
神使「鷲」
鷲が登場する日本神話があります。
天岩屋戸にお隠れになった天照大御神を外へ出そうと、布刀玉命(ふとたまのみこと)が神聖な幣を捧げ持ち、天児屋命(あめのこやねのみこと)が祝詞を奏上し、天手力男神(あめのたじからおのかみ)が岩屋戸の外で待ち構えるなか、天宇受売命(あめのうずめのみこと)が舞を踊っていました。
このとき、天日鷲神(あめのひわしのかみ)という神が弦楽器を奏でていると、その弦の先に一羽の鷲がとまったので、これは世を明るく照らす瑞祥であると大変喜ばれたそうです。
日本武尊も、東征の際に天日鷲神を祀る社に戦勝を祈願しました。
その後、凱旋した日本武尊は社前に熊手をかけてお礼参りをしますが、この日が11月の酉の日であったことから、鷲(おおとり)神社の祭日とされるようになったといいます。これが「酉の市」の発祥です。
武運長久、開運守護の神として信仰が厚かった「大鷲(おおとり)神社」。
源義光が兄の義家の援軍として戦へ向かう途中で、この社に戦勝祈願を行ったところ、一羽の鷲が義光の元に降り立ったといいます。
義光は、大鷲神社と鷲のご加護があったおかげか、この戦に勝利します。
戦の帰路、再びこの大鷲神社に立ち寄り武具を奉献したほか、社殿の改築にも尽力したと伝えられています。
また、戦勝祈願の際に降り立った鷲を祀ったとも伝えられています。