凶事を吉事に取り替える、天神様の使い「鷽(ウソ)」 - 『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第四十七回)』
「神使」「眷属」とは、神の意思(神意)を人々に伝える存在であり、本殿に恭しく祀られるご祭神に成り代わって、直接的に崇敬者、参拝者とコミュニケーションを取り、守護する存在。
またの名を「使わしめ」ともいいます。
『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界』では、神の使いとしての動物だけでなく、神社仏閣に深い関わりのある動物や、架空の生物までをご紹介します。
動物を通して、神社仏閣の新たなる魅力に気付き、参拝時の楽しみとしていただけたら幸いです。
神使「ウソ」
ウソの生態
今回ご紹介する神使は「鷽(ウソ)」。
ウソとは変わった名前ですが、これは「口元を細めて息を吐くこと」、つまり「口笛を吹く」という意味の古語です。口笛を吹いているような鳴き声を発することから、ウソと名付けられています。
ウソは全長15-16cmほどで、スズメよりも一回りほど大きく、頭の上部と尾、翼の大部分は黒、残りは灰色、そして頬から喉にかけて雄のみ赤色をしています。
日本では漂鳥、冬鳥として、本州と北海道の亜高山帯針葉樹林で繁殖し、冬は九州以北の低地へと移ります。
繁殖期には昆虫などを、非繁殖期には木の芽や実などを食べます。
色合いも美しく、ずんぐりむっくりの丸みを帯びた可愛らしい姿をしているウソですが、春の訪れを感じさせる桜や梅、桃などの花や蕾を食べてしまうので、食害も各地で問題になっており、駆除の対象になってしまうこともあります。
桜の名所といわれるような場所では、大問題ですね。
菅原道真公とウソ
ウソは、菅原道真公の使いであるとされています。
延喜2年(902年)正月7日に道真公が悪魔祓いの神事を執り行っている最中、無数の蜂がどこからともなくやって来て、参列者を次々と襲うという出来事が起こりました。
そんなとき、どこからともなくウソが飛来して蜂を食い尽くし、人々を救ったのでした。
これが、天神様を祀る神社で行われる「鷽替え神事」の起源になっています。
ウソと菅原道真公との関係については、諸説があるようです。
他には、天満社を造営するための材木についていた害虫を、ウソが食い尽くして退治したという説や、「鷽」の字が「學」に似ていることから、学問の神様の道真公と結びつけられたとする説などがあります。
鷽替え神事
「鷽替え神事」は、太宰府天満宮で毎年正月7日に行われる神事で、同様に全国の天神社でも行われます。
17時から神事で用いられる木彫りの「木うそ」が、参加者に授与されます。
辺りが暗くなると神事の始まり。暗闇の中で人々が、「替えましょ、替えましょ」の掛け声とともに木うそを互いに交換し、取り替えます。
前年の凶事が嘘に替わり、今年の吉事と替わるという意味が込められています。
この神事で用いられる木うその起源は、修正会(しゅじょうえ)といわれる寺院で行われていた正月の法会にあります。
修正会では、神仏の依代となる「削り掛け」といわれる木材を削ったものを使いました。木材の表面を削って羽に見立てる部分は、木うそと共通しています。
この修正会で使われていた削り掛けが、その後次第に木うそへと変化していったものとみられます。
江戸時代の初期より太宰府天満宮の神事として行われるようになった鷽替え神事。当初は木うそを袂に入れて参詣し、「うそを替えへむ」と言いながら、他の参詣者の木うそと交換したといいます。
各地の天神社、天満宮によって、木うその形状は、バラエティー豊か。
神事の後に最終的に手にした木うそは、神棚にお祀りし、一年の幸せを願います。