大威徳明王の使い「水牛」 - 『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第三十回)』
「神使」「眷属」とは、神の意思(神意)を人々に伝える存在であり、本殿に恭しく祀られるご祭神に成り代わって、直接的に崇敬者、参拝者とコミュニケーションを取り、守護する存在。
またの名を「使わしめ」ともいいます。
『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界』では、神の使いとしての動物だけでなく、神社仏閣に深い関わりのある動物や、架空の生物までをご紹介します。
動物を通して、神社仏閣の新たなる魅力に気付き、参拝時の楽しみとしていただけたら幸いです。
神使「水牛」
家畜としての「水牛」
沖縄県の八重山諸島、竹富島や由布島といった観光地で牛車を引く水牛はお馴染みですね。離島の集落を、ゆっくり、のんびりと歩く水牛の姿は優雅で癒されます。
野生の水牛の体長は2〜3m、体重は1000kgを超す個体も珍しくなく、後ろ向きに湾曲して生えた大きな角が特徴です。
これだけの巨体を誇る水牛ですが、いたって温厚で、人にもよく慣れます。
中国やインド、タイといったアジア各国では、5000〜8000年ほど前から家畜化されています。
水牛は昆虫による害から体を保護するため、また暑さから逃れるために泥の中に入ることを好む性質があるので、人間だと足をとられてしまうような水田での優れた機動力を活かして、農業に広く使われて来ました。
また、インドなどヒンドゥー教を信仰する国々では牛は神聖視されていますが、信者がその肉を食することは禁忌とされています。一方、乳牛として飼育されている水牛は搾乳ができなくなると解体され、食肉として食べられています。
なんとも可哀想な気が・・・
やはりこれにはインドでも抗議の声が上がっているのだとか。
大威徳明王と文殊菩薩
五大明王(他は不動明王、降三世明王、軍荼利明王、金剛夜叉明王)のうち、西方の守護者とされる「大威徳明王(だいいとくみょうおう)」が乗っているのが、神の使いの水牛です。
チベット仏教では「ヤマーンタカ(死神閻魔をも降す者)」とも呼ばれる大威徳明王。
その大威徳明王と、水牛の関係をあらわす伝承が残されています。
ある修行僧が長年に渡る過酷な行を経て、いよいよ悟りに到達しようとする直前に、盗賊の襲撃に遭い首をはねられて殺されてしまいました。
その凄まじいばかりの怨念から、盗賊がはねた水牛の首を自分の胴体につけ悪鬼となって蘇り、復讐の限りを尽くすのです。
しかし、自らを殺した盗賊だけではなく、無関係の人々までを襲うようになったことから、このことを憂いた文殊菩薩が牛の頭をもつヤマーンタカ(大威徳明王)に姿を変え、修行僧の怨霊を調伏するのです。
密教においては「三輪身」という考え方があり、各仏は本来の姿である「自性輪身(じしょうりんしん)」、菩薩の姿となった「正法輪身(しょうぼうりんしん)」、忿怒尊(ふんぬそん)の姿をとる「教令輪身(きょうりょうりんしん)」に変化するとされます。
大威徳明王の自性輪身は「阿弥陀如来」、正法輪身は「文殊菩薩」といわれています。