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神仏を助け、神剣を守護する「タコ」 - 『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第二十四回)』
「神使」「眷属」とは、神の意思(神意)を人々に伝える存在であり、本殿に恭しく祀られるご祭神に成り代わって、直接的に崇敬者、参拝者とコミュニケーションを取り、守護する存在。
またの名を「使わしめ」ともいいます。
『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界』では、神の使いとしての動物だけでなく、神社仏閣に深い関わりのある動物や、架空の生物までをご紹介します。
動物を通して、神社仏閣の新たなる魅力に気付き、参拝時の楽しみとしていただけたら幸いです。
神使「タコ」
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日本は世界一の「タコ」の消費国(漁獲量では中国、メキシコ、モロッコにつづいて第4位)で、世界中で食べられているタコのなんと6割も日本で消費されているのだとか。
大きな頭に、8本の吸盤のある長い足、軟らかくてヌルヌルした体というグロテスクさをもつタコ。歴史上、最初にタコを食べた人はどんな気分だったのでしょうか。勇気がありますね!
タコは2千年前くらいから食べられていたようで、鹿児島県指宿市の「橋牟礼川遺跡」や、兵庫県明石市の「池ノ上遺跡」といった弥生時代の遺跡からは、タコ漁に使われた「蛸壷」と思われるものが出土しています。
平安時代中期に編纂された律令の施行細則である『延喜式』には、タコの干物や熟れ鮨が貢納された記述が残されています。
「たこ焼き」も日本の食文化として根付いており、タコは日本人にとってとても愛着のある生き物です。しかし一方の海外では、海の魔物「クラーケン」として恐れら、食用とされることはほとんどありませんでした。
そんなタコは、どのようにして神使となったのでしょうか。
浮世絵に描かれるタコ
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タコは浮世絵の題材にも広く使われました。
『東海道五十三次』などの錦絵で知られる歌川広重による『大日本物産図会』には漁師たちが乗る船よりも巨大なタコが描かれています。
これは「越中滑川之大蛸」という大ダコの伝承をモチーフとしたもの。富山県滑川はホタルイカの名産地として知られますが、錦絵に描かれているのは大タコです。
かつてこの滑川の海には牛や馬を食う大ダコがおり、漁船をひっくり返すなどして人も襲われていました。ある時、業を煮やした漁師たちは船の中で寝たふりをして待ちかまえ、忍び寄って来た大ダコの長い足を鉈で断ち切って急いで岸へ戻りました。大ダコの吸盤は1日の食事の量に匹敵したとか。
猫や妖怪など、奇想天外な浮世絵で現代でも高い人気を誇る歌川国芳が描いたのは『流行蛸のあそび』。当時、流行っていた庶民の遊びをタコを擬人化して描いています。
よく見ると、タコが相撲をとったり、踊りをおどったり、曲芸を披露しているのが分かりますね。
タコはその容姿から、不気味で恐ろしいイメージをもたれていたかもしれませんが、ユーモラスで滑稽さのあるイメージもあり、親しみを感じている人も多かったのかもしれません。
福岡神社
鳥取県伯耆町(ほうきちょう)の「福岡神社」は、地元の人々に「たこさん」「蛸大明神」として親しまれ、崇敬される古社です。
ご祭神の速玉男命(ハヤタマオノミコト)が熊野灘(和歌山県)で嵐に巻き込まれ遭難した際に、大ダコが現れて助け、無事に吉備国へ渡ってこの地へとたどり着いたという伝説があります。
これを由来としたのが福岡神社に伝わり、「日本三大奇祭」にも数えられる、「蛸舞式神事(たこまいしきしんじ)」。
毎年10月の第3日曜日に執り行われるこの神事。境内の舞堂といわれる建物の中で、ふんどし一丁になった12人の氏子たちが、藁で作られたタコを持った男を抱え上げ、胴上げの要領で8回(タコの足の数に因む)天井に向かって勢いよく上下させます。
次に丸梁(舞堂の中にある丸太の梁)に抱きついたタコ役の氏子を、足役の8人が回転させるという文字通りの奇祭です。
安楽寺
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愛知県知多郡日間賀島にある「安楽寺」には、「章魚(タコ)阿弥陀」と呼ばれる阿弥陀様が大切に祀られています。
安楽寺が創建される前、ここには「筑前寺」というお寺がありました。
大昔、この地を襲った大地震によって筑前寺の仏像の胎内仏は海に流されてしまいます。しかしある時、漁師が仕掛けていた網を引き上げてみると、胎内仏を守るように抱きしめた大ダコがかかっていたのです。
以来、この地では引き上げられた胎内仏を「たこ阿弥陀」として崇敬して来ました。毎年1月3日には「たこ供養」が行われています。
タコの吸盤は吸い付いて離れないことから、「たこ阿弥陀」は良縁のご利益があるとされ、多くの女性の参拝者で賑わいます。
早吸日女神社
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大分県大分市に鎮座する「早吸日女(はやすいひめ)神社」。
紀元前667年のこと、神武東征の際に黒砂(いさご)、真砂(まさご)の二神が、大ダコが海底で守護していた神剣を取り上げて奉献。この神剣をご神体として祀って創建したのが、こちらの社。
タコは早吸日女神社の神使とされ、神職はタコを一切食べないそう。
絵馬のかわりに、タコの描かれた張り絵を奉納する「蛸断ち祈願」が有名です。
高尾山の「たこ杉」
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高尾山の登山路である1号路を歩いていると、奇妙な形をした大きな杉の木に出会います。
その根っこは、不自然なほどクネクネと地表を張っています。そう、まるでタコの足のようです。
その昔、高尾山の参道を切り開こうとしているところ、この杉の木が邪魔になって切り倒すしかないという結論になったのです。しかし一晩経つと、その根っこは参道を避けるように曲がっていたのです。
これを当時の人々は、高尾山に棲まう天狗たちの神通力によるものだと畏怖しました。
以来、「道が開かれる」縁起の良い杉、開運の象徴として祀られるようになったのです。
「たこ杉」の横には、「開運ひっぱり蛸」と呼ばれるタコの像が置かれています。タコを撫でて、参拝すると「道が開ける」そう。
私たち人間の神経細胞(ニューロン)の数は約160億、一方のタコは5億といわれています。これは犬と同じです。つまり犬と同じくらいの知能がタコにはあるのです。人を識別する能力もあり、好奇心の強いタコは、伝説上多くの神仏を助け、守って来ました。こうしたタコの知能、知性が、人々が崇める霊力と結びつき、神使とされるに至ったのでしょう。
タコと所縁ある神社仏閣
不老山薬師寺成就院・蛸薬師(東京都目黒区)
福岡神社(鳥取県伯耆町)
早吸日女神社(大分県大分市)
綿津見神社(岩手県野田村)
愛宕神社(石川県七尾市)
狩浜春日神社(愛媛県西予市)
参考文献
『神道辞典』国学院大学日本文化研究所(編)弘文堂
『神社のどうぶつ図鑑』茂木貞純(監修)二見書房
『神様になった動物たち』戸部民生(著)だいわ文庫
『東京周辺 神社仏閣どうぶつ案内 神使・眷属・ゆかりのいきものを巡る』川野明正(著)メイツ出版