毒を制し、雨を降らせる、釈迦如来の化身「孔雀」 - 『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界(第三十六回)』
「神使」「眷属」とは、神の意思(神意)を人々に伝える存在であり、本殿に恭しく祀られるご祭神に成り代わって、直接的に崇敬者、参拝者とコミュニケーションを取り、守護する存在。
またの名を「使わしめ」ともいいます。
『神々の意思を伝える動物たち 〜神使・眷属の世界』では、神の使いとしての動物だけでなく、神社仏閣に深い関わりのある動物や、架空の生物までをご紹介します。
動物を通して、神社仏閣の新たなる魅力に気付き、参拝時の楽しみとしていただけたら幸いです。
神使「孔雀」
日本に最初に孔雀がやって来たのは推古天皇6年(598年)8月。新羅から天皇への貢物として贈られたことが『日本書紀』に記されています。
以来、6世紀から12世紀の間に数多くの孔雀が、鸚鵡(おうむ)などとともに日本に持ち込まれました。
アジア地域には「インドクジャク」と「マクジャク」の2種が生息しており、日本の動物園などで多く見られるのは頭部や頸部が濃い青色をしたインドクジャクです。古代、中国から渡って来たのは頸部が濃い緑色をした後者のマクジャクだといわれます。
孔雀は、サソリやコブラなどがもつ猛毒(神経毒)に対しての耐性があり、捕食さえします。こうしたことから益鳥、霊鳥として崇拝の対象となってきた歴史があります。
人間が最も恐れる毒を制するその力は、古代の人々にとっては人智を超えたものと考えられたのでしょう。
孔雀への信仰心から、「女神マハーマーユーリー(偉大なる孔雀)」が生まれ、それが密教に取り入れられると「孔雀明王(摩訶摩瑜利)」となりました。
孔雀明王は密教において、釈迦の化身とされ、人々に密教の教えを伝授し、導く際に孔雀明王の姿となって現れるといわれます。
修験道の開祖「役小角(えんのおづぬ)」は、孔雀明王の真言をひたすら唱え続けることで、"五色の雲に乗って" 空中を飛翔することができ、鬼神を自在に使役できたと『今昔物語・巻第十一』に記されています。
平安時代初期の真言宗の僧侶である恵運は、入唐八家(空海、最澄など唐代の中国に渡って、日本に密教の真髄をもたらした8人の僧)の1人として知られます。
恵運は入唐後、承和14年(847年)に帰朝した際に孔雀、鸚鵡(おうむ)、狗(いぬ)を天皇への献上品として持ち帰っています。
この時代に孔雀が海商や僧侶らの手によって日本に数多く持ち込まれたのは、孔雀明王を本尊とする、無病息災、請雨祈願、邪気退散の密教修法「孔雀経法」を修する際に、孔雀の尾羽根を必要としたことも関係していたのではないかと思われます。
京都の仁和寺には北宋時代(11世紀)作の孔雀明王像が伝わっており、唐から送られてきた孔雀もこの仁和寺へ移送されています。
「孔雀経法は広沢無双の大秘法なり」といわれる秘法中の秘法である孔雀経法は、仁和寺の歴代門主、門跡(皇室・公家出身の僧)が独占的に修することのできる鎮護国家の大法とされていました。
装飾としての孔雀
中尊寺・金色堂
中山寺