旧犬鳴トンネルで出会った謎の行者たち 〜暗闇に響く不気味な錫杖の音〜
映画「犬鳴村」が公開され、より全国的にメジャーなスポットになった「旧犬鳴トンネル」。
福岡や、その近郊に住む若者にとっては肝試し、暇潰しには最適なスポットです。大抵は一度や二度は行ったことのある場所でしょう。
私も御多分に洩れず、若い頃は随分と通ったものです。
もう30年ほど前のこと、私は超常現象や心霊現象を考察する会を主宰していて、自作の会報を毎月発行するなど、活発な活動をしていました。
心霊スポットがあると聞けば、取材に出かけ、泊まり込んで写真を撮ったり、ビデオ撮影をする、そんなことをしていたのです。
今回のお話は、そんな会の活動の最中に起こった出来事です。
「旧犬鳴トンネル」で起こった怪談話などをたくさん聞いてきましたが、私がこの時に見たものと同じものを見た、という話を全く聞いたことがないのです。
ここでお話をすることによって、同じものを見たという方のお話を聞けると良いのですが・・・
取材へ
当時、九州一円の心霊スポットを廻って、一夜を過ごし、怪異な出来事が起こらないか検証するという試みを行っていました。
何かが起これば会報の良いネタになります。熊本県のあるトンネルを検証した帰りには、運転をしていた仲間が急に気を失い、追突事故を起こすなど、九死に一生を得るような経験もしました。
「旧犬鳴トンネル」は当時でも、定番中の定番スポット。
それまでは一度もカメラやビデオなどの機材を持ち込んだことがなかったので、何かを撮影出来ればという淡い期待を持って、改めて取材へ赴くことにしました。
現在の「旧犬鳴トンネル」はコンクリートブロックで塞がれており、尚且つそこへ至る道路はトンネルに達する遥か前方で封鎖されているため、トンネルはおろかトンネル前にも立ち入ることは出来なくなっています(勿論、封鎖された道路に無断で立ち入ってしまう方は相当数おられるとは思います)。
私が訪れた30年前当時も、ブロック自体は設置してありましたが、道路の封鎖などは一切なく、トンネルの内部にも難なく入ることが出来る状態でした。
トンネルには仲間と2人で訪れましたが、私たち以外にそこを訪れている者は一人もおらず、静まり返っています。
どこに車を停めて、どこから撮影をするかなどを決めるため、下見をしておこうと一度、昼間の明るい時間帯に訪れました。
日中に訪れたトンネルは、昼なお暗く、心霊スポット特有の重苦しい雰囲気が立ち込めています。私と仲間はトンネルの入口付近に乗って来た車を停めて、トンネルの内部を覗いてみることにしました。
宮若市側(北側)からトンネルへ向かいました。
この時既にトンネルの入り口にはブロックが置かれ始めていました。おぼろげな記憶ですが、当時はトンネルの半分ほどしか塞がれておらず、容易にトンネル内へ入ることが出来ていました。
現在では宮若市側(北側)の入口はブロックで完全に塞がれています(福岡市側はブロックで塞がれているものの上部にやや隙間があります)。
トンネル内部へ
私達はその半分ほど積まれたブロックによじ登ってトンネル内部へと入りました。
トンネルの外では全く異常を感じることはなかったのですが、トンネル内部の空気はやけに冷たく、トンネル内に僅かに入り込む風の音が人の話し声にも聞こえます。ここは外とは全く隔絶された異空間であると感じました。
トンネル内部をあちこちに視線を向けながら、一歩一歩踏みしめながら歩きます。
トンネルの開口部付近には外からの陽射しが若干差し込むもののトンネルの中央部は異様な暗さです。
ただ光が直接差し込まないから暗いというのではなく、何者かが潜むために必要な場を、その何者かが自らの意思で作り出しているといった感じです。
足元やトンネルの外壁、そしてトンネルの出口に懐中電灯の灯りを当てながら何とか出口付近まで到達し、また折り返して元の場所に戻って来ました。
トンネルの内部ではポラロイドカメラによる写真撮影と、ビデオ撮影を試みました。
ポラロイドカメラで撮影した写真は、まるで空間が捻じ曲がったように不自然にブレていたり、タバコの煙が広く拡散したような白いモヤ状のものがいくつも写り込み、中には赤い紐のような物体が宙をくねくねと蠢いているような写真が撮れました。
一方のビデオの方は、撮影ボタンを押しても全く反応がなく撮影そのものを断念せざるを得ませんでした。
夜間に再度ここを訪れ、同じようにトンネル内部をポラロイドカメラとビデオで撮影しながら歩こうと計画していたのですが、異様な写真が撮れてしまい、また撮影機材にも不具合が起きたことで、私たちはすっかり怖気付いてしまいました。
計画の練り直しです。日中だから、無事に外に出られたのかもしれない、夜はトンネル内部には立ち入らず、外からカメラを回そうという結論に至りました。
夜のトンネル
23時近くになってトンネルの入口に再び到着。
既に不穏な空気が漂っています。
トンネル内部や周囲の木々の隙間から誰かに、いえ大勢の人に"見られている"感覚がありありとあるのです。
友人と2人で、無言で頷き合いました。無言でしたが「見られてるよね」そう友人が言っているのが理解出来ます。
日中に不用意にトンネルに入り込んでしまったせいで、中にいた者たちを刺激してしまったのかもしれない、そう思いました。
私たちはただ心霊スポットを訪れて、肝試しをしに来たのではありません。
心霊現象を考察する会ですから、「考察のための材料となる"現象"」を持ち帰りたいところ。
何とか噂されている様な本当の心霊現象が起こるのか、怪異が起こるのかを写真や映像で捉えなければ来た意味がありません。
既に日中には異様な写真を撮影することには成功していますが、夜間に撮影した写真や映像には、それよりももっとすごい何かが映し出されるはずだとワクワクした気持ちも同時に湧き上がっています。
変な使命感に駆られた私たちは、恐怖心で胸が一杯になりながらもその場に留まることにしました。
深夜にトンネル内部を歩きながら撮影することは、様々なリスクを考慮し断念しました。
代替案としてトンネル入口のブロックにビデオカメラをトンネル内に向けて据え置き、私達はトンネル脇に停車した車の中に待機し、時折ビデオカメラの動作をチェック。
その際トンネル内部を写真撮影するということに決めました。これなら内部に入る必要はありません。
その日は、夜になっても他に肝試しに来る様な人たちは一人もいませんでした。
私と友人はトンネル入口を塞いでいるブロックの上にビデオカメラをセッティングし、録画ボタンを押しました。そのまま車に戻って待機します。
しかし暗闇の中、トンネルの前に車を停めて、そこにじっとしていることほど気持ち悪いことはありません。
窓の外は真っ暗闇で、そこに何がいても、どういう光景が広がっていても全く検討がつかないほどの暗さです。
ヘッドライトに映し出された者
そんな不安な時間をやり過ごしながら、時間は深夜の1時になっていました。
緊張感からか喉が異様に乾きます。
私たちは飲み物などを持参していなかったので、撮影機材をそのままにして、一旦山道を自動販売機のあるところまで下って、飲み物を調達して来ようということになりました。
そして車で山道を下り始めてすぐ、前方に白いものが見えました。
それはヘッドライトに照らされた、「人」でした。
しかも白装束。法衣(鈴懸)に、結袈裟をかけ、笠をかぶっている修験道の行者さんなのです。
それも1人ではなく、10人ほど列をなし、読経をし、錫杖を打ち鳴らして歩いているのです。
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