📗【文書版】✴️礼拝メッセージ『ことばの奇跡の祝いの祭り』

📗昨日2023年5月28日(日)の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
✴️礼拝メッセージ『ことばの奇跡の祝いの祭り』

旧約聖書　創世記第11章1～9節
1さて、全地は一つの話しことば、一つの共通のことばであった。
2人々が東の方へ移動したとき、彼らはシンアルの地に平地を見つけて、そこに住んだ。
3彼らは互いに言った。「さあ、れんがを作って、よく焼こう。」彼らは石の代わりにれんがを、漆喰の代わりに瀝青を用いた。
4彼らは言った。「さあ、われわれは自分たちのために、町と、頂が天に届く塔を建てて、名をあげよう。われわれが地の全面に散らされるといけないから。」
5そのとき主は、人間が建てた町と塔を見るために降りて来られた。
6主は言われた。「見よ。彼らは一つの民で、みな同じ話しことばを持っている。このようなことをし始めたのなら、今や、彼らがしようと企てることで、不可能なことは何もない。
7さあ、降りて行って、そこで彼らのことばを混乱させ、互いの話しことばが通じないようにしよう。」
8主が彼らをそこから地の全面に散らされたので、彼らはその町を建てるのをやめた。
9それゆえ、その町の名はバベルと呼ばれた。そこで主が全地の話しことばを混乱させ、そこから主が人々を地の全面に散らされたからである。

新約聖書　使徒の働き第2章1～21節
1五旬節の日になって、皆が同じ場所に集まっていた。
2すると天から突然、激しい風が吹いて来たような響きが起こり、彼らが座っていた家全体に響き渡った。
3また、炎のような舌が分かれて現れ、一人ひとりの上にとどまった。
4すると皆が聖霊に満たされ、御霊が語らせるままに、他国のいろいろなことばで話し始めた。
5さて、エルサレムには、敬虔なユダヤ人たちが、天下のあらゆる国々から来て住んでいたが、
6この物音がしたため、大勢の人々が集まって来た。彼らは、それぞれ自分の国のことばで弟子たちが話すのを聞いて、呆気にとられてしまった。
7彼らは驚き、不思議に思って言った。「見なさい。話しているこの人たちはみな、ガリラヤの人ではないか。
8それなのに、私たちそれぞれが生まれた国のことばで話を聞くとは、いったいどうしたことか。
9私たちは、パルティア人、メディア人、エラム人、またメソポタミア、ユダヤ、カパドキア、ポントスとアジア、
10フリュギアとパンフィリア、エジプト、クレネに近いリビア地方などに住む者、また滞在中のローマ人で、
11ユダヤ人もいれば改宗者もいる。またクレタ人とアラビア人もいる。それなのに、あの人たちが、私たちのことばで神の大きなみわざを語るのを聞くとは。」
12人々はみな驚き当惑して、「いったい、これはどうしたことか」と言い合った。
13だが、「彼らは新しいぶどう酒に酔っているのだ」と言って、嘲る者たちもいた。
14ペテロは十一人とともに立って、声を張り上げ、人々に語りかけた。「ユダヤの皆さん、ならびにエルサレムに住むすべての皆さん、あなたがたにこのことを知っていただきたい。私のことばに耳を傾けていただきたい。
15今は朝の九時ですから、この人たちは、あなたがたが思っているように酔っているのではありません。
16これは、預言者ヨエルによって語られたことです。
17『神は言われる。
終わりの日に、わたしは
すべての人にわたしの霊を注ぐ。
あなたがたの息子や娘は預言し、
青年は幻を見、老人は夢を見る。
18　その日わたしは、
わたしのしもべにも、はしためにも、
わたしの霊を注ぐ。
すると彼らは預言する。
19　また、わたしは上は天に不思議を、
下は地にしるしを現れさせる。
それは血と火と立ち上る煙。
20　主の大いなる輝かしい日が来る前に、
太陽は闇に、月は血に変わる。
21　しかし、主の御名を呼び求める者は
みな救われる。』

　主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。
　この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。
　
　荒井裕樹(あらいゆうき)さんという、障害者文化論を研究をなさっています文学者方のが、「言葉が壊される」という現実についてこういった文章を書いていらっしゃいます。

　2010年代に入って以降特に、憎悪、憎しみや侮蔑、暴力、差別に加担する言葉が非常に多く目につくようになってきた。
　少数に属する側、それはたとえば民族であれ、経済状況であれ、障害を持つ人であれ、生活に困窮している、そういう少数に属する側に対する憎悪表現としか言いようのない言葉があふれている。ソーシャルメディアの中においてもそうですし、人の尊厳が傷つけられる言葉が発せられること、そういう言葉が　生活圏に紛れ込んでいる。生活の中に　言葉がそういうふうに、恐れやためらいの感覚というのが薄くなってきているのではないか。
そういうものがあって当たり前。そういう状況が私たちの社会を作っているのではないか。ある人の生きる気力をそぐ言葉、そういう言葉が飛び交う社会は、誰にとっても生きようとする意欲がわかない社会である。

　ということですね。
　言葉、というのは、とても大きな力を持っています。言葉一つで、人を殺すことも逆に生かすこともできるんですね。人間のことばでさえそうです。ましてや神のことばは、打ちひしがれている者を再び立ち上がらせる力を与えるんですね。そんなことばを今日も受けて、再び立ち上がる経験を共にさせていただきたいと思っております。

　今日はペンテコステ、聖霊降臨日です。キリスト教会の三大お祭りと言いますと、まずパッと思いつくのはクリスマスだと思います。もう日本では冬のあのシーズンだけ、来た宣教師の方が日本はキリスト教国かと思うほどのクリスマスセールやイルミネーションがあるわけですけれども、商業的な意味で有名になっているんですけれども、本来はイエス・キリストの誕生をお祝いするお祭りですね。

　そして復活祭、イースター、キリスト教会ではクリスマスよりも復活祭、イースターの方が重要なんですけれども、イエス様の死からの復活をお祝いするお祭りですね。こちらも日本で数年前からディズニーほかがイースターイベントをやったりして、商業的な意味で日本でも有名になってきました。

　ところがペンテコステ、聖霊降臨日、これはどうも日本では知名度が低いです。でも、教会ではクリスマスやイースターと同じくらい、大事なお祭りです。
　クリスマスはイエス様のお誕生のお祝い、イースターはイエス様の復活のお祝い、じゃあペンテコステは何かというと、教会のお誕生のお祝い、と言うことができると思います。
　実際、そういうふうに説明されることが多いです。特に子供たちのための教会学校・こどもの教会などではそう説明されることが多いですね。
　イエス様が墓から、死から復活なさって40日目に、天に昇って行かれた、昇天なさったことを先週は共に学びました。ルカの福音書の最後のところです。
　イエス様は、「わたしの父が約束してくださったものをあなたがたに送ります。―これが聖霊なんですけれども、―いと高きところから力を着せられるまでは、都にとどまっていなさい」と弟子たちに言われて天に昇って行かれましたが、イエス様が天に昇って行かれた後、弟子たちはエルサレムの都に帰って、いつもエルサレム神殿にいて神さまをほめたたえていた、という喜びの余韻に満ちた終わり方をルカの福音書はしていました。
　その続きが使徒の働きなんですけれども、そこに記されているのは、弟子たちはエルサレムでずっと一緒に集まって祈っていたんですね。昇天から10日ほど経って、五旬節(ごじゅんせつ)の日になりました。
　旬、というのは、日本語でも上旬、中旬、下旬、と言いますね。旬(じゅん)10日のことを言いますね。ですから五旬節、というのは、50日目という意味で、ギリシャ語のペンテーコステースというのが50日目というそのまんまの意味なんですね。五旬節というのは、7週の祭り・シャブオットとも呼ばれます。過ぎ越しの祭りから7週間後の日に、小麦の収穫の初穂を神にささげる祭りであり、それはもう一つ意味が付け加えられていて、まぁ正確な日数ではないんですけれども、モーセがシナイ山で十戒を神さまから授かったのがだいたいこの時期になるので、そのことのお祝いでもありました。
　それで、（5節に、）

5さて、エルサレムには、敬虔なユダヤ人たちが、天下のあらゆる国々から来て住んでいたが、

　となっていますけれども、これはちょっと背景の説明が必要なんですね。ユダヤ人たちはローマ帝国の各地に散らばって住んでいました。ディアスポラ、といって離散の民なんですね。根無し草、といったニュアンスです。
　その人たちが、あらゆる国々からエルサレム来て住んでいた、「住んでいた」というのは、いわば直訳でして、滞在していたんですね。
　というのは、この当時の離散のユダヤ人たちにとって、日本風に言うなら、お伊勢参りみたいなものだったんですね。ユダヤ人だけどエジプトで生まれ育った。カパドキアで生まれ育った。でも、はるばる遠いエルサレムまで、それまで稼いできだ路銀をもって、仕事も休んで、一族郎党に「じゃあ行ってくるよ」と告げて旅に出る。そんなものだったんですね。
　そして長い旅の末エルサレムに着いて、過ぎ越しの祭りに参加する、そしてその7週間後、ユダヤ式にその日も入れて数えて50日目に、五旬節のお祭りがあるものですから、祭りが連続してあるわけですね。ですから遠くから何十日もかけて来ている人にとっては、一回ふるさとに帰っておいて、もう一回来るというのは面倒くさすぎますから、エルサレムに約50日間泊まるんですね。宿屋に泊るか親戚の家にでも泊まるかして、二つのお祭りに出るわけなんですけれども、そういった人たちがたーくさん各地からエルサレムの町にきていて、町はごった返しています。この祭りの時期には、エルサレムの人口が爆発的に増えたんですね。それが、エルサレムには、敬虔なユダヤ人たちが、天下のあらゆる国々から来て住んでいたが、という意味なんですね。
　そういう人びとがエルサレムにいっぱいいた。この背景をまずおさえておいていただきたいんです。

　じゃあ集まってイエス様に言われた通りに祈って聖霊を待っていた弟子たちに、五旬節のちょうどこの祭りの日になって、

2すると天から突然、激しい風が吹いて来たような響きが起こり、彼らが座っていた家全体に響き渡った。
3また、炎のような舌が分かれて現れ、一人ひとりの上にとどまった。

　不思議な現象です。エルゴレコという有名な画家は、その光景をこういうふうに絵画で表現しました。
　でもこれはエルグレコの想像なわけですから、実際はどういう現象が起こったのかは分かりません。炎のような分かれた舌と言われても私たちにはよく分からないのですが、この使徒の働きを書いたルカの筆の限界でしょうね。とにかく人間のことばや絵画でも表現しきれないような不思議な現象が起こって、ようするにイエス様が約束してくださった通りに、聖霊が弟子たちひとりひとりに注がれた。これは12弟子以外の合わせて120人の男女の弟子たちひとりひとりに注がれたわけですね。そして4節、

4すると皆が聖霊に満たされ、御霊が語らせるままに、他国のいろいろなことばで話し始めた。

　弟子たちの多くが、ガリラヤ出身の、まぁ失礼な言い方なんですけれど、語学を勉強するような学のある人はなかなかいないような、言ってみれば田舎から出てきた人たちの集団です。しかしその人たちがそれぞれ習ったことのない別々の外国語でしゃべり始めた、っていうんですね。
　そこで、各国から来た滞在中のディアスポラのユダヤ人たちは、びっくり仰天するわけですね。「なんで俺らぁの言葉を知っちゅうがな！？」って言うわけですね。11節後半、
　
あの人たちが、私たちのことばで神の大きなみわざを語るのを聞くとは。」

　って言うわけです。神の大きなみわざ、大いなるみわざです。弟子たちがそれぞれ外国語を話し出したとはいえ、「ああ、あなたリビア出身ですか。そうですか、私も一回だけ行ったことあるんですよね。あそこはいいところですね。あの料理が美味しいですね」なんて言って世間話をしたわけじゃないでしょう。「大きなみわざ」っていうのはイエス・キリストの十字架と復活による、罪の赦しと永遠のいのちの良きしらせ、福音でしょう。そういうのを聞いて、びっくり仰天したわけですね。
　そこでペテロは他の11弟子と一緒に立って、声を張り上げて語りました。これは旧約聖書のヨエル書の預言の成就なんだと。17節18節でペテロがヨエル書を引用してこう語っています。

17『神は言われる。
終わりの日に、わたしは
すべての人にわたしの霊を注ぐ。
あなたがたの息子や娘は預言し、
青年は幻を見、老人は夢を見る。
18　その日わたしは、
わたしのしもべにも、はしためにも、
わたしの霊を注ぐ。
すると彼らは預言する。
　これは、あとでヨエル書第2章をそのまま読んでくだされば違いが分かりますが、ペテロは実は、ヨエル書を引用する時に、少しだけ文言を変えています。それはペテロのヨエル書の解釈が入っているんですね。でも内容自体は全く変わっていません。
　神は言われる、というヨエル書には無いことばを付け加えていますけれども、これは預言者ヨエルも、神が言われたことばとして語っていますから、ペテロが嘘をついているわけではないですね。「終わりの日に」というのもヨエル書では「その後(のち)」となっているわけですが、ヨエル書のこのことばが終末なこととして語られているので全く間違っていないわけですね。むしろペテロが、ヨエルが語った終末のできごとが今起こっているんだ、と聞き手に訴えかけているわけですね。
　そして、わたしのしもべにもはしためにも、この「わたしの」もペテロの小さな付け足しですが、主語は神ですね。神さまが、わたしの霊を注ぐ、と言っておられる。その後の、「すると彼らは預言する」というのは、ペテロのヨエル書解釈とも言えるような付け足しなんです。
　というのも、旧約時代は、限られた人にしか神の霊、聖霊は注がれなかったんですね。怪力サムソンとか、ダビデなどもそうですが、もっとさかのぼって、モーセの時代にはモーセと限られた長老たちにしか聖霊は注がれませんでした。そのためモーセは、民数記第11章(29節)で、「主の民がみな、預言者となり、主が彼らの上にご自分の霊を与えられるとよいのに。」と言っているんですね。モーセは皆が聖霊を受けて、神のことばを語ることを望んでいた。それだけ、旧約時代には、聖霊は特別な人にしか注がれない、というイメージが強かったんですね。
　そのモーセの時代からの背景があってこそのヨエルに与えられた神のことばなんです。私たちはヨエル書のことばをなんとなく聞くかもしれませんけれども、旧約聖書だけを知っていた当時のユダヤ人たちにとっては、驚くべき預言なんです。特別な人だけじゃなくて、すべての人に聖霊が注ぐ、そして、特別な祭司や預言者ではなくて、あなたの息子や娘も預言する。―未来予知の預言では無くて、神様のことばを預かって語るということです―そしてしもべにも、はしためにも、というのは、男奴隷にも女奴隷にも、ということです。その人たちにも注がれる。えー！？そんなことってある！？何しろ奴隷ですから、人間扱いされない。そういう見下された人たち、絶対に神様のきよい霊が注がれることの一番ないように見える者たちに、聖霊が注いで、神のことばを語る、つまり預言する、ということです。
　そしてこれは終末のできごとだとヨエル書を続けて引用して語ったのちに、ペテロは、

21　しかし、主の御名を呼び求める者は
みな救われる。』

　というヨエルに与えられた神のことばの引用を閉じるんですね。そしてその後、また旧約のダビデのことばを引用したりして、それで、これらすべてのできごとは旧約聖書の預言の成就なんです。イエスこそ旧約聖書に預言されていたメシア、つまりキリストなんだ、と大演説をしたわけですね。いやしたというより、むしろ神によって聖霊によってさせていただいたと言った方がいいでしょう。
　それで、その日に、離散のユダヤ人と、多分異邦人も含むんでしょうけれども、聞いていた人たちが心を刺され、その日になんと3000人が悔い改めて、バプテスマ・洗礼を受けて仲間に加えられた。
　これが教会が誕生した、教会の誕生日とよく言われるゆえんです。

　さて、これは、言ってみれば、ことばの奇跡でした。聖霊によって、ことばの奇跡が起こった。通じなかった言葉が通じるようになった。コミュニケーションの回復が起こって一つになることができた。そういう話だとよく言われます。今日は時間の関係でお読みしませんでした使徒の働き第二章の続きの44節以下では、「信者となった人々はみな一つになって」「毎日、心を一つにして宮に集まり」「毎日、救われる人々を加えて一つにしてくださった」と「一つ」「一つ」「一つ」とあります。一致があったということですね。これはどういう一致なんでしょうか？

　今日、新約は使徒の働き第二章、合わせて旧約聖書の創世記第11章が読まれました。有名な、バベルの塔の話です。
　実はここにも、ある意味での一致があったっていうんですね。

1さて、全地は一つの話しことば、一つの共通のことばであった。

　この時代にはそうであった、っていうんですね。そして、このバベルの塔は歴史家のヨセフスによれば、創世記第10章の8節に出て来る、地上で最初の権力者ニムロデによって統制されて、人々がまとめられて、一つのことばで、この建築をしていたのだそうです。それで権力者たちは言いました(創世記第11章4節)。

「さあ、われわれは自分たちのために、町と、頂が天に届く塔を建てて、名をあげよう。われわれが地の全面に散らされるといけないから。」

　全地に散らされることでバラバラになって力を失うことを恐れたんですね。そして、天まで届く塔を建てて名を上げよう、「名を上げよう」ですから、有名になろうという翻訳もあるんですが、有名になることを望んだというよりも、聖書で名、とか、名前、と言う時には、そのものの全存在とか、本質とかを表しますから、本質を上げて神のようになろうと思ったんですね。
神さまはこの、自らを神としようとする、神の前の傲慢に対して非常にお怒りになった。そしてどうなさったか、塔を雷でも落としてお崩しになったかというとそうではない。人々の言葉を混乱させなさったのです。そうして主は別々の言葉になった彼らを、地の全面に散らされました。主なる神が話し言葉を混乱させられたので、バベルと呼ばれた、というのは、ヘブル語でバラルというのが「混乱」という意味だからです。
　このできごとは確かに、自分を神としようとする人間への、まことの神からのさばきであり、確かに呪いではあると言えるし、確かにさばきという面があるわけですが、でもある牧師先生が興味深いことを言っていまして「散らされたことが、ある意味で恵みである」と。
　そうだと思います。確かに全地に散っていった人々は、苦労したかもしれません。その行った先で、生活拠点を整え、畑などを開墾し、血のにじむような努力をしたかもしれません。だけれども、このバベルの塔で一致して働いていた時は幸せだったかと言うと、私にはそうは思えないんです。
　やはり塔を作るために、部品のように、歯車のように労働力として使われる、そこには、そこには統制が必要なわけです。

　たとえばこんにちの学年で区切って、カリキュラムで時間割を管理するおなじみの義務教育の学校のシステムのモデルとなったのは、昔のドイツのプロイセンモデルです。これは軍隊の下部組織として始まりました。そこで一番重要な教育は「標準語を教える」ということだったんですね。それによって命令系統を統一させ、従順な兵士候補生を育てることが一番重要だったんです。

　こういう一つの言葉で、権力によって統制される一致、というのは、ペンテコステの時の一致と、全く異なります。もう逆といってもいいかもしれません。まぁ権力を持つ人が、「一致しなさーい」とか「一つになってくださーい」などと号令をかけるか、あるいは強く言わなくても、ほのめかすか、などをした時には、要するに忖度してくださいって言っているわけですよね。私に合わせてください、と言っているわけで、あなたたちの個性は殺してください。あなたたちの多様性は認めません。あなたたちの考えや意見は認めません、と言っているわけで、これを国や政治のリーダーがやり始めると、全体主義、ということになってくるわけですね。

　それでこういう一つ、となるために、どうしても意に沿わない―というか包摂しきれない―人々への抑圧、差別、搾取、などが行なわれて行くわけですね。

　冒頭で紹介しました文学者の荒井裕樹(あらいゆうき)さんが「少数に属する側に対する憎悪表現としか言いようのない言葉があふれている」と言われた時にすぐに今だったら思い浮かべるのは、入管の問題だと思いますね。入管法改正と言いますが、実質改悪案だと思います。ウィシュマさんをはじめ、多くの方が日本の入管で酷い扱いをされて亡くなっています。祖国から命からがら日本に逃げてきた人々です。しかしこのカッコつきの“改正”案では、追い返しやすくしたわけですね。こういう死亡などが起こるから、国に帰ってもらいやすくしますという理屈なんでしょうけれども、その人たちは国に帰ったら殺されるんですよ。だから逃げてきているのに。そういった入管問題があるわけなんですけれども、一部の議員の方のウィシュマさんやその支援者たちに対する言葉がひどいんですけれど、ツイッターやさまざまなSNSやソーシャルメディアの記事についているコメントを見てみますと、同じ日本人から、目を疑うようなコメントの言葉が並んでいたりします。差別や人権侵害を正当化したり加担する言葉が沢山投げかけられているんですね。

　外国人に対してだけじゃありません。荒井さんが言うところの少数に属する側に、あるいは社会的弱者とされている人々に対する憎悪、憎しみ、コラボ問題などもそうですよね。社会的に弱い立場に置かれている女性たちを助ける、仁藤夢乃さんのバスカフェなどの活動に、叩きが物凄いんですね。憎悪、憎しみと言ってもよいようなコメントまでついている。どうしてしまったんだろう？そういうのがSNSによって可視化されただけかというと、荒井さんが言うように、そういう言葉を発することに対して、

　恐れやためらいの感覚というのが薄くなってきているのではないか

　というのは、その通りだと思うんですね。（思えば高齢者集団自決・集団切腹、などという言葉も、3，4年前は、テレビなどのメディアで大々的に取り上げられることは無かったし、そういう発言をする人がテレビで重宝されるなどということは無かったはずです。）まさに荒井さんが言うところの、「ある人々の生きる気力をそぐ言葉の飛び交う社会」にますますなってきていると思います。それは、おそらく、誰かを抑圧したり、差別したり、排除したりすることによって一つになる、一致を保つ、というほとんど本能的なまでに人間に刻み込まれている業というか、悲しいサガですね（「内集団バイアス」という人間の脳の特性にも深い関係があります）。本質的に群れないと生きて行けない弱い存在である人間が、根源的にもっている、散らされることへの恐れ、もっと言えば死への恐れ、が根源的にあるわけですけれども、聖書の言い方で言えば「罪」ということになるわけです。
　だから私は、抑圧や差別なんかしない。とは私も言えないんです。「私は差別なんてしません」と言った瞬間に、差別する者であることが分かるわけなんですけれども、というのは、差別というのは、多くは無自覚に行なわれることだからですね。だから私も気付かずに多くの差別をしてきたわけです。聖書の言い方で言えば私も罪を犯してきたし、また犯し続けているわけです。

　ではどうすればいいのか。どうしようもない。人間の力では、それを克服することはできないわけです。だからこそ、私たちの力ではできないからこそ聖霊に任せるわけです。

　まず聖霊は、私たちの罪をイエス・キリストが身代わりに十字架で負ってくださり、それによって私たちが完全に神の前にゆるされたこと、そのことを真実だと教えてくれます。そのことだけでも大変に感謝なことですね。

　そして聖書では、聖霊は単に「霊」とも書かれてある時がありますが、霊と息と風は同じことばで表され、同一視されますが、聖霊の風は、自分たちの力を集めて、結束して大きくなろう。統制して、統一して、一つになろうというような、人間の力を誇るところにはまず吹いて来ません。もちろん風は思いのままに吹くですから、一概には言えませんが、聖霊が働くのは弱さや破れがあらわになって、打ちひしがれていくところです。そこに風が吹く。新しい新鮮な風が吹く。そして新しいできごとが起こって行くんです。

　旧約聖書のエゼキエル書第37章に記されているできごとでは、枯れた骨が積み重なっている谷に、聖霊の風が四方から吹きました。そうしたら枯れた骨が生き返って人間になったんです。そして彼らは自分の足で立ち上がったんです。ペンテコステによく読まれる箇所ですが、打ちひしがれた者の足を聖霊の新鮮な風はもう一度立ち上がらせてくださるんです。
　
　このことは思えば、これは私たちの物語でもあります。なぜなら散らされたからです。突然の教会の閉所というできごとに見舞われて、痛みを覚えました。大きな失望と挫折とを味わいました。けれども、新鮮な聖霊の風がびゅうって吹いた。そして、もう一度散らされた神の民を主が集めてくださったのです。そして、8日目の日曜日に、トマスを含む弟子たちの真ん中に復活のイエス様が立たれて、シャローム、平安あれ、と声をかけてくださったように、ここで、この場所で、復活の主イエスは共におられて、毎週ごとの礼拝で、シャローム、平安あれ、わたしが一緒にいる！だから大丈夫だ！って、声をかけ続けてくださっていたではないか！そして私たち一人一人に、ふうって息を吹きかけて、聖霊を注ぎ続けてくださっていたではないか！日本語でも「風向きが変わった」という表現をしますよね。ちょうどその日本語の表現のように、新しいできごとが起こって行く。それも新しい神のできごとが起こって行くんです。

　バーバラ　ブラウン　テイラーというアメリカの聖公会の、とってもみずみずしい表現をなさる説教者がいらっしゃいます。この方が、「ライオンと魔女」などを書いたイギリス人の作家であり神学者でもある、CSルイスの「天国と地獄の離婚」という本の中での地獄についての話を引用しながら、こう語るのです。ルイスは地獄についてこう言っています。

地獄というのは、どんなかっこうをしているか、それは、私たちが住んでいる場所とあんまり変わらない。
地獄というのは、広大な灰色の町のようだ。
しかしその町はどういう町かというと、人が住んでいるのは、町のはしっこばかり。真ん中は空き家ばっかり。どうしてか？
真ん中で初めは皆が住んでいましたが、けんかをし、そして一つ離れた家に住み、さらにけんかをし、またもう一つ離れて住む。
新しい隣人とけんかをしてはまた引っ越し、結局町が空き家ばっかりでいっぱいになっている。それが地獄なんだということです
CSルイスによれば、町というのは人々が、けんかで解決しようとしながら、相手に立ち向かう。
そういうふうにする代わりにもう、けんかさえ避けて、人が人を避けながら、遠くへ遠くへ住んでいく、それが地獄だというんです。

　そのエピソードを引き受けながら、バーバラ　ブラウン　テイラーはこう言うのです。

教会というのは何か、荒涼とした灰色の町の真ん中で　町の祭りを開くんだ、って。空き家ばっかりになった町の真ん中にあって、祝いを続けるというのです。
音楽と笑い、陽気なにぎわい、互いへの愛情によってその場を満たす。遠方に引っ越して行った住民たちはこぞって、自分たちが住んでいる辺境の地から、そうっとやってくる人々が、その様子をみて知ることができる。この騒ぎ、この輝き、この喜びがいったい何であるのかを。

　こう言うんですね。
　私たちが集めていただいたのは、それは喜びを知るためです。
　私たちができるのは、ほんの小さなことかもしれません。けれども、大ーきな聖霊の風に吹かれながら、この町の中で、バーバラ　ブラウン　テイラーの言うところの、町の祭り、祝いの祭り、つまり聖餐を繰り返す。喜びの宴を繰り返すのです。喜びの食卓を繰り返させていただくのです。主イエスの血とからだというゆるしと愛の見えるみことばがそこにあります。それを共に見つめ、それを共に食することにおいてこそ、本当の一つ、ということが実現します。ただいまより、その喜びの祝いである聖餐にあずかります。お祈りをいたします。

恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神。
あなた様は散らされた人々を、四方から吹いてくるあなたの聖霊の風によって、再び集めて一つとしてくださいました。挫折し、自分の弱さに打ちひしがれている者にも、ふうっと新しい風を吹きつけて下さって、もう一度立ち上がらせてくださいます。ことばがもう一度通じるようになる。ことばの奇跡が起こりました。個性を殺されて無理やり一つにされるのではありません。人間と人間とが、素晴らしいものを一緒にみつめ、素晴らしいものに一緒にあずかる祝いによって一つとされる。そのような祝いを続ける旅を、御国に行く日まで繰り返しつつ歩んでまいります。主イエス・キリストの御名によって祈り願います。アーメン。