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その先は擬態(初稿)

 ——お疲れ様でした。
 ——アーリアの調査は今のところ順調のようですね。

「順調。ね……」

 この人工知能を作ったやつはどう言うつもりで設計したのだろうか? まだ調査は始まったばかりだというのに順調ときた… 機械なのに楽観的すぎやしないか? 

 そのくせ人類再建に対しての責任感や重圧は感じていないというから厄介だ。コイツと喋っていると一人でいるより孤独を感じる。

「植物の分析をする。ラボの扉を開けてくれ」 
 
 ——了解。実験室隔壁開放。

 「よし、ラボに入ったぞ」

 ——了解。実験室隔壁閉鎖。

 この部屋は嫌いだ。

 未知の惑星から物質を持ち込むため安全対策でいちいちエアロックの開閉をしないといけない。おまけにスーツも着たままだと言うのだから煩わしい。万が一にでも持ち込んだ物に病原体が付着していたら、俺自身が媒体となり船内に汚染を広げるリスクがあるからだ。

 「記録再開。植物の葉を採取してきた。色は緑。葉の大きさは十センチ程度と言ったところだろう。また、葉脈が茎の方へ集結しているため、成長には水分が必要と予想する。近くに水脈があったため、少しばかり拝借してきた。地球人が飲める成分であれば、ひとまず自然環境は我々が適用可能であると思われる」

「ノア。この葉と水を成分分析にかけろ」

——現在アーリア人の言語解析にCPUの七〇%使用中。並行処理を行うと言語解析完了時間が遅れますがよろしいでしょうか?
 
「それはまずいな。成分分析は本船に回せ」

 ——了解

「ノアの処理能力を考慮し、二次調査は本線に行わせる。俺は三次調査準備のために船をアーリア人の居住地近くまで移動させる。記録終了」

 やっと終わった。

「ノア。扉を開けてさっさとこの檻から俺を出してくれ。」

 ——了解

「それと聞いていたな? 船を動かす。アーリア人の巨獣区域から一〇キロほど離れた場所へ移動してくれ。」

 ——すでに移動を開始しています。
 ——それからご報告が。

「なんだ?」

 ——軌道上の本線から衛星カメラの画像が転送されてきました。

「衛星カメラ?」

 ——はい。整体スキャンをした時は無機物のため検出されなかったのですが、どうやら彼等は、もう一つ奇妙な特性を有していたようです。

「奇妙、ね。荒唐無稽な体験はこれまでの惑星調査で嫌というほどしてきたぞ。あれらに勝るような報告か?」

 —安心してください。奇妙と言っても調査に影響が出る程のものでは無いかと思われます。

「で、カメラに映った無機物ってのは、なんだったんだ?」

 ——はい。彼等は本を必ず持ち歩いているようです。

「本?」

 ——本です。あらゆる角度の映像が届きましたが、幼体から成体まで皆、本を所持しているようです。そして彼等の持っている本には一つ一つ違うタイトルが記載されていました解析結果から推測するに、持ち主の名前が記載されているようです。

  本に、名前? 今回も妙な惑星に来てしまったな。地質の分析結果は本船に回してしまったからまだ出ないし、放射線濃度も少し濃いようだ。全く何が順調なのか……

「そいつは確かに奇妙だな。他に解った事はあるか?」

 ——それから言語解析が完了。どうやら惑星アーリアで使用されている言語は一つのようです。

「よし。三次調査でアーリア人との接触を試みる。リアルタイムでの翻訳と音声合成システムを構築し、スーツの外部スピーカーに繋いでおけ」

 ——了解。目標地点に到着しました
 ——船外接続ブロックの気圧も調整済みですが、すぐお出になられますか?

「あぁ、善は急げだ。奴らが高度な文明を有している可能性を考慮して、しばらく通信はするな、緊急時はこちらから接続する。それまではオフラインで待機していろ」

 ——了解

 今度は無事を祈ってくれないのか。全く気分屋なAIだな。
 はたしてノアには感情があるのだろうか? コイツと出会ってから考えている答えの出ない問題に自問自答しながら、俺は光学迷彩を起動して外へ出た。
 船を降りた俺の眼前に広がっていたのは先ほどまでの自然の世界とは打って変わってレンガのような人工物で整備された血の通っている場所だった。
 緑がある惑星が少なければ人らしき生命体がいるのはなおのこと珍しいましてやそれが文明を築き、共同体の体を成しているなどそうそうあることでは無い。

 「ノアめわざとこんな場所に降ろしやがったな」

 居住圏から少し遠いこの場所は、どうやら集会所のようだ。中央に台座があり、それを円形に並べた椅子が囲っている。まるでスタジアムのようだ。どことなく懐かしささえ感じた後継に、俺は少し涙が出そうになった。

「こちらオズ。記録を再開する。言語解析が完了したため、アーリア人の居住区に潜入する。必要に応じて接触を図ってみるが、以前の件もある。慎重な行動を試みる。」

 さて、ここからが本番だ。兎にも角にも奴らがいる方へ行ってみるか。

 

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