プロローグ(初稿)
——船体の光学迷彩処理八〇%完了。大気圏突入百八〇秒前に百%処理完了予定。
現在、一次調査に投下したバイパスからのデータ分析中。当該惑星の気圧および大気中酸素濃度有害物質の有無を確認中です
「ノア、目標惑星に生体反応はあるか?」
——検索中
——検索完了。生体の存在を確認しました。水、炭素、水素、窒素その他少量の元素を保有している人型の生命体が見られます。また、人工物らしき建造物を検知。一定水準の文明レベルを有していると思われます。
生命体が生息しているのか。
この報告を聞くのも久しぶりだ。
取り敢えず降下中の惑星はある程度の資源を保有しているようだな。
降下中の惑星はある程度の資源を保有しているようだ。
が、しかし前回の苦い経験もある。
大手を振って喜ぶわけにはいかないな。
次こそは…だ。
次こそは我々地球人の新天地であってくれ。
今度こそ我々地球人の新天地であってくれよ。 いい加減一人で眠り続けるクルーの水槽を眺めるのも限界だ。
「よし。大気圏突入後も光学迷彩を維持しつつ、生命体の外見的特徴、および言語の有無を確認しろ」
——了解
「それから船外接続ブロックの気圧を目標惑星と同期。着陸後、地質調査に出る」
——気圧調整中。調整完了。
——光学迷彩百%完了。大気圏に突入します
ノアの合図と共に船が揺れ始めた。何度経験してもこの瞬間だけは慣れることができない。
まるで天変地異である。圧縮された空気が熱を帯び赤く光っている。眼前に広がるその光景はさながら火山の噴火を彷彿とさせる。
しかし、それはまだいい。まだマシだ。問題なのはこの揺れである。船体がひどく軋み、空気すら震えている様だ。
いや、震えているのは俺の体だろうか?
脳の芯まで小刻みに揺れ、思考が恐怖で満たされる。解決の手段を時間の経過に委ねることしか許されない俺は、ただのちっぽけな人間であるという逃げることの出来ない現実を見せつけられながら、物理原則に抗うことが出来ぬ化学の進歩を呪い、その怒りと恐怖を押さえつけるように座席の肘掛けにしがみ付き力を加えた。
「ノア! 今回の揺れは長くないか? 無事に着くんだろうな⁈」
——姿勢制御良好。冷却装置にも問題は見られません。二〇秒後に船体の水平軸を地表と同期、メインエンジンを点火します。
「二〇秒だな!」
気づけば火の海の様な光も消え、惑星の空に入っていた。
目の覚めるような青と、その美しい光景を隠そうとばかりに入り混じるオレンジ色の空、かつての地球を懐かしめと言わんばかりの空模様に、俺は落胆と郷愁が入り混じる不思議な感情を抱いていた。
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