カフェ「マートル」のふたり・01
カフェが始まる早朝に
風が向きを変え愛しい人の声を運ぶ。私の名を呼ぶ声は、日の光を受けたクチナシの間をすべらかに駆け、石畳をはねて今、目の前にキラキラと弾んでいる。畑には朝露が満ち、ありがたいことに豊作で、声の主を喜ばせているようだった。
「ナナミン」
「はい。おはようございます」
「へへ、おはよ」一度目を伏せてすぐ戻し、「今日からがんばろな!」優しい声を響かせる。
「そうですね…」
Tシャツからのぞく鎖骨に昨晩のなごりを見つけて思わず冷や汗をかいたためか、問いへの答えが