見出し画像

サステナビリティーと透明性:拡張可能な企業の社会的責任

頭の中では、みんなが良いと思っていても、現実のビジネスや仕組みを考えると動けないことが多い。ことサステナビリティー関連では面白いアイディアは出ても既存の仕組みを変えるのが難しいと言われるものがある。企業の活動だけではなく、市民の行動を変えるためには今あるコンシューマーグッズの形も変えていくべきではないか?
日本IBMでサステナビリティービジネスを推進してる槇あずさ氏と会話しながらそのような考えが頭をよぎった。
 
槇あずさ氏は日本IBMのサステナビリティー関連のスポークスパーソンとしても活躍している。大学では法律を学んだというが「何かが起こってから、よりは、課題が大きくなる前に解決をする仕事に就きたい」と考え、コンサルティング業を志望し、また、テクノロジーがインフラになることを見越して日本IBMを就職先として選んだという。
 
現在進行形で様々な企業にサステナビリティー×テクノロジー視点でコンサルティングを行っている彼女の「テクノロジー×サステナブル」はどのようなものなのか?4月22日、アースデーを選んで取材をさせていただいた。


🌱日本IBM槇あずさ氏の日本企業のサステナビリティーに関する考察 - 2024春

👀まずは、総論から伺っていく。現時点で日本企業のサステナビリティーに関する取り組みはどのように槇氏の目に映っているのだろうか?

🗣️槇:「サステナビリティーの重要性は多くの企業に浸透しています。取り組んでいくべきものであることも多くの企業は理解しております。
 
ただ、サステナビリティーの取り組みは人件費、活動費、レポート作成など費用がかかるものです。その出費に見合う投資が増えたのか?ファンが増えたのか?そう考えると、まだまだ収益を上げる取り組みとしては見なされずにコストとして扱われている側面が大きいと思います。ただ、サステナビリティーへの取り組みが明示されてない企業は市場から受け入れられづらくなってきているので、不安感が育ち、最低限のコストをかけて実施しているというのが現状だと思います。」

👀テクノロジーが入ることにより、企業のサステナビリティーに対する不安感は払拭される状況に変化するのだろうか?

🗣️槇:「テクノロジーはもちろんですが、まずはルールが明確になることにより大きく進むと考えております。2024年3月にサステナビリティ基準委員会(SSBJ)がサステナビリティ開示基準の公開草案を公表しました。2025年3月までに最終化される予定です。東京証券取引所プライム市場上場企業は、27年3月期の有価証券報告書から適用される可能性があります。その流れにより「企業の当たり前の取り組みとしてのサステナビリティー」が定着していくと考えております。
 
レポートを作る上で、透明性のあるエビデンスとして出せるのか?サステナビリティーの取り組みがブランドイメージ向上につながっているのか?ということが大事になってきます。経営判断のために、企業のあらゆる活動が経営者に見えるようになること、社内の透明性が求められるようになります。社内のあらゆる活動をデータとして集め、AIで分析・抽出、将来展望を示唆するなど、テクノロジーの力が必要になってきます。」

👀有価証券報告書への記載はパブリックになるものではあるが、どうしたら企業のサステナビリティー活動がより消費者にわかりやすく伝わるようになると考えるか?

🗣️槇:「消費者にもわかりやすく行動変容をしてもらえるような仕組みも作っていくべきだと考えております。これは、私個人のアイディアなのですが、ペットボトルを例にお話しさせていただきます。
 
例えば、石油由来のバージン材で作っているペットボトルが100円で売られているとします。それに対して再生材を20%活用しているペットボトルは110円で売られていたとしても「20%分地球に優しい」ことが伝われば消費者に選ばれるのではないでしょうか。ペットボトルのラベルには現在飲料のカロリーが掲載されていますよね。それは個人の健康管理のための数字ですが、この数字に、地球のCO2削減の数字も含めることにより、人間のダイエットと、地球負荷のダイエットがどちらも実現できる商品として消費者の目に留まることになると考えております。
また、CO2削減だけではなく、女性活躍推進数値や、企業の環境関連研修回数、環境ボランティア活動回数など、様々なデータもサステナビリティーを推進する上では宣伝文句として活用できるようになると思います。
 
有価証券報告書として法人向けデータは見える化していきますが、消費者、次世代を担う子ども向けのエンゲージメントを高めるための理解しやすいデータの開示方法もこれから大事になってくると考えております。」


日本IBM 槇あずさ氏

🌱エンドユーザーの意識変化の重要性

👀B2B企業に勤める槇氏が消費者向けのエンゲージメントを意識する必要を伝えてくれるのがとても興味深い。

🗣️槇:「エンドユーザーの意識が変わることが大事です。地球環境を意識する積極的な取り組み、女性の活躍を応援する企業の取り組みなど、企業を応援しやすい環境を作ることが良い社会を作る上で必要不可欠だと考えております。そのためにも企業の活動をわかりやすく伝えていく必要があると思います。
 
また、資源循環を意識した商品を作るためには、どのようなプロセスが必要で、どのようなステークホルダーを巻き込みながらリサイクルされているのかを伝える必要も出てきます。テクノロジーを活かした例としては、IBMではブロックチェーンを活用して、資源循環の仕組みをオープンに繋げるソリューションも有しているので、透明性のあるトレーサビリティー機能が必要な企業様にご利用いただいています。
 
再び、ペットボトルを例に出しますが、現在ペットボトルから得られる情報は提供元の飲料メーカーの情報のみです。資源循環を意識すると、資源回収をした自治体、再生材を製造したメーカーなど、ブランド以外のステークホルダーの存在も大事になります。以下は私の妄想ではあるのですが、ペットボトルのラベルに「昨年資源循環に最も貢献してくれた自治体はXX市です。再生材を作ってくれたのはXX企業さんです」というように、循環を意識した取り組みを一緒に頑張ってくれた自治体や企業を大手飲料メーカーが紹介することができれば、その自治体や中小企業の励みになると考えております。
もちろん、ペットボトルのラベルスペースは限られているのでQRコードで読み込むなどの施策でも良いと思います。映画のエンディングロールのように、資源循環に参加した自治体や企業の見える化が当たり前になってくると、日本全体でサステナビリティーの活動が活性化するのではないでしょうか。
 
日本は中小企業に支えられているので、資源循環を支えてくれている中小企業の取り組みにもスポットライトが当たるような仕組みができると、資源循環も進み、雇用にもつながり、サステナブルな社会になると考えております。
 
逆に言うと、日本の中小企業の元気がなくなると、日本全自体がサステナブルに維持できなくなる危機感も有しています。」

👀「総論は良いけど、ビジネスとしては・・・」と言われるアイディアを実現させるために

映画のエンドロールのように、資源循環に貢献した企業や自治体のリストがあらゆるプロダクトにおいて見えてくると面白い。それにより今まで見えてなかった「貢献」が可視化されるようになるのも透明性があって望ましい。

🗣️槇:「ただ、私の上記の話は、お話しするたびに「総論良いけど、ビジネスとして遂行するのは難しい」と言われてしまいます。本当にそうなのでしょうか。
 
あるべき姿を目指す際に既存のルールの中だけで判断することは、サステナブルな社会を目指す上では危険なことではないかと考えております。」

--

今までに無いペットボトルラベルのあり方、関係性の可視化への提案は、既存のビジネス文脈で話すと「総論良いのだが、、、、」で止まってしまうことが多いようだ。
 
ここで私はアートの問題提起、ビジュアルでインパクトある形で問題提起をする方法があることを紹介した。既存のビジネス文脈で進めるのではなく、アートの文脈を活用し、あるべき姿を提案するのはどうか、と。
 
これを提案した際に、槇氏は「考えてみなかったが、有効そうである」と目を輝かせた。
 
私たちの会話はここで終了したが、槇氏のように既存の文脈を逸脱し、未来につながる活動をしている方が、ビジネス文脈でアートの持つメッセージ性、インパクトを活用することにより、未来は変わると私は信じている。メディアアーティストの藤幡正樹氏も現在進行形のアートプロジェクト「超分別ゴミ箱プロジェクト」において、消費者向けプロダクトを作るメーカーのあるべき姿として「プロダクトから出たゴミを回収し、リユースするところまでが企業責任ではないか?」と訴えている。現状の消費者サイクルの「購入させる」ところに企業活動のピークを持ってくるのではなく「購入後のリサイクル」まで消費財提供元の企業が行うべきではないかと言うのだ。そうなると、より、リサイクルされるための社会全体を巻き込んだ循環の透明性が必要になってくるだろう。槇氏の視座とアーティスト藤幡正樹氏の活動が重なって動くところに未来があるように思われる。
 
企業の中で、新しい課題に挑戦している人と、アーティストを組み合わせることにより、未来が切り開けると考えている。この記事を元に仲間になりうるアーティストに話しかけていくとともに、消費者向けプロダクトを作っているメーカーにも相談をしていきながら槇氏のアイディアの実現する未来を模索していきたい。「総論良いのだが、、、」というところで止まっているものを実現させるためのエネルギーこそ今必要なことだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?