夏の終りの図書館*ショートショート#夏の想い出note
ぎりぎりまで宿題をしなかったあのころのような気分を思い出して書いてみました。参加ふたつめ。
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夏休みが終わるころの図書館は、なんだかそわそわした気分のまま1日が過ぎていく。
朝、ブックポストに入ってる本を整理し、返却処理をして、分類別に並び替える。配架(所定の書架に配本すること)しながら別のスタッフはいつもの通り、新聞を処理して書架に並べる。清掃や各担当の準備の後、朝礼が終わると開館時間がくる。
「おはようございます。」
スタッフは開館前から待っていてくださる利用者さんをお迎えする。
いつも朝一番の新聞を読みにいらっしゃる方にまじって、学生や親子連れも多く見かける。夏休みの終わりは工作や自由研究の資料になる本は、ほとんど貸出中なのだが、それでも読書感想文や理科の観察資料などを探しにくる方で朝から図書館はにぎやかだ。
わたしは図書館スタッフになって3年目。ようやく全体的な仕事にも慣れて余裕ができつつあった。でも先輩方の動きにはかなわないし、上司には、いつも”接客”を見られている。
図書館スタッフは利用者の方が探している本を的確に探して案内することはもちろん、確実に返却処理や貸し出し処理をすることが求められる。
この日は本の中に小さな付箋を見つけた。
”256ページから268ページが切り取られています。読みたかったところなのに残念です。”
これは確実に返却する際の見落としだ。
メモがあるページを見たら、きれいに切り取られていて、ぱっと見はわからない。付箋にすぐ気が付いたら、その方の前にその本を借りた人に連絡をしたりするが、特別な場合を除いてそのままその本は貸し出しができなくなって、廃棄処分になる場合が多い。
そのあと昆虫図鑑のやぶれを見つけた。
カブトムシのページだけがない。
今日はかわいそうな本によく当たるなと思いつつ、督促の電話の担当時間に貸し出した人へ連絡をする。
お父さんだという人の電話につながった。
「29日に返却していただいた昆虫図鑑の中のカブトムシのページがないのですが、ご存知でしたか?タロウくんは知ってましたか?」
こちらは咎めているのではなく、あくまで税金で買った本の破損状態を知りたいのだ。でもたいていの場合、「知らない」と言われる。
この電話の向こうのお父さんも「知りませんでした。タロウも知らないと言ってます。」と言っている。
丁寧にお礼を言って電話を切った。
もちろん本の破損を自ら申告してくれる方もいて、弁償してもらう。犯人探しをしたいわけではないけど、「知らない」と断言されるとなんとなくもやもやする。
長い間、貸し出したままの本が郵送で送られてきて、添えられた手紙に「父の遺品を整理しましたら図書館の本がありました。申し訳ありません。」と書いてあった。
貸し出していた本が”癌”の本だったりすると泣きたい気分になったりする。
夏の終り。それでも平日に子どもたちがたくさんいることや、学習室が満員になっているのを見るのがうれしい。本たちもたくさんの人に手にとってもらえてこそ、喜んでいてくれるような気がするのはわたしだけかな。
9月に入れば、また平日の朝は静かになる。
それでもなにかと元気なおじさまやおばさまたちが、ご意見をくださる。
「あの人がうるさい」
「図書館は暑い」
「本がそろっていない」
……。たくさんのご意見を伺う。
そのたびに自称クレーム処理係のわたしは笑顔で
「図書館のことを考えてくださってありがとうございます。」
と、最後に付け加えることにしてる。
そうしたら本たちの痛みとか悲しみも、少しはいやされるかな。
秋は読書週間もある。
またたくさんの利用者さんと本が喜んでくれますように。
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