知識と筋肉
動物病院で働いて1ヶ月。
院長先生から「覚えが遅い」と言われてしまった。
これまで新卒で来た人、ブランクがあった人、他の分野から転向した人と比べ、かなり「できない」らしい。
そうか。みんなは、もっとちゃんとできたんだ。
私も毎日頑張っているだけに、ショックだった。
そして、今後はどうしますか?
もっと努力しますか?
それとも向いてなかったと諦めますか?
そもそも、何としてでも
臨床獣医師として働きたいですか?
と聞かれて、返事ができなかった。
もちろん小動物臨床の場に入ろうと思ったのだから
頑張る気ではいる。
しかし、立派に診療業務をこなしている自分の姿が
イメージできないのだ。
覚悟が足りない、と思われても仕方がない。
採血の練習なども、
忙しい日は看護師さんに保定をお願いするのも気がひけるし
嫌がる猫に引っ掻かれるのを見てしまうと
頼むのも申し訳なくて…
そういう消極的な姿勢もよくないんだろうな。
言い訳にもならないが、
一旦「もうこの世界に戻ることはない」と完全に諦めた人が
どれだけ多くのことを忘れるかを
みんな分かっていないんだと思う。
知識って、筋肉と同じだ。
毎日少しずつでも負荷がかかっていれば現状が維持されるけど
負荷がゼロになったら急速に衰える。
私は20年ほど前に脚の骨を盛大に折り、
3週間ほど過重しなかった(というかできなかった)。
手術後、じゃあリハビリを開始しましょうと言われ
ついに車椅子とお別れだと喜んだものの
私は全く歩けなかった。
体重を支えられないのだ。
普通に立つこともできないなんて…とショックだった。
その時に作業療法士の方に教えてもらったのが、
先ほどの「筋肉は負荷がゼロになると急速に衰える」という話。
衰えてしまった筋肉は鍛え直すしかないので
立つ練習からはじめた。
そして毎日荷重する練習、歩く練習をし、
少しずつ歩けるようになった。
今の私の知識は、そんな感じだ。
院長先生が「これはみんな知ってる」「これは常識」と思うことすら、私は忘れている。
何なら、マイナスからのスタートだった。
毎日本を読んだり動画を見たりしてるけど、
(そもそも忘れている前提知識が多すぎて)砂粒を拾い集めるくらいのスピードでしか吸収できない。
今後は、多少は吸収スピードが上がるだろうけど
どのくらいマシになるのか。
また、院長先生がどれだけ我慢できるのか。
もう「解雇寸前」だ。
自分の仕事に置き換えてみると、
副講師として雇ってください、と来た人が
「be動詞って何でしたっけ?」
「He don’t like dog.」
「I can’t play piano.」
とか言うようなものなんだろうな。
まぁ、これは知識だけを補えばいいので
もう少しマシなのかもしれないけど。
来週、また院長先生と話す予定がある。
自分がどうしたいのか、
まだ答えが出せていない。
というか、
自分の「やれるところまでやってみたい」を優先していいのか、
他人への迷惑を考えて身を引くべきか、
決めきれていない。
(動物病院も、人助けのボランティアをしてるわけじゃないですからね。)
できるだけ後悔しない選択をしたいけど
何にしても生きるのって簡単じゃないな。