鑑賞ログ数珠つなぎ「コーダ あいのうた」

ある作品を観たら、次はその脚本家や監督、役者の関わった別の作品を観たみたくなるものである。まるで数珠つなぎのように。
前回:映画「殺人の追憶」

https://note.com/marioshoten/n/n5e876c8267b7

数珠つなぎ経緯

アカデミー賞作品賞含む3部門受賞。上映当時は映画館に行かなかったし、アカデミー賞のニュースを聞いてもそこまで興味が持てなかった。

なぜかは分からない。
だけど、当時はそう思っていた。

Amazonプライムで視聴できると分かり、あらすじを読んだ。それで初めて聴覚に障がいを持つ家族の話だと知った。なるほど…と。それくらいの意識で見始めた。

あらすじ

(HPより)豊かな自然に恵まれた海の町で暮らす高校生のルビーは、両親と兄の4人家族の中で一人だけ耳が聴こえる。陽気で優しい家族のために、ルビーは幼い頃から“通訳”となり、家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。新学期、秘かに憧れるクラスメイトのマイルズと同じ合唱クラブを選択するルビー。すると、顧問の先生がルビーの歌の才能に気づき、都会の名門音楽大学の受験を強く勧める。だが、ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられず、家業の方が大事だと大反対。悩んだルビーは夢よりも家族の助けを続けることを選ぶと決めるが、思いがけない方法で娘の才能に気づいた父は、意外な決意をし・・・。

2014年に製作されたフランス映画「エール!」をベースとしてつくられたアメリカ映画。聴覚に障がいのある親を持つ子供のことをコーダ(CODA=Children of Deaf Adults)と呼ぶそうで、タイトルはそこから来ている。

感想1(ルビーのいい子っぷりに涙)

毎朝家業の漁を手伝い、家族の通訳として大人相手に交渉したり、病院に付き添ったりする。学校へ行くと、家族が障がい者だからといじめられたりからかわれたり…それでも家族のために一日中奔走しているルビー。いい子過ぎる!いい子過ぎて涙が出る。

だからこそ、本当にやりたいこと(歌)を見つけたルビーは、それは絶対にワガママじゃないのに、自分の思いを貫くことは”罪”や”裏切り”ではないかと葛藤する。

家族もルビーに頼り切りなことは分かっている。分かっているけれど、それが当たり前で、不変で、永遠だと思ってしまっている。でもそれも悪いことではない。家族が協力して暮らしていくことは、正しい形の一つである。

障害があるなしに関わらず、そういう”家族のしがらみ”のようなものは誰しもが経験のあることだろう。地元を離れるとき、就職するとき、結婚するとき……すべてが家族の思い通りにことは進まない。

わたしはまだ親ではないから子ども視点の感想しか言えないけれど、両親の期待や願いに応えられなかった(キツい言い方をすれば裏切った)ことは多々ある。逆に親や兄弟に対して、そう思ったことだってある。

だからこの物語は「障がい者」のものではなく、シンプルに「家族」の話なんだと思う。

感想2(V先生が大好き!)

ルビーが入部した合唱部の先生、ベルナルド・ヴィラロボス (通称V先生)が最高だった。生徒を能力を信じ、アメとムチを上手に使い分ける理想的なスパルタ教師。(特定の生徒を贔屓しているように見える部分もあるが)

ルビーが抱える事情を理解しながらも、甘やかしはしない。家族の事情で遅れたとしても厳しく怒る。いつも自分の感情を押し込めてしまうルビーに対して自身を開放するように煽る。「全部出し切れ!」「足りない!」「もっともっと!」生徒に対してとにかく全力でぶつかる先生を見て、部活動の指導者としては最高だなと思った。V先生がいたからルビーも自分の夢を信じて、前に進むことができた。

音楽学校のオーディションまで現れて、伴奏したのはさすがにやりすぎて笑ったけど。あと合格の報告を聞いた時の喜びっぷりも最高だった。あんな先生に一人でも出会えたら、子どもたちの人生は大きく変わると思うな。

感想3(キャストは聴覚障がい者)

映画を見ている時、「みんな手話が上手だな~」と感じていた。あとたまに出る発声がリアルだなとも思っていた。もちろん私は手話が分からない。分からないけれど、それなりに感じるものはある。おそらく手話は手だけで行うコミュニケーションではない。

東京パラリンピックの時、手話による同時通訳を行っている人がとても感情豊かで、動きもダイナミックで、SNSなどでも話題になったのを思い出した。

それで鑑賞後に色々とこの作品について調べてみると、聴覚障がいのある父、母、兄を演じたのは、耳の聞こえない俳優であることが分かった。

最初にキャスティングされた母役のマーリー・マトリンの繋がりで、ロスにデフ・ウェスト・シアターという聴覚に障がいのある人たちの演劇コミュニティから父と兄も見つけたという。

だからこそ、リアルな手話があり(手話にも言語やエリアによって違いがあり、監修も入っていた)、豊かな表現が生み出され、彼らが日常から抱える思いがしっかりと乗った作品に仕上がったのだろう。

感想4(まとめ)

一番印象的だったシーンは、ルビーが母に「耳が聞こえない子で生まれてきたかった」と言い、母は「耳が聞こえない子に生まれてきてほしかった」と言ったところ。耳が聞こえる人間からすると「聞こえたほうがいいのでは?」と思ってしまうが、それは聞こえる側の奢りというかエゴであると思い知らされた。聞こえることは、恵まれているという証拠でも、幸せの象徴でもない。それはひとつの価値観というだけ。自分の中に偏った固定概念があったのだと思った。

原作の「エール!」も見比べてみたい。

次の作品

ペーパーハウス(途中)


いいなと思ったら応援しよう!

麻利央書店
クリエイトすることを続けていくための寄付をお願いします。 投げ銭でも具体的な応援でも、どんな定義でも構いません。 それさえあれば、わたしはクリエイターとして生きていけると思います!