終演後雑記。
11月3日~13日まで新宿シアタートップスで行われた山田ジャパン公演『にぶいちの失明』の全公演が無事に終演した。
「無事に」終演することのハードルの高さをコロナ禍になってからは痛感せずにはいられない。体調不良に怯え、恐怖のPCR検査を乗り越えなければならない。まだマスク着用での稽古は続いているし、お客さんもマスク着用での観劇が求められている。全公演終えられたことに何よりの感謝である。
さて今作は、脚本演出の山田能龍座長の実体験を基にしたお話であった。
わたしは演出助手という立場もあり、物語が生まれる前の段階から打ち合わせなどでその体験を聞いていた。そして、その現実は当たり前のように身に染みて理解できた。
何故ならわたしもスポーツをしていたから。自分で言うのもなんだが、中学時代はチームの中心で、高校時代はバレーボールのいわゆる”強豪校”で特待生としてプレーしていた。この物語の主人公つなきとは比べ物にならないほど小さな怪我だったけれど(しかも中学生の時だけど)、そのタイミングによって十分に人生の転機となり得た。
中体連と、その後に県選抜選考が控えた時期に、練習で小指を骨折した。わたしの学校は強豪校とまではいかないレベルだった。でも一緒にやってきたチームメイトとプレーするのは最後の大会。骨折したまま出場すれば状態は悪化し、県選抜選考には確実に間に合わない。県大会を欠場しすぐ治療すれば、選考には間に合う。再び、自分で言うのも何だが…選考に行けば確実に選ばれていた。
分かりやすく言うと、チームメイトを選ぶか、今後のバレーボール人生を選ぶか、そういう”にぶいち”だった。
選抜に選ばれれば、県内はもちろん、全国の高校や関係者から見てもらえる。よりいい環境でバレーができるし、その先の未来も見えてくる。すでに選抜合宿には参加していたから、レベルの高い仲間とまたプレーできるというのも楽しみであった。
だが、自分の怪我のせいで、自分のエゴで、チームメイトを見捨てるのか?
今思えば「そんな大袈裟な」「悲劇のヒロインきどってんじゃねーよ!」とかなんとか言ってやりたいし、自分がそこまでのプレーヤーになれたとも思わない。けれど、当時はまだ夢見る中学生だったから、バレーボール選手になりたいとも思っていたから、そう考えて、悩んでいた。
わたしは骨折したまま県大会に出場し、試合後すぐに手術した。骨折したままプレーしたせいで複雑骨折になっていて、しばらくは小指に針金が入った状態で過ごした。もちろん県選抜選考は欠席(見学には行ったけど)、そして選考から漏れた。
その年の我が県の選抜は強くて、全国で優勝した(準優勝だったかも?)から、その悔しさと言ったら半端なかった(と思うのだが、正直あまり記憶がない)。わたしは小指が曲がるための地味なリハビリを続けながら、自分の進路がどうなるか考えていた。
そんな選抜に漏れたわたしに声を掛けてくれたのが、先に述べた高校だった。正直に言うと、選抜の仲間が行くと聞いていた他の学校に行きたかった。だが両親の強い希望もあって、声を掛けてくれた高校に決めた。結果、仲の良かった選抜の仲間も数人入学を決めており、思わぬ形で一緒にプレーできることになった。
高校時代、仲間や環境に恵まれ、大きな怪我に見舞われることもなく、厳しくはあったが充実したバレーボール人生を過ごせたと思う。だけどプロへ行く選択はしなかった。高校時代には何度か選抜選手となったけれど、そこで感じたのは圧倒的なレベルの違いだった。常に全国大会の上位に名を連ねるチームの選手たちは、身体能力、経験値、精神的な強さ…自分にないものを当然のように持っていた。将来、自分がプロになって戦っている画が浮かばなかったのだ。
全国で名を馳せる学校の中心選手で、将来有望と言われた選手でも、怪我をしたり、伸び悩んだりと、全員がプロとなって羽ばたけるわけではない。プロとなっても、若くして引退を余儀なくされる選手も多い。
この物語のエピソードを聞いた時、自分の小指を見ながら、プレーヤー時代を思い出した。今も小指はちゃんと曲がらないし、太くて歪だ。字を書く時は邪魔なので、小指を外側に開いた状態で書くようになった。
あの時、小指を骨折していなかったら。
あの時、県大会を欠場していたら。
確かに今のわたしではないだろう。
けれど、後悔は1ミリもない。
プレー中に起きた事故や怪我。それによって人生が変わる――それは大なり小なりスポーツをする人間にとっては日常茶飯事で、もしかしたら大方の出来事は目もくれられずに流れていくものかもしれない。
今となってはバレーボールをしていたことは過去の話で、調子に乗ってプレーしてしまった暁には、ジャンプもできやしないし、腕にはアザが大量発生する。実業団でバレーをしていた仲間もとうの昔に引退し、結婚し、子どもがいたり、指導者になったり、全然違う業界にいたりする。
そういうものだ。
そういうものだけど、簡単なものじゃない。
そんな昔に思いを馳せる公演でもあった。