9時間9人9つの扉を10年越しにクリアした感想
浅からぬ縁があるというか逆に縁が無いというか、初プレイなんですが実はこのゲームを手に入れるのは5回目です。
まず発売直後にDS版を買って、何か違うなと感じて起動もせずに売却。
次にiOS版をかまいたちの夜と同じタイミングのセールで買って、かまいたちをちょっと触って放置。機種変更のタイミングで再ダウンロードしようと思ったらストアから引き上げられてた。
vitaで続編の善人シボウデスとのセットが発売されたとき、KADOKAWAの株主優待か何かでたまたま貰って、今度こそやるぞ、と思って気合を入れた翌日に急に興味が失せて売って。
ここ2~3年で昔のゲームを買い集めるようになって、今度こそやるぞと通販で購入したら間違ってPS4版が届いて。
で、気を取り直してvita版を買い直して。1本のゲームをプラットフォームまたいでこんなに買い直すのははじめて……と思ったけど案外あったわ。欲しいと思ったら何度でも買って、興味が無くなったら何度でも処分する性格なので。
感想を書くにあたってネタバレへの配慮をどうするか迷ったんですが、だいぶ前のゲームだし基本的に自分向けのnoteなので気にせず触れていこうと思います。
ゲーム全体を通して
構成としてはADVに脱出ゲームの要素をプラスして、選択肢によるマルチエンドを導入したもの。いわゆるデスゲームを題材としつつ、必ず3人~5人でチームにならなければいけないというのが実に秀逸で、最後に生き残るのが1人ってルールだと結局は全員が敵だけど、この制約のお陰でチームにならなければいけなくなる。しかも個人にはナンバーが割り振られていて、扉を開けて前進するためには個人ナンバーの合計が扉の番号と一致しなければならないから、その時々で組むべき相手もどんどん入れ替わる。
設定の面白さにグイグイ引っ張られて、1日1時間ずつプレイして3月末までに終わればいいだろうと3月半ばに開始したものの、実際には夜更かししつつ4日で100%クリア。まあEDは6つしかないし、全編チャート化されててどこへでもジャンプできるから、コンプリート自体は簡単ですね。
脱出ゲームとして見た場合、難易度は低い部類に入ると思います。調べたい場所をタッチすれば探索範囲が枠で囲まれるので、周辺を何度もチェックしたり昔のADVにありがちな有効判定1ドットのヒントを探す必要もない。
謎解きもノーヒントだったり意地悪なポイントは無く、結局最後まで攻略情報の類を見ずに済みました。脱出ゲームってテキストが味気ないモノローグになりがちなんですが、数人でまとまって動くことになるので合いの手がちょくちょく入るし、登場人物の立ち絵やアイコンがかなり動くのも楽しい。飛び跳ねる四葉ちゃん可愛いね。
一方でADVとしては中途半端というか、文章が画面全体に表示されるノベルモードと下半分に枠が表示されるADVモードを切り替えられるんですが、ADVの場合はセリフのみで心情描写や情景描写――いわゆる地の文が全く無いから、事態が把握できなくて結局ノベルモードに切り替えるみたいなことが度々ある。前後が繋がらないことを唐突に語りはじめたと思ったら地の文で「~なことは伏せて説明した」とかお前……って。しかも重要な場面では強制的にノベルモードにさせられるし、これならはじめからノベル+脱出ゲームとしてお出しして?
と思ったらDS版はその形式で、vita移植でADVモードが追加されたみたいですね。背景+立ち絵ってデフォルトの画面構成があまりにもADVなので、てっきりADVモードで進めるのが前提だと思ってしまった。
別の分岐で得た知識が唐突に主人公の脳裏に浮かぶって展開は、ゲームの前半で度々話題になる、別個体の意識を種族全体で共有してるとしか思えないというラットの研究や、ある日を境に世界中のグリセリン結晶が変質をはじめたって話題で大筋読めたつもりでいました。
ははーん恐らくこのゲームが世に出たことで別ルートの知識を持ったプレイヤーが増え、それがゲーム内の主人公の知識に影響を与えてしまっているんだな。要するに第四の壁を介してプレイヤーが物語に影響を与えるっていう、ゲームではたまに見かけるパターンだわ。Ever17のBlick Winkelとか。
とか余裕で構えてたら外された。
結末としては、主人公と一緒にデスゲームに巻き込まれたヒロインが、実は9年前に同じシチュエーションのデスゲーム(作中では『実験』)で既に死亡していた。ただヒロインは死ぬ前に9年後の主人公の意識に干渉することができたため、『9年後の未来で主人公とヒロインがデスゲームから生還する』という未来を確定させることで因果律を逆に辿って自分の死という事実を書き換えようと、現在で9年前とほぼ同じシチュエーションをなぞることにしたというもの。
……やっぱりever17じゃないか!
で、これ脚本書いたの誰だよとスタッフロールに目を走らせてたら打越鋼太郎で爆笑。手法が似てると思ったらEver17の作者だこれ。というか今更それと知らずに遊ぶ方が少数派なのか?
問題点
間違いなく良作だが、難点もある。
パッケージのイラストはさすが西村キヌという、淡く流麗で繊細なタッチ。一方でゲーム中のキャラは素材の良さをバッチリ殺す原色メインのアニメ調で、一枚絵のクオリティも低い。
ゲームの都合である程度目を瞑るとはいえ、緊迫した探索中に「そういえばこんな話、知ってる?」と物語の謎を想起させるエピソードを話し出す人物がやたら多かったり、悪事を暴かれた犯人が開き直って「この犯行を行った理由は4つある」とか冷静に語りだしたり、その悪人に銃で何度も撃たれてるのに特に理由もなく立ち上がって悪人と自爆する人がいたり。
あと全体的にギャグやジョークが下品で、それもさっきまでヒロインの身を案じてた主人公やシニカルなリアリストが、桂正和ではしゃぐ中学生みたいなノリで下衆あるいは醜悪な妄想を口にするのが耐え難い。ゲームの雰囲気や人物像の統一感が破壊されて本当に参った。
それでなくても主人公はこの手の巻き込まれ型にしては珍しく直情径行で、口調もガラも悪いし、かと思えば軽口を叩いたりおちゃらけた様子を見せたり、昔話で亡くなった女性の名前がヒロインと同じってだけで「実は彼女は死んでいたのでは?」とか発想を飛躍(いやまあ事実ではあったが)させたり、冷徹かつ威圧的に周囲に向かって命令したり……キャラクターの一貫性がまるで確率してないから感情移入もしようがない。まったく好きになれなかったせいでゲームの評価を落としたまである。
ついでに主人公の演技は大声でがなり立てる事が多く、うんざりして最後まで音声オフでプレイしてしまった。音声のON/OFFはなぜかゲーム中で切り替えできずタイトルまで戻る必要があるのもなんだそりゃ感。
また、救われた筈のヒロインはED中に一切登場しない。本作のラストシーンを飾るトゥルーエンドで最後を締めるのは作中の人物たちと全く繋がりのない次回作の登場人物というのも酷く、大団円のはずなのに全くスッキリしない。
残った謎
潜水艦エンドで主人公を刺したのは結局誰だったんだ。チョイ役の船長を別にすれば一宮くらいしかいないが、わざわざ自分の死を装う理由が無い。
文句は言ったけど面白かったです。
次は小休止を挟んで善人シボウデスの予定。