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小野郁の現在地

 こんにちは。

 東京五輪が閉幕し、プロ野球のペナントレースが再開しました。千葉ロッテは本拠地で首位・オリックスに負け越しスタートを喫しました。

 なかでも3戦目は手痛い逆転負けとなりました。その試合での分岐点になったのが小野郁の投球。

 実は昨年の開幕前、このようなnoteを書きました。小野郁について。期待も込みで。

 それから1年少々が経ち、ちょっとタイムリーっぽく感じたので色々を連ねました。振り返りとこれからについて。

1. 2020年シーズンからここまで

 19年オフに酒居知史(現・楽天)が移籍したブルペンの穴を埋めるべく、昨季は開幕1軍の切符を掴みました。序盤は主にビハインドや大差勝利リリーフを中心に、次第に勝ちパターンに繋ぐまでの準Aチームを任されるなど、40登板 2勝2敗 防御率3.23のキャリアハイの成績を残しました。

 そして澤村拓一が退団した今季は、彼の穴埋めとして、さらなる飛躍はもちろん、セットアッパーとしての活躍も期待されていました。昨季の活躍や起用法を見ても彼に対する期待値、ブルペン序列は高いのは把握出来ました。

 しかし小野は開幕から背信の投球が続き、一時は2軍落ちも経験しました。前任者が圧倒的すぎたため、その期待値とギャップが生じてしまったともいえるでしょうか。その後、再昇格を果たし、一時期から防御率は良化させたものの、勝ち試合では精彩を欠いているという状況です。 

 つまり2年目のジンクスに当たってしまったというのが、今の彼には最適な表現かと思います。ここからは憶測や印象論が多いですから、一意見として捉えていただきたいです。毎度のこと拙い文章なので、ご了承ください。


2. 日曜日の継投について 

 まずは日曜日の小野を振り返ります。

 6回表、佐々木朗希の2番手で登板します。しかし先頭の宜保に二塁打を許すと、福田にはバント警戒でウエスト気味の四球、その走者を送ってから迎えた吉田正尚を歩かせて満塁策を取ったところで降板してしまいます。その後、田中靖洋が杉本に対してタイムリーを浴びてしまいました。

 小野の結果は1/3回 16球 2四球 2失点 負け投手

 リード時、ビハインド時の投球が別とはいえ、宜保、福田、宗、吉田正尚と左が続く場面で左打者の膝元にスライダーが投げ込める対左の被打率.182、被OPS.542の小野を投入したことは間違いではありません。

 というより本来、小野が準備していた5回は1対2と負けていた展開でした。しかし山口航輝の本塁打で逆転したことにより、リードシチュエーションに変わってしまいました。元々吉井コーチもビハインドを想定して小野を準備させていたことかと思われます。

 この試合後、なんだか激しい議論が交わされていたようです(私はこの継投に関して全く疑問に思わず、お風呂に入っていたので詳しくは知りませんが)。

 「だったら最初から田中靖洋を出せばよかった」と仰ってる方々もいらっしゃいましたが、そんなのは結果論も甚だしいです。

 田中の投入のタイミングは間違っていなかったと思います。ただイン捌きもうまい杉本裕太郎を相手にしたのは分が悪かったですかね。彼を攻略するための打撃スタイルは、これが最適解となってしまいます。シュートのイン捌き。今年唯一被弾した日本ハム・清水優心に対してもインコースのシュートを上手く捌かれてしまいました。

 そもそも、田中靖洋の価値は中盤の苦しいときや、ここ抑えれば絶対流れ呼べるという場面こそ現れると私は感じていて、最高のゲームチェンジャーとして起用していきたいのが本音です。

 むしろ回頭から行くのと、途中から火消しするのは役割が全く違い、後者の方が難しいです。以前noteでも述べましたが、登板場面が不規則であるため、いつマウンドに向かってもいいように心の準備をしておく必要があり、とても難しいのです。それが今できるのは彼しかいません。

 さらに田中靖洋は今季既に手術も経験しているため、なおさら登板過多には気をつける必要があります。それもあって、あの場面は小野が一人で投げ切らなければいけなかったです。

 今年の小野を見ていると打たれているときの印象が悪いせいで、10回20回抑えようが1度の失敗が命どりになっていると感じますね。

 少し田中靖洋へのコメントも多くなりましたが、テーマの小野についての今回の起用法は4章でもう少し詳しく纏めたつもりです。


3. 今季の小野の投球

 ここで今季の成績を振り返ります。

 36試合 0勝2敗 7HP 防御率3.97
34回 被安打25 被本塁打4 奪三振43 与四死球17
 奪三振率11.38 自責15 被打率.207
 K/BB 2.53 WHIP1.24

   図1. 小野郁 2021年成績

 相対的に見れば一軍の中継ぎ投手として、一定数の数字は残していると思います。細分化すると奪三振率が10点台を超え、被打率も2割台前半をマークしています。こう見るとなぜ打たれているのか疑問があります。もう少し投げている球を見てみましょう。

ストレート.293(58-17) 空振り率10.2%
スライダー.123(57-7) 空振り率18.8%
フォーク.200(5-1) 空振り率15.4%

 図2. 小野郁 投球被打率、空振り率(引用: SPAIAより)

 前述した被打率、空振り率を球種別にしたものが上の図です。

 実は生命線のストレートの空振り率が、昨季の2.79%(昨季のデータ: データで楽しむプロ野球より)から10.2%と大幅に上昇しているのです。

 ストレートと被打数がほぼ同じスライダーはさらにいい数字が残っています。数値化してみると「あれ?」と思ってしまうかもしれません。球自体はそう悪くなさそう? なのに、なぜ他の数字がついてこないのか。

 まずは先程の球種別の投球割合から。

2020年 ストレート 58.66% 
     スライダー 29.58% 
   フォーク 10.78%
2021年 ストレート 60.63% 
     スライダー 35.68% 
  フォーク 2.28%

 図3. 小野郁 20年21年 投球割合(引用: データで楽しむプロ野球より)

 上の図をご覧いただくと、投球の組立てが大きく変わっています。昨季からスライダーの割合を増やし、フォークの割合が減っているのです。ほぼ真っ直ぐスライダーの2ピッチになっています。

 これにより打者が狙いを絞りやすくなって打席に立っていることが推察されそうです。たしかに指標や数値上いい真っ直ぐ、スライダーを軸に組み立てるのは理にかなっていますが、ピッチングとは数値のいい球を投げることではありません。

 また小野のスライダーはストレートの軌道から外していく球もありますが、基本はややブレーキをかけて落としていくため、ストレートとの区別がつきやすいです。そのため余計に真っ直ぐ狙いに打者は照準を定めます。

 フォークが減ったことでピッチングが窮屈になってしまっているのが分かります。

 この動画では昨季プロ初勝利を挙げた際のものですが、ストレートの軌道からストンと落ちる素晴らしい球を投げています。この球を使わないわけにはいかないのですが…。

 実際、小野が崩れて敗れた試合はそのほとんどがストレートを痛打されています。いずれも下の2試合はスポナビプロ野球一球速報からのチャートです。

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 図4. 4月9日西武戦 8回愛斗への配球

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 図5. 5月23日 6回ディクソンへの配球

 上二つは恐縮ですが、小野が逆転被弾を浴びてしまった2試合です。まずは愛斗への攻め。これ実はスライダー2球で追い込んでからなので、なおさらもったいなかったのを覚えています。スライダーにタイミングあってなかったので勝負球にすれば、この当時の愛斗なら振ってくれたと思うのですが。4球目に投げても良かったかなと。

 もうひとつは楽天戦のディクソンに対して。このとき小野は火消しの役割でマウンドに上がったのですよね。しかし全球ストレートでジャストミートされました。

 これだけでも真っ直ぐ、スライダーが軸になっているのが分かります。この組み立てをみると、やや真ん中から外寄りになっているとも考えられます。実際に投球マップで確認してみましょう。


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  図6. 2021年 小野郁 ヒートマップ(引用: SPAIAより)

 この表は青→緑→黄→赤の順になればなるほど、投球割合が多いということになります。要するに小野は左右どちらに対しても外角への投球が黄、赤く塗られていて非常に多いということになります。

 その中でも対左は真ん中から高め、対右は徹底して外低めに集めております。対左に対してストレートが抜けていること、対右へのスライダーをウィニングショットとしていることが、このマッピングの要因だとは思います。

 話が前後しますが、前述した空振り率とは1,2ストライク目に空振りしようが、最後に安打が出れば記録は安打となります。だから前述の愛斗に対しての攻めのように、追い込まれる前までには空振りが取れているが、ウィニングショットが甘くなっているのではないでしょうか。

  小野の真っ直ぐは角度がある訳ではなく、身長も投手としては高くない部類のため、並進して余計に絞られやすくなっています。しかし球速がそれを補える力をあるため、高めをもう少し活用してみてもいいかと思います(特に右打者)。高め真っ直ぐ→フォークボールの組立てで三振も増やせると思います。右打者へのインスラも使ってみたら面白いかなと。

 今季の小野の崩れ方をみていると、四球から崩れるパターンが多く、与四球率は4.50と極めて高くなっております。四球を出すことは別に悪いことではありませんが、小野はその四球を出してから、いわゆる『置きに行ったボール』を投げて打たれているのではないでしょうか。四球を嫌って、本末転倒な結果を招いてるように見えます。

 それがセンシティブな彼のメンタルを揺り動かしている一因なのではないかと考えています。

 これは4月の西武戦での試合後のことです。この記事にもありますが、

 「ストライクゾーンの中で勝負できる投手なのだから、その部分をもう一度、見つめ直してほしい。しっかり調整してまたすぐに1軍に上がってきてほしい」

 とあるように小野はストライクゾーンいっぱい使ってどんどん押していく投球が出来る投手なので、前述のように四球を意識しすぎて縮こまってしまうと良さが発揮出来ないと思います。自信持って腕を振っていただきたいですね。


4. ブルペン事情、今後の小野の起用法

 ここからは小野も含めた後半戦のブルペニングを確認していきたいと思います。

 まずは現時点でのメンバーのおさらいです。

・Aチーム
国吉佑樹・佐々木千隼(セットアッパー)
益田直也(クローザー)
・Bチーム
東妻勇輔・フローレス
・A,Bチーム
ハーマン・小野郁・田中靖洋

 おおよそこんな感じでしょうか。国吉佑樹の加入により、やや勝ち試合に不安のあったハーマンをA,B中間のポジションに置けました。名前だけ見れば質・量ともに揃ってはいます。ここに唐川侑己の復帰もあるでしょう。

 国吉、佐々木千隼、ハーマンを同時に登板させることなく1人以上をビハインドに回すことも可能となっているのは、今後を戦い抜く上で有利に動くのは事実です。一方でこのような懸念もあります。

 国吉ロッテに来たばかり移籍後に疲労と軽い故障がありました。今年頑張っている佐々木千隼だって1年間ブルペンにいた経験はないです。ハーマン、田中靖洋もベテランの域に達しており(とくに田中靖は前述のように手術もあった)、過度な負担をかけるわけにはいきません。

 そこで小野郁ではないでしょうか。昨季、首脳陣は手塩にかけて多くの経験を積ませて、1年間戦うことを覚えさせました。球もいいものを持っています。年齢も今年でまだ25歳、現在のブルペンの中でも極めて若く、この先もロッテのブルペンを担ってもらう必要があります。そうした昨季の教訓を生かして、今季はステップアップするはずだった。

 しかし、その期待の育成枠という立場から脱却できていない。それが今の彼です。

 日曜日、小野を起用したことは上記の文章をご拝読いただければ理解できるかと思います。故障明けの田中靖が連投になる元々はビハインドだった。左打者が4人続くところで対左被OPS.542の小野という結論に至った。リード時の成績が芳しくなかったが、元々負けの展開だったため、仮に小野が打たれてもダメージは抑えられる。そして勝ち試合で投げさせることで経験を積ませる。ところが天秤にかけて釣り合わなかったという事でしょうか。

 これからも小野は基本的に負け試合と大量リード時での起用法となるでしょうが、1点勝ちの6回に起用される展開は今後も続くと思いますし、むしろ使っていいと考えています。

 昨晩、吉井コーチがお忙しいところ、3連戦の投手陣振り返りをしてくださった文章の中でも、こう述べられております。

 > ただ、3試合目は、勝ちながら若手を成長させる難しさも感じました。
残り試合が少なくなってきて、勝ちにこだわりながら、ラストスパートもかけられるよう、しっかり作戦を考えなければと思っています。

 勝ちながら若手を成長させる難しさ。

 投手は打たれることなくして、成長することはあり得ません。

 打たれたからといって、ここから先、小野を勝ち試合では使うな、と思考停止するのではなくて。そこでメンタルケア、なぜ打たれているのかを明確化させ、首脳陣は次の登板でどのように自信を取り戻させるのか。そうやって考えるのが真の投手マネジメントに繋がっていくと考えます。

 過去に監督を務めたボビー・バレンタイン監督は『若手にビハインドリリーフをやらせても意味はない』と仰っていました。

 緊迫した勝ち試合で抑えることによって勝利に貢献できたというポジティブ・シンキングを生ませ、自信をつけさせる、今の小野にはこれが必要だと私は考えます。一皮破るか、破らないかという立場にあるのです。

 しかし最後の文末にあるように、ここからは1勝の重みが大きくなってきます。その若手に成長を促す機会をどこまで続けていくのかとともに、今後は3連投、ビハインドでのAチーム解禁どころに注目でしょうか。

 

5.  まとめ 最後に

 長々述べましたが、要するに小野郁が今後このチームのブルペンを支えるに一番近いポジションであり、今季は澤村の後釜で周囲からの期待とのズレが生じて、本人も勝ちパターンの狭間でもがいているという状況であるということです。

 投球に着目すると、

 ・球自体の精度は良い
 ・昨季からフォークの割合が減っている
 ・ストレート狙いに絞りやすくなっている
 ・四球を嫌い置きに行った球を痛打される

 

 といったところでしょうか。持ち球はいいものがありますし、ハマったときの支配的な投球は本物であるのは承知しています。だからこそもう一つ超えていきたい。

 小野が今年、試合キャップの裏にある言葉を書いていた写真を過去に見たことがあります。

 それは『自信』でした。自信持って腕を振っていけば自ずと結果はついてくる投手だと信じています。小野郁、頑張れ。今後の彼の起用法、投球にも注目していきたいですね。

 


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