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中村奨吾の打撃を振り返る

  昨日、契約更改で1億円プレーヤーの仲間入りを果たした中村奨吾。多忙を極めている最中ですが、今日はそんな中村奨吾の打撃を振り返ろうと思います。突然ですが、まずは今季の成績です。

 打率.283(506-143) 9本塁打67打点12盗塁
 出塁率.382 長打率.415 OPS.797

 開幕後から好調をキープして前半戦終了時には打率.305 OPS.850をマークするも最終的には上記の成績に収束しました。
 10本塁打70打点、OPS.800をギリギリ割ってしまったのが…。これを達成していれば、さらに見映えのいい数字にはなったのですが。それでも内容を考えるとキャリアハイです。ときには犠牲打や右打ちなどチームバッティングにも徹した中で、この数字を残したのは当然価値があります。

 彼の打撃は今年ワンランク上がったと思います。その要因はどこにあったのか。今回はいくつかお話します。あくまでも個人的見解です。その点をご了承いただけると幸いです。

☆過去3年間と今季のアプローチ

18年.394(71‐28)BB/K0.64
19年.324(68‐22)BB/K0.55
20年.391(46‐18)BB/K0.54
21年.250(28‐7)BB/K0.86

 表1. 中村奨吾 18年以降の初球打率・BB/K

 まずは中村奨吾がレギュラー定着したといえる2018年以降の過去3年間の初球打率、並びにBB/Kとなります。

 過去3年間、3割台を推移していた初球打率が今季は2割5分まで低下しています。ですが、ここで着目したいのは違います。初球での打数が大幅に減少していることが分かります。年々減少しているのは把握出来ますが、今年は例年以上に待球寄りのアプローチにシフトしていったのではないでしょうか。

 もちろん、それが全てではございません。なぜなら打数は打席内の最後の結果でしかカウントされないため、初球からファウルを打っていた機会はあったかもしれないというのは頭に入れておかなければいけないからです。ですが、打数の減り具合、推移を考慮すると、打てる球を見極めたという傾向は強いかもしれません。

 18年: ゾーン内スイング率 56.86%
    ポール球スイング率 25.46%
    空振り率      4.39%
 19年:  ゾーン内スイング率    63.84%
    ポール球スイング率    29.67%
    空振り率      6.88%
 20年: ゾーン内スイング率    61.10%
    ポール球スイング率    22.79%
    空振り率      3.20%
 21年: ゾーン内スイング率    54.32%
   ボール球スイング率 21.53%
    空振り率      3.49%

 表2. 中村奨吾 18年以降のゾーン内・ボール球スイング率・空振り率(データで楽しむプロ野球より、ボール球スイング率は同じくボール球見極め率から手動計算によって算出したもの)

 上記だけでは曖昧な根拠になりやすいので、もう少し。こちらは同様に過去3年間のゾーン内、ボール球スイング率です。ともに今季は最少の数値を記録しています(慎重にスイングし、見極めた傾向にあるといえるでしょうか)
 特にS‐Swing率は両リーグ規定打席到達者の中でも最小、昨季から比べるとなんと6.78%減となっています。ここで待球寄りのアプローチにシフトチェンジした成果が現れているでしょうか。その中で空振り率も3.49%と両リーグ4番目(残りの上位3人はオリックス・福田周平、中日・大島洋平、ロッテ・荻野貴司)に少ないです。

 ここ3年間は、19年:なりふり構わずスイング→20年:振りつつ見極める→21年:さらに絞って、限られたスイングで確実にコンタクトしてくる、といったアプローチ傾向にあるでしょうか。

 そして今季はBB/Kが0.86(パ・リーグ10位)に上昇しています。入団当初はフリースインガータイプだったことを考えると、この選球眼の向上は特筆するものですし、彼の打撃が洗練されてきた証拠だと感じます。初球から無理せず、冷静に狙い球を絞りゾーン管理を行った結果かなと。

 それが2ストライク後の打率も.251(パ・リーグ5位)を記録したことにも繋がっているはずです。今年は追い込まれてからの粘りやアプローチも磨きがかかりましたよね。

☆満遍ない対応力

ストレート .289(228‐66)3本
スライダー .347(75‐26)4本
カットボール .286(49‐14)1本
チェンジアップ .278(36‐10)1本
カーブ .333(21‐7)0本
フォーク .123(55‐7)0本
ツーシーム .375(16‐6)0本
シュート 1.000(2‐2)0本
スプリット .286(7‐2)0本
その他カーブ .333(6‐2)0本

 表3. 2021年 中村奨吾 球種別打率(データで楽しむプロ野球より)

 上の表は中村奨吾の今季の各球種に対する打率です。フォークこそ打率1割台とはいえ、その他の球種に対しては、どの球も約.280以上を記録しています。彼の今年の真価がここに詰まっているといっても過言ではないでしょうか。この球に対してどういうスイング、軌道をすればいいか、どこにヒットを狙いたいのかをきちんと理解しているなと印象を受けました。その一方で打者の理想に達した、彼のスイングは縦のものが少ないがゆえに、しっかり縦に落ちる球には弱さを見せたという結果になったかも。

 個人的に光ったなと感じたのはチェンジアップへの対応力です。真っ直ぐや、その系統からなる横変化に対しては、逆方向の打撃を持ち味としている彼にとって以前から比較的得意な部類ではあったと思いますが、この球には本当にさっぱりな印象が強いです。

 実際、過去3年間の打率は18年.089(45-4) 15三振、19年.233(30-7) 4三振、20年.087(23-2) 7三振と2度も0割台を記録していました。
 18年にアルバース(元・オリックス)のチェンジアップに全然かすりもしないようなスイングを繰り返していたのは懐かしいです。

 それが今季は.278(36‐10)1本と改善、向上を果たしました。後ほど、動画でも振り返りますが、リストを生かして抜いたバッティングが今年はピカイチでした。これはチェンジアップに限りませんが、ゾーン内に残った中途半端な変化球は絶対にヒットゾーンに運びました。難しい球にも、このように対応出来たのは、しっかりと自分のタイミングを取れていたからだと思いますね。

☆多様なティー打撃

 この対応力向上の土台となったのが試合前のティー打撃にあったようです。

 試合前の打撃練習では、ロングティー打撃に始まり、左手1本、右手1本でのティー打撃、さらには右手前や左手前、さらには後ろからトスされたボールを打ち返していく。さまざまな種類のティー打撃を練習に取り入れ、それが今季の成績向上に繋がった側面もあるようだ。(2021年12月11日 Full-countより)

 後ほど、動画にても振り返りますが、特に今年の象徴ともいえる、崩され気味の変化球を片手で運ぶ打撃が優れた要因は、こうして日頃からそれをイメージした片手ティー打撃を行っていたことにあるでしょう。
 また、より実戦を意識した様々な練習法を取り入れたことで、各球種に対してのポイントを掴め、応用が効くようになったと思います。頭になかった球、難しい球に対しても自然と体が覚えるようになってきているはずです。

 その1つが、こちらの7月3日の楽天戦で宋家豪から放った6号本塁打。本人は「決していい打ち方ではなかった」とおっしゃっていましたが、こうした試合前の練習が身になったからこそ、きちんと体が反応出来て、このようなスーッと抜いた打撃に繋がったのでしょう。

☆群を抜いた終盤力 

6回 .351(74‐26)
7回 .343(35‐12)
8回 .344(61‐21)5本
9回 .342(38‐12)

 表4. 2021年 中村奨吾 回別打率(6回以降)(データで楽しむプロ野球より)

 次に表4をご覧いただきたいです。こちらはインターバル後の6回以降の打率です。

 単純に終盤以降に強さを発揮しているのはもちろんのことですが、それを高いレベルで安定させていることが素晴らしいのです。
(ちなみに1回から5回までの打率は.238(298-71)、4回は打率3割超えも、その他の回は.210〜.220台で推移しているようです)

 打者の目が先発投手の球に慣れてくる3打席目以降では、しっかりと合わせてくる、100球に近づき始める先発を狙い打つといったところでしょうか。また相手のAチームリリーバーも崩している証拠でしょう。それが中終盤の高打率に起因しているのは間違いございません。

 特に今季9本塁打中、5本塁打をこの8回に記録しているのは特筆すべき点ですね。勝ち越し、逆転など殊勲の活躍が目立ちました。千葉ロッテが終盤に強かった要因には、この頼れる主将の力が大きかったでしょう。彼の弱点であった得点圏打率も今季は過去最高の.297を記録いたしました。

☆まとめのお気に入り打撃集

 これまでのまとめと合わせて、今季の中村奨吾の打撃を動画とともに振り返ります。あれこれ挙げるとキリがないので、個人的に好きな打撃を3つピックアップさせていただきました。真っ直ぐ対応1つ、変化球対応2つです。

 ☆真っ直ぐ・強く引っ張る

 真っ直ぐ対応。これはCSファイナルステージ第3戦での打撃です。
 8回二死無走者。既に3敗を喫し、引き分けも許されない状況。残されたイニング、ここから先は下位打線に向かうので、得点期待値が薄れます。そうとなれば中村奨吾と次のレアードの長打で得点が欲しい場面。できれば今すぐに。
 その思いは届き、初球の真っ直ぐに対して、一発回答。待球寄りになったのではと仮説しましたが、3番打者は二死無走者でも回りやすいため、1人で得点する力も必要になります。行くところは初球から行く。これが大切です。中村奨吾はこの場面で何が求められているか分かっていました。3番として、主将として最高の仕事でした。
 持ち味は逆方向ではあるが、このように強く引っ張れるのも彼の良さ。ポテンシャル的に2桁本塁打は通過点にしてほしいですね。

 ☆変化球・拾う

 次は変化球。これはソフトバンク・甲斐野のカウント2-1から来た139キロカットボールに対する打撃です。前の3球を全て真っ直ぐ入り、低めにポイントを置いた見逃し方をしていると1.3球目で感じました。
 そこで来たのが、このボール。先述いたしましたが、この辺のベルトラインに残った中途半端な変化球を今季は高確率で仕留めていました。これも軽く合わせて左中間へ。2.3塁に走者が溜まっている状況と相まって、お手本のような軽打でした。どこに落とせば安打になるのか、なぜ率が残るのか、それらがよく分かるバッティングです。

 ☆変化球・抜く

 もう一つ変化球対応を。これは1対1の8回表。楽天・安樂のチェンジアップを捉えて勝ち越しソロを放った打撃です。コース高めとはいえ、今まで苦手にしていた、この球に対して、やや泳がせながらヘッドを効かせて抜いていく形でスタンドまで運びました。左手が強いですね。自分の記憶では彼がチェンジアップを本塁打にしたのは初めてではないか…。と思います。
 前述の1つ目の打撃でも取り上げましたが、回が詰まって打順が降りていくビジターゲームにおいて、勝ちを目指すならこうした中軸の一発が手っ取り早いです。長年の弱点を克服し、さらなる高みへ。それを確信した打撃でした。

 ちなみに自分の1番のお気に入りは、先ほど挙げた7月の楽天戦で見せた宋家豪からの本塁打です。あの打撃は彼がワンランク上の境地に達したのでは…。と思わせるような打撃でした。本当に美しいので、ぜひ、ご覧ください。

☆最後に

 拙い駄文でしたが、ここまでご覧いただき、ありがとうございました。本当に今年の中村奨吾の打撃には見惚れました。レベルの高さを再認識させられましたね。この打撃の醍醐味はぜひ、様々な方々に味わっていただきたいです。そんな彼も来年いよいよ30歳。全くの余談ですが、正直、以前よりも守備範囲が狭くなった印象は受けます。「あれ、それ捕れない?」と思ったときもありました。ポスト・中村奨の問題もそう遠くはないですが、まずは来年。また今年同等の、それを超える打撃をたくさん拝見したいですね。


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