早川麻里

早川麻里

最近の記事

肝臓をいただく、ということ⑥

9北に帰れた! 9北には、ひっそり戻った。 ちょうど看護師さんたちは忙しい時間で、廊下には誰もいなくて静かだった。 でもこの静けさの中にも、手術を待つ人、大切な人のために健康な身体のメスを入れる人、術後の処置をする人たちがいて、そんな思いを支えてくれる医療関係者がいる。 なんか清々しい気持ちだ。 ここから新しい人生が始まるような気がしていた。 9北に移ると夫がスマホを持ってきてくれた。 LINEを見ると思ったより連絡が着ていない。 私がICUにいる間、妹が友達みんなに手

    • 肝臓をいただく、ということ⑤

      手術後これは私があとから聞いた話だ。 手術はほぼ予定時間通りに終わったそうだ。レシピエントで長い人だと日付を超えることもあるというから、順調に進んだのだろう。 夫の手術が終わっても義理の父母、親戚のTさんは残ってくれて、私の手術が終わるのを妹と待っていてくれた。 待つ場所は9階のラウンジなので手術前に私も待っている家族の姿を見る機会がたびたびあった。みんな長い待ち時間になるとスマホを見るのも本を読むのも飽きて、疲れた顔をして座っている。そしてラウンジに看護師さんがくるたびに顔

      • 肝臓をいただく、ということ④

        手術日が決まらない!最初にA先生の診察を受けたとき「すぐに手術しないと、もたないかもしれない」と言われたが、入院中の処置で体調はどんどんよくなっていた。 それでも手術日が延期するかもしれないと聞いたときには驚いた。 東大病院の移植手術は、月・水・金曜日に行われている。 当初、12月11日で考えていた手術日が18日になるかもしれないと聞いたのだ。 主治医のH先生が「より重症な人を優先しなければならないこともあるから」と申し訳なさそうに言っていたから「私が元気だから、先に伸ばして

        • 肝臓をいただく、ということ③

          術前評価入院直後の検査はレシピエントの健康状態を正確に知るために行われる検査だった。 手術前に身体をいかにいい状態にもっていくか。そのための方針をたてるために必要な情報を集めていたということだ。 私はそのころ黄疸を引き起こすビルリビンの数値がありえないほど高かった。 健康な人なら0.2〜1.2 mg/dLくらいなのに、私はいちばん高いときで21まで上がっていたから、肌も目も黄色くなっていた。 鏡を見るのも嫌だった。 また出血が止まりにくく常に貧血で、成分輸血と普通の輸血を1日

          肝臓をいただく、ということ②

          入院生活が楽しすぎる!入院して数日経ったころ、部屋を移動した。 そこからは不忍池や旧岩崎庭園、マンションが見え、小さな兄弟がお父さんと道路でサッカーのパス練習をしている日常風景が垣間見れた。 そこでだいぶ気持ちが明るくなっていき、それとともに周りが見え始めた。 検査がひと段落したころには、個性豊かな病棟スタッフがいる入院生活が楽しくなっていた。 東大病院の1日 東大病院はだいたいこんなスケジュールで動いている。 6:00     起床 検温など 7:30ころ   先生方

          肝臓をいただく、ということ②

          肝臓をいただく、ということ①

          2023年12月25日、クリスマスに肝移植手術を受けた。 ここまで来るのに、長かったのか短かったのか、分からない。 ただアドレナリンが出ていたのか感情の起伏が、いつもより激しかった。 命が繋がったこれからの中で、この1〜2年の特殊な状態は、あっという間だったという感覚になるのかもしれない。 今、感じていることをありのままに綴ろうと思う。 狭き門が狭くなかった肝移植以外、助かる道はない。 そう私に告げた担当医は同時に「肝移植は狭き門」とも言った。 肝移植手術ができる病院も医師

          肝臓をいただく、ということ①