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笑う太陽④ 自問自答
水中から水面を見る。
肺の空気を減らして、水底に寝転ぶ。少し苦しいんだけど、光があちこちに揺れて思考が落ち着く。
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自分の心臓の音だけが頭に響く。
トクトクトクトク…。
まっすぐ帰って、アリーの手伝いをしようと思っていたんだけど、何か心が落ち着かない。
こんな時私は、いつも海に行く。
今日は仕事の帰りだから、マスク・フィン・シュノーケルの3点セットも持っている。
暫く、沖に向かって泳いだ後、呼吸を整えて光が差し込む砂地に寝転ぶ。
トクトクトクトク。
27年間生きてきて、中身重視の私には、一目惚れの経験はない。
なのに、今、気持ちがザワザワしているのはなんだろう。
もしかしたら、私は、あの人に惹かれている…のかもしれない。
でも、それはなんなのか?
あの人に惹かれているのか、あの人の中にあるさくらの面影に惹かれているのか…。
私はどうしたいのか。
また、誰かを好きになろうとしているのか。もし、そうなら、女性同の恋愛が、そんなアチコチに転がっているとは思えない。ましてや日本人だ。
それに、まだ…。
忘れよう
そう思いながらも、こんな場所で気になる人に出逢う。そこには、何か意味があるのかも。もし、縁が繋がっているなら、このまま終わらないかもしれないとも思う。
迷った時によくする、賭けをしてみる。
「この輪っかが、水面まで壊れずに登っていったら、次に会った時に声を掛ける。」
肺に残った空気で輪っかを作る。次第に大きくなりながら登っていく、光りの輪を祈るように目で追う。綺麗。
トクトクトクトク。
頭が、心が、シンっとなる。
目を閉じると、海に溶け込めるんじゃないかと思う。
…が、悲しいかな私は肺呼吸の陸の生き物。頭に響く心音が、濁点を運ぶ。
海底に寝転び続ける事を諦めて、光が揺れる水面に向かう。光の元に登って行くようで、自分の決断がそれで良いと思える。
次会うことがあれば、声を掛けてみよう。自分の心を押し殺さない、そう決めると少し強くなったような不思議な感覚。
なんだか、身体まで軽くなったような感じがして、走って家まで帰る。