本をつくらない編集者は、体験をつくっていく。

■本をつくりたくて編集者になった私が入ったのは、出版社じゃなかった

私がコルクに入ったのはまだ大学生の頃、無償の学生インターンがはじまりだった。
ずっとずっと編集者という職業に憧れていた。
「私は本をつくる人です」と、いつか自己紹介の時に胸をはって言える社会人になりたかったのだ。

だから、大手出版社を狙っていた。
その就活の一環で、編集の現場に入れる機会を伺っていた時、タイミングよくコルクのインターン募集を見つけたのだ。

コルクに入ってからの日々は、想像以上に慌ただしく過ぎていった。
でも、何よりも楽しかった!
知らないことを毎日スポンジのように吸収して、新しいことや挑戦の繰り返しだった。なにより、一流の作家さんのそばで仕事できるのが嬉しくてたまらなかった。

最初は半年だけ籍を置くつもりだったのに、夢中になりすぎてあっという間に1年が過ぎて、2年目も過ぎて、2017年の春、私はその年のたった一人の新入社員としてコルクに入社していた。

それでも途中、何度も悩んだ。
私は本をつくる人になりたかったんじゃなかったのか、と。

コルクは、出版社ではない。
作家のエージェント会社だ。本を出す版元ではない。

作家と一緒に働くけど、学生の時から憧れていた「本をつくる人」にはなれないんじゃないか。

本という形に固執していたのは、いま思えば愛着だったんだと思う。
いままで、自分を形づくってきた作品たちに対しての。

■自分の中の編集者っぽさを真似したら食らった全ボツ

入社後半年くらいは悶々としていた時期が続いた。
そんな時に、そろそろ自分で企画を考えてみないか、という話がきた。

「これだ!!!」と思った。

担当している安野モヨコさんの、本を企画して、つくろう。
それでどこかの出版社に声をかけて刊行してもらおう、と考えついた。
ずっとずっと、やりたくて自分のなかであっためていた企画があったのだ。

それが、「安野モヨコのぬり絵」だ。

コルクには、安野さんのイラストがたくさん保管されている。
カラーはもちろんそうだけど、その前の下絵や線画も全部保管のために取っておいている。

それを、いつも見るたびに綺麗だなぁ、と思っていた。
モノクロの線画だけで、こんなに迫力がある。

それに、公式のインスタグラムで「ぬり絵を出して欲しい」というコメントが、いつからかたくさんつくようになった。

「ぬり絵本をつくろう!!!」

と、新入社員の私は俄然やる気になって、さっそく線画のコピーをあつめて台割りをつくり込んだ。
コピー用紙を切り貼りして、ああしてこうしてって、数日かけて安野さんの線画をたくさん詰め込んだ本のラフらしきものが出来上がった。

同僚の何人かに説明しながら見せて、褒めてもらって、すごく嬉しかった。

で、自信満々になって上司との定例でプレゼンした。

結果は全ボツだった。

ショックだった…。
あんなに時間をかけたのに!あんなに真剣に考えたのに!!

「何を伝えたいのかがわからない」

上司からのコメントは、ずしんと響いた。
数日落ち込んで、でもこうしちゃおれん!とまた企画を練り直した。

安野さんのぬり絵は、絶対に出したかった。これだけは譲れない。

次に考えたのは、ぬり絵を手にした読者の行動だ。
できれば、ずっと大切に手元に置いてもらいたい。
塗ったら終わり、じゃないようにするためにはどうすればいいんだろう…。

しばらくそれで悩んでいたら、ものすごくシンプルなアイデアが思い浮かんだ。

「本じゃなくすればいいんだ」

いや、それはどうなんだよ…と、本をずっとつくりたかったはずの自分にツッコミを入れたけど、そのアイデアはものすごくしっくりときた。

本という形にまとめずに、A4サイズのぬり絵を数枚制作することにした。それで、デザイナーさんにそのぬり絵を収録するパッケージを相談しに行った。上司からはすんなりOKが出た。

デザインの候補はいくつかあったけど、なんども悩んで、安野さんにも相談して、最終的にこれになった。封筒型やボックス型など、他にも色々あったのだけど…。

塗った後にぬり絵がバラバラになってどこかいってしまわないように、ケースをつけるのだ。布張りで、イラストが金の箔押しで入っている。

布張りのホルダは、よくカラー原稿を受け取る際に編集者も使っている。大切にします、という気持ちのあらわれのようで、一目見て気に入った。
きっとコピーをして塗る人も多いだろうし、それを普通のクリアファイルに入れるんじゃ、味気ない。

書店に置いてあるぬり絵本よりは値がはるけど「安野モヨコのぬり絵をする」という体験を、特別なものにしたい。だから、超特製の、高級ケースに大切に保管して持っていてほしい。

それでも、制作には紆余曲折あって1年もかかってしまった。デザインを何度もやり直して、やっと完成したぬり絵。
描き下ろしは含めない予定だったけど、安野さんが途中で描き下ろして、収録する絵柄がひとつ増えた!これは、本当に嬉しい誤算だった。
さらに見本用に、と愛用の120色の色鉛筆で塗り絵もしれくれた!!これを複製原画カードにして、収録。

だから、世界でいちばん豪華なぬり絵ができたんじゃないかって、私は本気で思ってる。


■体験を届ける、ということ

入社1年目、編集者になったのに本をつくることのできないジレンマを抱えていた。
入社2年目のいま、私は本をつくるよりも「体験」を届ける編集者になりたい。

「作家の価値を最大化する」これは、コルクの掲げているミッションだ。そして企業理念は「心に届ける」。

少しでも、貢献できただろうか。
クリエイターと、その価値に。
ファンと、彼らの特別な体験に。


今回の、安野モヨコのぬり絵は1枚1枚に、芸術作品のような美しさを閉じ込めた。塗らずに額装して飾っても、その空間がパッと華やぐくらい、きれい。

色を塗れば、世界にひとつしかない安野モヨコと自分だけのコラボ作品になる。

手元に届いた方が、自由に、全力で、安野モヨコの絵を楽しんで欲しい。

「安野モヨコのぬり絵」は現在注文受付中です。
こちらから

よかったら、のぞいてみてください。
注文は10月10日まで、期間限定・受注生産です。

タイトルには「本をつくらない」と書いたけど、エージェントであるコルクは、「作品づくり」は作家と二人三脚で、ずっと続けている。

安野さんとは、新作についてずっと打ち合わせをしている。
早く、このお話もお届けしたいなぁ。

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