
バカみたいな恋、の話
本を読んでいて、やっとあの恋は正真正銘バカだったと思い返すことができた。
忘れるためにここに書いておく。
出会ったときの印象は、実家暮らしの超冴えない男。女全員に見向きされなさそう。
そいつは、私にずけずけとこう聞いてきた。
「もう結婚しないの?」
きもいしデリカシーなくて吐き気した。話しかけるなこっち見んな。
食べることと料理に貪欲なところだけが似ていて、少しずつ仲良くなり、何人かでご飯食べに行ったりするようになった。
私は歩くことが大好きで、暇さえあれば近所を散歩していた。そしたら一緒に歩こう、と誘われて「ウッこいつもしや」と嫌な予感がした。
悪い予感は当たる。このとき断っていれば良かったのだ。
散歩するようになり、たまに飲みに行くようになった。蕎麦を食べに行き、日帰りで遠出もした。
でも私の壁は高くて堅かった。
もう恋愛とか結婚とは距離を置きたかった。
告白につぐ告白。
猛アタックされたけど、断り続けた。でも男は自信満々で、いつか恋人になる、と断言していた。
ある日、カンパリオレンジがあまりにも美味しくていつもより早いペースで飲んでいたら、目の前がチカチカ光だして急激に気持ち悪くなって目が開けられなくなった。しばらく店の奥であたたかい飲み物を飲んで突っ伏していたが意識が朦朧としていた。
気づいたら抱きしめられ、キスをされていた。顔を二度くらい背けたが強引にされて、力が入らず受け入れてしまった。あったかくてやわらかくて布団に包まれたみたい、と思った。
こんなドラマのワンシーンみたいなことが現実に起こるんだなあって今思い出すと笑ってしまう。
その後、どうしてもあのキスが忘れられなかった。後悔ばかりして、ダメだこんなことやめなきゃ、と何度も考えた。
何であんなにつらかったのに、また会ったりしたんだろう。会ったらすることなんて決まってるのに。バカすぎる。
見事に穴に落ちた。
真っ暗で出口が見えなかった。
つながっている間だけは満たされていたし、それが私に必要だったのだろう。誰かに愛を注いでほしかったのかもしれない。無償の愛を求めていた、それがエスカレートして、自分で何度もぶち壊した。壊してもまた会ってしまった。やさしく触って見つめてほしくて。
それもやっと断ち切れて、二度と連絡取らないと決めた。私の中で切り刻んで殺した。
さようなら、最も罪の重い地獄におちる確定の男よ。