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晴れてシングルマザーになりました

まさかこの私が離婚するなんて。今世紀最大の驚きの出来事。人生って何が起こるかわからない。結婚は永遠だと思っていたし、永遠なのが結婚だと思っていた。人生も折り返し地点を迎え、残りの人生を考えたとき、どうしても夫婦を続けることができなくなってしまった。

離婚を決意してから、書類を提出するまでたったの2週間。滑走路を走り出したら、もう引き返せない。人生ってそういうものだ。先の景色が見えなくとも、勢いをつけて飛び立つしかない。覚悟と勢いさえあれば、人生は簡単にひっくり返せる。直感がGOと言えば、きっとGOなのだ。

春から新しい人生を始めるため、3月の晴れた日に離婚届を出した。確認のため、すぐに住民票が発行される。受け取った瞬間、つい笑ってしまった。夫の後に子どもたち3人の名前が続き、5番目に私の名前があった。

16年間、妻としてずっと2番目をキープしていたのに、最下位に転落。そして、どう見ても一文字しか入らない続柄のスペースに「同居人」の3文字が肩身狭そうに記載されていた。

離婚後、妻を卒業し、同居人という自由な肩書きを手に入れた私は、より羽を広げて生きられるようになった。同居人、なんて軽やかないい響き。これが1年後、大きな問題になることをこの時の私は知る由もない。

離婚してから1年はシングルマザーにはならず、家族の形も変えなかった。新しい人生を始めることを夫は応援してくれたし、離婚を決めたときも夫はあっさり認めてくれた。あきれるほどに執着がなく聡明な人。われながら素晴らしい人を夫に選んだと思う。結婚するのも愛あってこそだし、離婚するのだって愛あってこそだと思う。

そして、1年後、家族それぞれのタイミングがそろい、男子チームと女子チームに分かれて暮らすことになった。私はシングルマザーとして生きていく決意をし、同居人を卒業した。

経済的にも精神的にも自立した立派なシングルマザーになる! 意気込みは十分だ。娘2人を連れ、居心地の良い京都に戻った。心機一転、シングルマザーになるための書類を区役所で提出する。申請すれば問題なく受理されるつもりでいた。それなのに、区役所の職員から思いがけない言葉が飛び出した。

「申し訳ありませんが、事実婚されていますので、受理できかねます。」

「事実婚?! 」

不覚にも区役所で大きな声をあげてしまった。これはだまっていられない。

離婚して1年も経っていないのに、この私が事実婚をしているなんてそんなはずはない。新しいパートナーはいるけれど、事実婚の届けを出した覚えもない。

「何かの間違いじゃないですか? どなたとでしょうか? 」

「結婚されていた方です。」

「いえ、離婚して1年になりますし、もう恋愛関係ではないんです。」

「そういうことは関係ないんです。」

色々なことが理解できず、頭の中が真っ白になってしまった。じゃ、愛ってなんですか? 結婚ってなんですか? 愛がなくても事実婚ってできるんですか?

その質問に答えてくれる人は区役所にはいそうにない。ここは冷静にならなければ。区役所の窓口で、愛だ恋だ言っている場合じゃない。言いたいことは全部こらえて、大人しく説明を聞き、その日は帰宅した。

区役所の職員が言うには、元夫と同居していたのだから事実婚にあたる。事実婚の解消届を提出しなければ、シングルマザーとして認めることはできないと言う。そんなことってあるんだろうか。 本当に信じられない。

私にもプライドがある。正式に事実婚解消届を出せば、事実婚を認めることになる。区役所の書類上で起こっていることはファンタジーだ。私の人生で起こっていることとは全く違う。

私はずっと自由なパートナーシップに憧れていた。今度、結婚するときは、戸籍制度に縛られない事実婚を選びたいと夢見ていた。それなのに知らない間に事実婚をしていたということ、しかも相手は元夫。なんだかとても切ない。

それでも、シングルマザーとして生きていくには、つまらないプライドや価値観は捨て、心柔らかく生きていかなければならない。開き直って、書類上のファンタジーを認めることにした。

生きていれば、思いがけないところで色んなハプニングが起こる。離婚して1年後、思わぬところで事実婚が発覚。慌てて事実婚を解消し、晴れてシングルマザーになりました。

この話をするといつも誰かが笑ってくれる。そう言えば、母が言っていた。離婚のひとつやふたつしておくといい笑い話になるよと。どこかで誰かが笑ってくれれば、それでいい。それでこそ私の人生。

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