5億円の寄付を集めたというカイカイキキのふるさと納税
カイカイキキをご存知だろうか。
世界的に有名な現代美術家の村上隆さんが運営する有限会社カイカイキキは、これまでにも多くのグッズ販売を行ってきた。商品化されたさまざまなものは、村上隆さんのアート作品から生み出されたもので、現在も京都での展示に関連したトレーディングカードやクッキー缶、フィギュアなどが取り扱われている。
そしてこの度、カイカイキキ独自のふるさと納税のためのプラットフォームを作ったというニュースが先日流れてきた。
京都での個展に伴い行っていた村上隆さんのグッズによるふるさと納税は、なんと5億円の寄付を集めることとなったのだとか。今後は、京都以外の街とのコラボレーションによるカイカイキキのふるさと納税が発展していくのだろうか。
村上隆さんのファンも、グッズが手に入って嬉しい、そして寄付もされて街も嬉しい、となると良いことづくしのようにも思えるのだが、このグッズがなかなか大変なようで、争奪戦になり、転売されてしまったり、村上さんご本人を執拗に追いかけてしまうファンの方がいらしてご本人が警察署に駆け込む事態になったりと、色々と大変な様子である。
コロナが大流行し、外出自粛が厳しかった時期、アート界隈は展覧会を中止するかどうかで、ざわついていた時期があった。それぞれの判断により、中止するものもあり、入場制限などをして開催をするものもあり、どちらにしても、関係者も鑑賞者もなんだか心穏やかではない時期があった。その時にとある現代アーティストが主催するギャラリーに、運よく展示を見にいく機会があったのだが、そのアーティスト曰く「これまでに現代アートの展覧会で人数制限をしなければいけないような展示なんて見たことがないのにどうして制限なんて必要なのだろうか」というのだ。まさにその通りなのである。
現代美術の展覧会には、本当に素晴らしい展示もたくさんある。しかしいつもガラ空きなのである。もちろん会期が始まった最初の週末や、会期終了間近の週末などは多少混雑もするし、場合によっては局所的に混雑が見られる場合もあるにはあるのだが、例えば歴史の教科書にも出てくるような仏像がメインの展覧会だとか、若冲展だとか、ゴッホ展のような入場までに大行列で大変だったわ、なんていう話を現代アートの展覧会ではとんと耳にしないのである。あの「インスタ映え」で話題になっていた(それが正しい何かなのかはさておき)オラファー・エリアソンの展覧会ですら予想よりも混んでいるなという印象はあったものの、混乱を極めるような事態ではないし、行列もできていない。
思うに日本の観客たちは、やっぱり「スーパースター」に弱い。
村上隆さんのファンもフィギュアやアニメ方面からアート界隈まで幅広く多く、京都での展覧会も連日大盛況という話を度々聞く。他にも、例えば奈良美智さんのファンも多いので、青森県立美術館での個展には入場のための行列ができたという話も聞く。実際、私も奈良さんの個展を愛知に見に行った時にはチケットを買うためにしばし並んだし、館内もベルトコンベア式に人がじわじわ進なければ見られないような場所もあったくらいの大人気っぷりだった。
村上隆さんも奈良美智さんも素晴らしいアーティストだと思う。けれど、彼らよりも圧倒的に人気のないつまりモテていない、「スーパースター」ではないアーティストたちの作品が、あまり良くないものであるかと言われれば全くそんなことはないのではないかと、時々モヤモヤっとしてしまう。
それでも資本主義経済の一部となった現代アートマーケットの人たちは次のスーパースターを常に探し続けている。アートのグッズ化が悪いわけではない。けれどもそのグッズに殺到する人たちの中に、どれだけ彼らの作品1点1点をじっくり鑑賞しようという気持ちになっている人がいるのだろう。
アート作品に高い値段がつけられることが、必ずしも悪いことだとは思わないし、金のために美術を作るのがダメと断言もできない。なぜなら、資本主義経済の中でアーティストも生きていく必要があるからだし、その社会の中でやっていくのなら、ある程度の割り切りのようなものも必要かもしれないと思うからだ。
いずれにしても、高額な値段をつけられる人もそうでない人も、全てのアーティストが自分自身のことに真剣に向き合い続けてその結果作品が生み出されるということが、消えてしまいませんように、と願う。私はその、真摯な追求を目撃したい。