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ノリと勢いでできる人が羨ましい

以前から同年代のスタッフさんたちに「こいつノリが悪いな」という空気を浴びせられた経験が何度もある。それは口に出して「あんたノリが悪いね」と言われたわけではないので、単なるわたしの被害妄想なのかもしれないのだが、数重なれば日本人特有の読めてしまう空気というもので、なんとなく察してしまうものである。
そういうシーンで大体言われるのが「真面目だねーぇぇぇ」という語尾がうねるように伸ばされるコメントだったのだが、本人としては真面目であるつもりは一切ない。けれども彼らからしてみたらわたしはどうやら「真面目」らしい。この場合の「真面目だねーぇぇぇ」というのは全く褒めていない気持ちを込めて言っているのだろうなということが語尾から伺える。これも被害妄想だろうか。

ノリと勢いが全く理解できないわたしは、着実に任務をこなすために、着実に準備をして確実にこなすしかなかった。だからあまり準備をしていないけれどなんとかなるっしょ、ノリで!と言える人たちが、心底羨ましかった。ああ、わたしもあんな風に、気楽そうにいられたら、楽しいのかなあと思ったりもした。けれどもどんなに努力しても理解できないノリでなんとかなるという感覚は、挑戦してみても空回りで、その都度それは全く向いていない手法だということを確認するだけだった。

ノリと勢いというのは、一体どういう状態なのだろう。
唯一理解できるとしたら、120%の準備をして現場に臨んだ上で勢いがつけばそれは150%の2度と無いようなミラクルな結果になるということくらいなのだが、30%くらいの準備でどうにかなると思うことそのものが全く意味がわからないのであって、しかしそこがわたしの「つまらなさ」なのかもしれないのだが、どうにもならないのである。

もうここまで来たら向いていないことを克服するよりも、できることを着々とやるしかないのであって、無理しても仕方がないのだけれど、やっぱりなんとなく「チッ、こいつノリわりーなー」みたいな空気を感じる時は、いたたまれない気持ちになるのは止められないのであった。

そうかといって、自分は真面目だと思いながら生きられるほど、真面目さを感じることもできずにいる。なぜなら本当に真面目な人というのをわたしは他にたくさん知っているからだ。本気でコツコツ計画的に物事を進められて、心底真面目で、素晴らしく信用度の高い人たち。仕事を任せておけば、絶対に間違いないという安心感のある人たち。

わたしはわたしの周りにいる、わたしの性格を熟知した素敵な人たちのおかげで、自分らしさを発揮できるわけであって、生まれながらの真面目人間かと言われるとそうとも言えないけれどノリと勢いがあるパーリーな楽しげピーポーかと問われれば100%違うとは言えるのであって、なんだか捉えどころがないのである。

兎にも角にも、こういうことだ。

「いい人が周りにたくさんいる人生が、成功した人生なんだって。社会的には成功できなかったとしても、一日一日、充実した毎日を送ることができるんだ、その人たちのおかげで」

『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』ファン・ボルム(著)牧野美加(翻訳)集英社 p.320


わたしの周りには確実に、いい人がたくさんいる。同年代のいい人もたくさんいるし、年下のいい人もたくさんいる。尊敬する素晴らしい先輩たちもたくさんいる。そしてみんな、とても親切に接してくれて、仲良くしてくれる。
常に、素敵な人たちがすぐそばにいる。物理的な距離が離れていても、心の距離はとても近い素晴らしい人たちもたくさんいるし、偶然にも最近は近所に住んでいる素敵な人たちもたくさんいる。その近所の人たちだって、いつかのタイミングで遠くに離れるかもしれないけれど、心の距離はきっと変わらない。

ノリと勢いがある人が羨ましい。
けれどよく考えてみたら、わたしの周りにいる素敵な人たちは、みんな、ノリと勢いでなんとかしているタイプではない人たちかもしれない。
唯一夫が多少、ノリと勢いな部分も無きにしも非ずだが、あれはまた別で、ノリというよりも宇宙と繋がってタイミングを見計らうのが異常に得意で空気を読む能力に長けているだけとも言える。宇宙と繋がっている、というよりも彼そのものがもはや宇宙の塊のような人なので、これはこれで、なんとも比較しようがない。

ノリと勢いがある人が羨ましい。
けれども、羨ましい、と書いている時点で、別にそうなりたいわけじゃないという結論が出ている気がする。そうなりたいなら、そう変われるように努力するはずだし、そうじゃなくてただ「羨ましいなあ」と言っているだけなら、別に本当のところは興味がないのであって、そうなりたいとは思っていないということなのだ。

ノリと勢いがある人が羨ましい。
それはかつてわたしに「真面目ですねーぇぇぇ」と言っていた人たちと対して変わらない発言かもしれない。「羨ましぃぃぃ」ってやつ。

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